◇いい加減◇ 10.31


 現金なもので昨日はあれだけ愚痴っぽくいたのに、今朝とある所経由でナビ決勝のチケットを譲って頂ける事になった途端、僕の心にはメラメラとした闘争心が芽生えてきた。何と形容して良いかは解らないけれど、昨日までどこ吹く風と口を尖らせていただけのやる気の無いサポーターは、急に水曜日の朝何時に起きるべきかを考え出し、憎き瓦斯が主力を温存している事を見て嗤ったり。何ともはや、僕は単純に拗ねていただけなんじゃないか。全くだらしのない。

 行けないものだとばかり思っていたから、実は今日抽選が行われている事すら知らなかった。無意識下で、決勝に関する情報を遮断していたのかも知れない。現地に行っている仲間からのメールでやっとその事実を知り、恥ずかしいやら情けないやら。それでもなかなか火が点かずに燻り続けていた僕の心は瞬く間に燃え上がり、既に臨戦状態に入った。いつ試合が来たって大丈夫だぞ。セカンドステージをひた走るウラワに唯一黒星をつけた瓦斯を、徹底的に完膚無きまでに叩きのめす絶好のチャンス。選手達だって、みんなそう考えているだろう。確かに日程は厳しいかも知れないけれど、それは強者だからこそのものだとも言えるし、疲労の蓄積は僕らのサポートで払拭してやれば良いじゃないか。それが出来るのが、ウラワの素晴らしい所。

 昨日と全く論調が異なるけれど、そんな事は気にせずに。僕の日和見主義は今に始まった事じゃないし、その日その日を楽しく過ごせればそれで良いのだ。そして、ウラワを応援してきて、今程楽しい時間が続くのは初めての経験かも知れない。だからこそ、この時間を大切にして来たる“ウラワ黄金時代”の最初期段階に触れられる幸運を噛み締めて、次の試合へ臨みたいと思う。攻撃サッカーを標榜するディフェンシブなチームを、圧倒的な攻撃力で制圧する、心躍る瞬間。ピッチとスタンドが一体となってそれを求める素晴らしい時間。

 うーん、体中に力が漲って来た。いい加減かも知れないけれど、やっぱり僕はウラワの勝利をゴール裏で感じたい。この喉が潰れんとも、叫び続けたい。チケットを譲って頂いた方に、感謝の気持ちを込めて。

◇ナビ決勝◇ 10.30


 チケットを持っていないというせいもあるのだろうけれど、何だかナビスコの決勝に対して実感が沸かない。というより、去年や一昨年に感じていた様な切実な思いというのが、一向に心の中に浮かんでこないのだ。思い返してみると、一昨年初めてウラワがファイナリストになった時、僕は1週間以上前からその来る日に向けて毎晩心がキリキリする様な感覚を味わっていたし、早く来て欲しい様なそうで無い様な、何とももどかしい時間を長いこと過ごしていた記憶がある。

 去年は去年で、前年と同じ相手という事もあってリベンジという気持ちがとても強く、更に準決勝のセカンドレグをサポーターやスタジアムの雰囲気を含めたクラブ全体の力で圧勝していたから、余裕という程のものでは無いけれど“今回は絶対やれる!”という気持ちが強かった。もう、こんな所では負けないのだ、ウラワはまた一つ違った時代を作り始めるんだ、そんな強気の心持ちが僕を支配していた。それでもやっぱり、まだ何も持たない僕の中には試合が早くやって来ないかとじりじりとした焦燥感みたいな感情が首を擡げてきて、3日くらい前からは決勝の事ばかりを考えるようになっていた。何としてもこのチームを勝たせたい、そんな思いで一杯だった。

 それが今、あの時の様な感情は全くと言って良い程無い。11月3日を待ち遠しく感じる事も無ければ、胃がキリキリ痛む様な事もない。ただただ、安定した精神状態の中でウラワを気持ちよくサポート出来ている自分が居るだけなのだ。これが慢心なのか油断なのか、正直な所自分でも良く解らない。だって、去年初めてタイトルを獲ったのだから、ディフェンディングチャンピオンとして決勝に臨む事だって初めての経験なのだ。この気持ちの変化にどんな対応をすれば良いのか、最善の策は思いつかないけれど、やはりなすがままに任せるしか無いのだろうと思う。こうした意識的でない感情をコントロールするのは難しいし、これすらサポーターとして乗り越えなければならない一つの壁なのだろうから。

 そんな事を漠然と考えながら、仕事先でぼうっと職務をこなしていた。今日は少し遠いアウェイでもあるし、この日に仕事をしておかないと肝心な時に試合を見られなくなりそうだったから、遠征を諦めて働き、毎度の事ながら本来すべき事はそっちのけで携帯端末と睨めっこしながらウラワの動向を逐一追っかけていた。前半の早い時間に達也が先制点を挙げた様子で、また少しだけ去年長居ではまり込んだ悪夢がよみがえってきたのだけれど、今のウラワはそんな思い出の欠片如きでふらつく様なチームではなかった。後半開始直後から降格間際の相手を攻め立て、エメルソンのゴールで駄目を押す。攻撃力が売りのチームを相手に4倍のシュートを放ち、無失点で試合を終わらせる集中力。もしかすると、こんなチームの高い安定感が、僕の焦燥感を奪っているのかも知れないなどと、不埒な事を少しだけ考えた。

 家に帰ってきてすぐさまテレビを点け、チャンネルをBS1に合わせる。速報Jではもはや当然といった感じでウラワの試合を一番始めに映し出し、現地に駆けつけたサポーター達の大きな歌声に後押しされる映像が流れ、ウラワは確かに強かった。きっと、選手達は今までとは違った目線で一つ一つの戦いを見ているのだろうし、同じように精神性も大きく変化していると思う。どんなに勝利を奪っても、冷静に次の勝利を目指して戦うのみ。高いところへ到達する為の方策はそれ程多くの選択肢がある訳ではないだろうし、今のウラワはそこから大きく逸脱しているとは思えない。

 僕の、或る一サポーターの心境の変化が、果たしてチームの変化に対応できているのか自分では良く解らない。ただ一つだけ言えるのは、胃をキリキリと痛めた所で、心がじりじりと焦った所で、チームが勝利するとは限らないという事。泰然自若として目の前の試合一つ一つを戦って行く事が僕は重要だと考えているし、今は実際にそういった気持ちになりつつある。それが自然な流れであり、成長なのかも知れない。

 物事を同じレベルでずっと継続するというのは殊の外難しいもので、それはサポートだって同じだ。同じように進めるという事は、翻ってみれば変化を続けるという事。フットボールの試合も、それをサポートする事も、常に相手のある相対的な事であるし、その変化に追随していかなくては同じレベルの作業は出来ない。勿論、現場に立ってしまえばその時点でこんな下らない妄想はすぐに吹き飛んでしまうのだけれど。まあ、たまにはこうして普段使わない頭を使ってあげるのも悪くないのかなと思う。

 また、次の戦いはすぐにやって来るのだし、僕はそれに向けてまた戦いの準備をするだけだ。果たして次の戦場は、国立霞ヶ関競技場。ナビスコカップ決勝の舞台で、相手は憎きFC東京。4連勝でリーグトップを快走し、チームの調子も頗る順調。チケットの売れ具合も例年通りウラワの方が圧倒的に多いらしいし、国立はまた真っ赤に染まるのだ。整えられた準備は万端、あとは僕のチケットだけだ…

◇あと5試合◇ 10.27


 別に更新をさぼりたくてさぼっている訳ではなくて、ただ単純に毎日が忙しい。勤務先の部署で大幅な配置転換があって、それまで僕の上に居てあらゆる面で障壁となってくれていた上司が他部署へ異動してしまう事になった。今までのほほんと自分の仕事だけをこなしていればそれで全て丸く収まっていたのに、今となっては彼の仕事を引き継ぎながら、更に社内の大きな荒波を受けつつ前へと進まざるを得ない状況になってしまって、つくづく都合が悪い。

 そんな状況にもかかわらず、相変わらず僕の立場は一番下っ端であるのに変化は全くないから、雑用に駆り出されたりする回数は減る筈もなく、ただ自分の時間があっという間に目減りしていくのを指をくわえて見ているだけ。ウラワとの関わり合いも少なくなり、先週末に行われた鹿狩りのビデオだってまだ一回しか見ていない。普通の社会人ならばこんな状況を受け入れ、より仕事に対してモチベーションを上げて臨むのだろうけれど、間違っても僕にはそんな精神性は存在しないから、ストレスは溜まるし鬱屈した心持ちになるしで、良い事は余り無い。

 ただ気が付くと既にウラワはリーグ戦最後の5節を迎えていて、5年前とはまた違った「ファイナル5」に差し掛かろうとしている。降格を抜け出そうとする戦いではなく、栄冠を勝ち取ろうとする為の戦い。サポーターとしてこんなにモチベーションが高まる時は無いし、そういう意味では仕事面でのモチベーションダウンと上手く相殺されるかも知れない。

 そんな訳で、トップの画像を変更してみた。残された5試合を、きっちりと勝利で飾るため。自分の忙しいという言い訳にも打ち勝つため。自分の仕事もそうだけれど、思い通りに物事が進むことなど滅多にないのだから、逆にこうした状況を楽しんでやっつけられれば良い。ウラワが迎えた残り5試合。想像するよりもずっと難しい試合が続くと思うけれど、選手もサポーターも、とても長い間待ち望んできたものが今までで最も近づいて来ているのだから、これからの試合全ての時間、今までやってきた以上の力を出して戦い抜ければ良いと思う。僕も頑張ろうと思う。

◇プロビンチアには負けられない◇ 10.24


 鹿島神宮駅で東京から乗ってきた快速を降り、さあ改札を出てシャトルバスでスタジアムへ向かおうと考えていたら、いきなり反対側のホームへ鹿島臨海鉄道の気動車がディーゼルエンジンを吹かしながら進入してきた。行く前から鹿島臨海鉄道は本数がとても少ないと知っていたので、鹿島神宮駅からはバスか徒歩でスタジアムへ行こうと考えていたのだけれど、こうタイミング良く列車に乗れるのは良い知らせではないかと少しだけ嬉しい気持ちを抱えて、僕は気動車に乗り込んだ。

 駅を出て少し過ぎ、川の河口らしき所の長い鉄橋を渡ると外には幹線道路が見えてきて、そこには何台ものバスが連なっているのが確認できた。良く目を凝らしてみると、その客席には赤い物が目立ち、やはりそれらのバスはさいスタを起点に鹿島へ向かってきた3000人ツアーのそれだった。僕らが乗る列車内でもウラワサポが乗客の大半を占めていて、僕はそんな中で車窓に見える仲間達のバスから何かしらの力を感じていて、2年前に苦汁を飲まされた因縁の地で必ず勝利を掴み取って帰るのだと自分に言い聞かせていた。

 鹿島サッカースタジアム駅からスタジアムへ向かって歩いていくと、丁度開門をして並びの列が動き出した所で、今列に並んでも時間が掛かりそうだから取り敢えずその光景を眺めていた。どれくらい経った頃だろうか、列が徐々に短くなっていってそろそろ入場出来そうだなと思った時、駅の方と駐車場の方から、二つの大きな赤い波がスタジアムの方へうねりながら向かってくるのが目に入った。恐らく、クルヴァの連中だ。特にボーイズ贔屓の考え方をしている訳ではないのだけれど、年に何度か、彼らは震えが来る程格好良く見える時がある。今日はその日らしい。その赤い波が蠢きながら、いきなりWe are reds!と叫び出すから、僕だって負けてなるものかと同じくコールを繰り返す。それをコンコースから眺めていたサポーター達も揃って声を出し始めて、スタジアム周辺の長閑な風景は一瞬にしてウラワを勝たせようとするサポーター達の熱気が支配する様になる。アウェーならではというか、とてつもない一体感を感じた。

 スタンドに入ってもその一体感が失われる事は終ぞ無く、試合前にはバックスタンドとメインスタンドのサポーターが戦い、試合が始まれば途切れる事のない集中力で選手達を後押しし。こんなサポートが、いつでも質を変えずに出来たら良いなと思うけれど、やはり試合毎のモチベーションにどうしたって差は出てしまうから仕方のない事かも知れない。僕らだって、成長の過程だ。

 ピッチに目を向けると、僕は楽しくて仕方がなかった。キックオフの時、山田が右サイドにいるのを発見したからじゃあ前線はどうなっているのだろうと目を向けると、そこには余り良い思い出が無いエメルソン・永井・達也の3トップが鎮座していて、ギドは4バックのチームが相手だからこうした布陣を敷いたのだろうかと考えたりしていた。瓦斯とやった時も似たような形だったし、正直どうなんだろう、上手く行くのだろうか、という考えが僕の頭の中を支配した。けれどそんな心配は無用だった様で、今までならばサイドに張り出していた3トップが、この日は中央に絞って位置して、山田とアレックスが使うサイドのスペースを何度も作り出していた。3トップというよりは、2シャドーに近い形。達也と永井が絞ったポジションを取るから、どうしても鹿島のサイドバックは彼らのケアに追われるし、そうするとバックラインのサイドには大きなスペースが出来るから、特にアレックスが簡単に仕事を出来る時間が多くあった。1点目など、中央の永井から出たスルーパスを達也が流し込んだ。こんな得点シーンは、今までの3トップだったら絶対に見られなかった筈だ。過去の失敗を恐れずに、新たな試みを続けていく。そして、それが結果として表れてきた鹿島戦。もしかすると、このやり方は他のチームに対しても効果を上げる事が出来るかも知れず、その可能性は決して低くない。

 前半の失点はいずれもぷつっと集中が途切れてしまった時間帯に奪われ、その辺りを巧みに突く所に鹿島の強かさを見たけれど、全体を通してみればウラワの方が主導権を握っていたと言えるし、特に後半の半ばを過ぎたあたりからはいつ点が入ってもおかしくない状況になっていた。そんな中で生まれたエメルソンのゴールはとても美しく、彼の技術の高さを改めて知らしめてくれた。スピードだけじゃない、ゴールを奪う為にはゴールの隅に色々な種類のボールを蹴る事が出来る高い技術が必要なのだ。勝利を得るにも、ゴールを奪うにも、それを目指す積み重ねがあってこそ。

 運良く勝てたなどとは絶対に言わせない、アウェーの地で、自力でもぎ取った完全なる勝利。フットボールクラブをサポートしていて、こんなに楽しい時間は無い。それも相手は鹿島なのだ、長い間辛酸を舐めさせられてきた相手をとことんまで叩きのめす至福の時。長谷部が試合後に語っていた「今のウラワにジンクスなんて関係ない」という言葉が、この日の勝利によって僕の中で本当に明確なものとなった。そして、まだ何も終わっていないという事もより深く理解した。試合に勝ったという以外にも、鹿島との戦いは喜びの感情を爆発させられる要素が沢山詰まっていたけれど、その余韻に浸るのもそこそこに次へと目を向けなくてはならない。恐らく、選手達は既に次の戦いへ視線を送っているだろうから。

◇お疲れ様でした◇ 10.22


 神保町に集まった面々は、何故かとてもコアな人達ばかりで、アウェーゲーム参戦率の高さと言ったらそれは半端なものでは無かった。恐らく、僕が最もアウェーに行っていないのではないだろうか。果たしてこうしたオフ会の主催者がこんなざまで良いのだろうかと悩む暇もなく、ウラワを愛する人達の集まりはすぐさまウラワ談義に花を咲かせ始める。殆どが今日初対面であるにもかかわらず、まるで旧知の仲であるかのような素振りで。

 そんな状態だから、2時間制飲み放題の居酒屋で話がまとまる筈もなく、僕らは次を探して夜の神保町を彷徨い歩く事になる。忘れていたのだけれど今日は金曜日で、僕たちには明日鹿島での戦いが控えていたからそれ程深酒をしたかった訳でもなくそれなりの店を探したのだけれど、結局歩いていても席が空いている店は見つからなかった。給料日前の筈なのに、お酒が好きな人達は世の中に沢山いるのだな。それでも諦めきれない僕らに光明が差し込んだのは、今日参加して下さったとある人の一言だった。

 「うちの会社来ます? 近所だし」
 まさか、飲み屋でもなく食事処でも無い所で宴の続きをやるとは思ってもいなかったから、僕を含めてみんな驚きの表情に一度はなったのだけれど、僕はこうしたサプライズが大好きだから、その言葉を大切に、考える猶予を与える事の無いよう迅速に行動を起こして、大勢でコンビニへと寄って飲み物やら乾き物やら買い込んで、提供された場所へと向かった。

 今日集まった人達は職業はバラバラ、年齢も幅広い構成になっていて、普段ならばなかなかまともに話すら出来ないんじゃないかと思わせる様な、雑多な集まりだった。しかし、そこにウラワという魔法の言葉を落とすと、何て事はない、いつもゴール裏で顔を合わせている様な感覚へと瞬時に変貌する。ウラワを通して似た経験を積んできていて、明日だってほぼ全員が鹿島へと集結する。全く違った人生を歩んでいる筈の人々が、ウラワを通す事によって、皆同じ様な絵を頭の中に描けてしまう。何だか、とても愉快になった。

 人様の会社へ入り込んだ上、僕は自分がこの楽しい時間を精一杯満喫しようと、気を遣う事を忘れて楽しむ事だけに没頭してしまった。だからこの集まり自体が上手くいったのかは今となっても全く判らないけれど、少なくともウラワの話だけで数時間があっという間に過ぎ去ったのは紛れもない事実で、そうした時間を新たに面識を持った方々と共有できたという事においてのみ、良かったと思っている。

 スタジアムでも、話をするしないの別はあるにせよ、やはりサポーター達はウラワの試合を通してある意味同じ様な時間を共有しているのだし、だからこそウラワのサポートはどんどんと強力になっていくのだと思う。僕は明日川崎から鹿島へ電車で向かう。バスツアーで行く人、自分で運転して行く人、方法は様々だろうしアリーナへ集まる人もいるだろう。行けない人も含めて、こうした経験の共有が蓄積されていく所に、フットボールクラブを応援する醍醐味があるのだし、僕はそれがサポートを、結束力を、強めて行くのだと考えている。そして僕の人生は間違いなくウラワによって愉快なものになっている。明日もより愉快になれる経験を求めて。

◇週末の◇ 10.19


 今日は連絡のみです。上で書いたオフ会ですが、頂いたメールの結果神保町で行う事にしました。ご希望に添えなかった方、申し訳ありません。一応、明日中にはメールを頂いた方々宛に、店や時間の詳細をお送り致しますので、宜しくお願い致します。

◇マリ戦 ※注アフリカカップではありません※◇ 10.17


 昨日からどうも体調が悪くて、それは今日の朝起きてからスタジアムへ行こうかどうしようか悩む程度のものだった。取り敢えず先に嫁さんを送り出して並びに参加してもらう事にして、僕はしばらく寝床の中で悶々とした時を過ごした。不調を押して参戦する事自体は何の躊躇いもないのだけれど、結局力を出し切れないままゴール裏へ陣取るのは周囲に対しても申し訳が無い。声を出さないクルヴァの住人など、日銀の印のない紙幣の様に全く存在する意味を持たないのだから。今日は恐ろしくチケットが売れていて、バックスタンドは勿論、南側スタンドの上の方に席を取るのも難しいだろうから、余計に僕の悩みは膨らんでいった。

 勝ち点で9の差をつけているとはいえ、相手は昨年から3ステージを連続して制している横浜。好調を維持するウラワではあるけれど、チームのクオリティーに大きな差は無くて、逆に言えばこの戦いを打ち破る事が出来ればリーグ制覇に大きく前進するだろうという事が容易に想像出来る試合。だからこそ、体調が悪いという事を理由に力のないサポートをする事だけは嫌だったし、だったら今日は久しぶりに地上波でも放送があるのだから、ここは潔く参戦を諦めて家から念を送ってやろうかとも考えたりした。

 まあ、結局そんなギリギリのせめぎ合いはやっぱり応援したいという欲求が最後には上回り、僕はスタジアムに間に合うギリギリの時間に家を飛び出した。僕の家からは美園は些か遠くて、片道1時間半きっちり掛かる。幸い、武蔵小杉から目黒線に乗ると、あとは浦和美園までずっと一本だからその間ずっと寝て過ごす事にして、何とか試合へ向けて体力を蓄えようと算段した。

 美園の駅を降りると、そこは異様さを感じさせる人混みで、これだけ混雑する試合前の美園駅周辺の風景を僕は簡単に思い出す事が出来なくて、多分これはさいスタのこけら落としの時に匹敵する動員なのではないかと考えたりしながら、スタジアムへと続く2キロの道のりを走るのに近いスピードで歩いた。その間、嫁さんと連絡を取り合い席の場所を確認して、209ゲートを目指して更に歩く。いつもの様にスタジアムの外周を北門の方へ向かって歩いていると、場内では選手のアップが既に始まっているみたいで、僕は焦りを感じ始めた。それと同時に、身体に巣くっていた不調はどこか遠くへ消え去った様で、選手達のコメントを伝える放送が流れ始めると僕は瞬く間に臨戦態勢へと変化した。全く、メンタルコントロールって重要なのだな。

 試合は、力が拮抗したもの同士にしか出来ないレベルの高いものだったと思う。最近のウラワを見ていると、得点というのはいとも簡単に奪えるものだと錯覚しがちになるけれど、やはりフットボールは根本的に得点が入り辛いスポーツなのだ。その原点を、今日はっきりと見せて貰ったと思う。大きな刀を懐に隠しながら、お互いがそれをいつ繰り出そうか相手の隙を伺いながら、じりじりと時間が過ぎていく。前半はウラワが少しだけペースを握って、後半は横浜が押し込んできた。両者ともに攻守の切り替えがとても早くて、プレッシングのレベルも高い。なかなか思うように攻撃する事が出来ないもどかしさも、リーグで覇権を争うチーム同士の戦いなのだからそれは当たり前の事なのだ。

 チャンピオンシップの前哨戦だとか言われる事もあったこの試合だけれど、ウラワにしてみればまだまだやるべき事は山積していて、まずはリーグを獲る事が最も重要なのだ。それだけを考えれば、リーグの中で最も強敵と目される相手とギリギリの戦いを繰り広げて勝ち点を拾えたという事は、評価しても良いのではないかと考えている。お互いに代表選手と怪我人を抱える中、それ以外の選手達がコンディションに差があった事も事実だし。ウラワは中5日。相手は、中2週間。
 あれだけ厳しくチェックされ続け、ほぼオートメーション化されたカウンターアタックを続けられて、それでもウラワはチームとして良く耐えた。昨年は耐えきれずに3失点して負けている相手に対して、今年は互角と言える試合を繰り広げられた。勿論選手の面々は変化しているけれど、それも含めてチームなのだし、こうした戦い辛い試合を落とさなくなった所に、僕はウラワの進化を感じ取っているし、絶対に今日の試合は良い経験となっている筈だ。

 それにしても、結局僕は毎度変わらずゴール裏へと陣取って、痛む喉を無視して声を荒げ、コールを繰り返し。試合前に消えた筈の不調は、試合が終わった途端に僕の体内へと戻ってきてくれた。きっと僕の辞書には、経験を生かすという言葉は載っていないのだろうな。

◇持たざる者◇ 10.16


 一昨年、昨年と、明らかにチケット争奪は激しさを増してきていて、今年はシーチケ保持者の方々へ先に分配されたという事もあってか、例年に増して強烈に厳しい戦いだった。僕はいとも簡単に負け組へとカテゴライズされてしまい、さてどうしたものかと考えてはいるのだけれど、面白いもので、恐らく僕の様な負け組が増えれば増える程、ウラワというクラブ自体は勝ち組になっているのではないかと思うのだ。

 一昨年のナビスコカップ決勝、ウラワがJ開幕以来初めて“ファイナリスト”になったその時、それまで国立を半分ほどしか埋める事の無かったナビスコカップの決勝という舞台は、想像以上の赤さで染まり、結果負けはしたけれどウラワサポーターの持つ力を存分に誇示する事が出来たと思う。そして続く去年、二年連続でファイナリストとなったウラワの力は既に市場の知る所となり、憎まれっ子世に憚るではないけれどチケットゲッターが巷に溢れ、それでも色んな技を駆使してチケットを入手したウラワサポは再び国立を真っ赤に染め上げ、そしてチームを勝利へ導いた。

 ウラワがファイナリストになるまで、ナビスコカップは日本プロフットボール界において間違いなく三番目に位置するイベントであり、Jリーグ・天皇杯の後塵を拝していた。しかし、ウラワが決勝へ進み美しいスタジアムの雰囲気を作り上げた事で、そのイベントの価値は一挙に上がっていって、今では十分プロリーグのカップ戦として相応しい風格を備えたものになったと思う。そうなのだ、ウラワが通った道の跡には、それと判る美しい花が咲く。

 ナビスコカップがそうであった様に、もしウラワがチャンピオンシップを戦えば、もしウラワがリーグを制すれば、それらの戦いはそれまでと違った価値を持つ様になるだろうし、その事は当事者全体にとって悪い事ではない。カップ戦の決勝だというのに空席の目立つ客席が目に入ればそれはどうしたって盛り上がりに欠けるし、リーグを決する戦いにもかかわらず大きな声援が聞こえてこないピッチはまるで質感に乏しい。スタジアムにいればいつでも体感出来るけれど、ウラワはテレビを通してでも見る者の心を揺り動かす何かを持っている。

 だから、ウラワが成長して勝ち組のクラブへとなっていけば、必然的にそれに惹かれる人達が増える訳で、結果的に僕の様な負け組をどんどんと生み出す事になる。でもそれは、クラブをサポートする者としては喜ぶべき事でもあるし、乗り越えていかなければならない課題でもある。今の所、埼玉スタジアムを使用する試合ならばチケットが手に入らないという事はまず無いし、明日の試合だって見たいと思っている殆どの人がチケットを持っているだろう。アウェーならば、もっと簡単だし。見たければ、見られるのだ。

 僕は所謂ウルトラでは無く、アウェイを含む年間の参戦率は7割弱といった所だ。もっと見たいという欲求はいつでもあるけれど、それでも取れない試合は仕方ないと思う事もあるし、今回のナビスコだって同じだ。試合による重要度の強弱は勿論あって、結果が二つに一つしかないカップ戦の決勝はやはり分かりやすいターゲットだとは思うけれど、僕にとっては明日、横浜を完膚無きまでに叩きのめしてやりたいという気持ちが今はずっと強いし、それは負け惜しみでもない。僕にとってはウラワが勝ち続けてくれる事の方に余程関心があるし、そんなチケットの一枚や二枚どうってことないさ。

 …以上、持たざる者の戯言でした。明日は頑張るぞ!!

◇ホーム・スタジアム◇ 10.15


 横浜戦のチケットが遂に残数3000枚を切って、試合までの数日で、もしかすると完売するかも知れない。2001年の秋、埼玉スタジアムのこけら落としには6万を超える観客が集まったけれど、我がウラワは不甲斐ない戦いであっさりと敗戦を喫して、スタジアムは静まりかえったっけ。僕はあの時バックスタンドのSB席で試合を観戦していて、確かに内容はお寒いものだったけれど、これだけの大きなフットボール専用スタジアムをホームとして使える様になった事をとても嬉しく思ったし、このスタジアムに見合ったチームにウラワが早くならないかなと考えたりしていた。

 駒場には思い出がつまっていてそれはこれからも変わる事が無く、歴史というのはそういう積み重ねによって構築されていくものだから、駒場が持つ一種独特の力はいつまでも変わらない。ただ、クラブは常に変化を繰り返していて、今年の様に大きく羽ばたこうとする時もあって、ウラワはそれに止まらずより大きなクラブへと変貌を遂げたいと願い今を過ごしている。ビッグクラブ、と一口に言うのは難しいけれど、きっとウラワが目指すのは埼玉スタジアムを常時満員に出来る様なクラブなのだろうし、それに見合った内容と強さを常に発揮できるチーム力を持ったクラブなのだと思う。世界中を見渡しても、客席が6万を超すフットボール専用スタジアムを持っているクラブは限られていて、しかもそれを常に満員に出来るクラブは殆ど無いと言っても良い。

 試しに、欧州の主立ったリーグの中で、ホームスタジアムの収容人数が6万を超えるクラブを別表にまとめてみた。別に恣意的にする積もりもないし、データが集められないから抜け落ちているものもあるとは思うけれど、参考にはなると思う。
 因みに今期のウラワは、埼玉スタジアムで行った試合で平均46210人を動員していて、これをスタジアムの稼働率で表すと72.5%となる。上の表でウラワの上にいる横浜Fマリノスは、平均の動員数が25404人であり、稼働率だと35.1%にしかならない。

 だから何だと言われてしまえばそれまでなのだけれど、極東の、フットボールの中心部から遙か彼方に存在するクラブチームが、これ程までに多くの観客を集められるのは奇跡的な事だと僕は思うし、ウラワがこれから進むべき道はここから見えてくるのではないかと思ったりもする。明後日に控えた戦いは、単純にリーグの雌雄を決するというだけではなくて、ウラワが日本で唯一無二の存在であるという事を世間に知らしめる時でもある。明日のチケット争奪戦も大事だけれど、僕は明後日の横浜との戦いが、もしかすると埼玉スタジアム2002を本当の意味でのホームスタジアムへと昇華させる大事な日になるかも知れないと考えているし、そうなった時、ウラワはまた一つ階段を登るのだと思う。

◇東海遠征最終節◇ 10.12


 久々のアウェイらしいゲームを、僕は心待ちにしていた。実際問題としては、アウェイよりもホームの方が何倍も勝率が高いし、特に昨日の瑞穂に至っては殆ど勝利した記憶がないから、フットボールチームを応援しに行って楽しもうとすれば些かリスクは高い。ただ、今のウラワはこれまでため込んできた負の遺産というかネガティブなジンクスを次々と打破する力を持っていて、リベンジを果たす可能性が高くて、それを本心から信じ切る事の出来る自分が居て、そういった積み重ねがこの東海遠征を楽しみに待つという気持ちに繋がったのだと思う。

 和光市の駅で待ち合わせをして車に乗り込んだ時から、僕の心は沈むこと無くずっと沸き立っていて、どうしてだろうかウラワが負ける事をほんの一握りも考える隙すら無かった。高速道路を走っている最中、運転してくれている人を横目についついウトウトしながらも僕の頭の中は瑞穂のピッチで元気よく走り回るウラワの選手で占められ、それは早朝瑞穂に到着して並びの列に参加してから試合が始まるその時まで、全く変化する事無くずっと同じ絵を描いていた。

 試合が始まると僕の夢想はある意味で的中し、ある意味で外れた。中盤の底で奮闘する啓太を筆頭に、間違いなくウラワの選手達はピッチを駆け回り相手に高い圧力を掛けながら素早い攻守の切り替えを見せながら優れた試合運びをしていて、十分に組織された名古屋を相手にしても全く怯む事無く存分に強さを発揮した。特に攻撃陣の決定力は既にどこへ出しても恥ずかしくないものになっていると思うし、そういった意味では僕の夢想は当たっていた。

 しかし、ここまであからさまに苦手の東海アウェイで完勝してくれるとまでは思いもよらず、敵方のコーチは決定力の差を悔やんでいたけれど、昨日の試合はそれ以上に大きな差が横たわっていると感じた。恐らくリーグ戦での試合ならばネルシーニョの発言もある程度納得出来るのだろうけれど、昨日はカップ戦のセミファイナルだ。トーナメント方式の試合なのだ。負けたら終わり。そういった精神的に多大なストレスの掛かる試合であれだけの集中力を保った試合が出来るのは、やはり経験値を多く積んだチームなのだし、3年連続で決勝へと駒を進めたウラワは、気がついたら“勝負強い”チームへと変貌しているのかも知れない。得点差以上に、ピッチに見る選手達の冷静さや落ち着き払ったプレーは、僕の予想を上回っていた。

 最近ウラワとの戦いで良く得点する中村直は試合後に、「マルケスにマークが集中していたので自由に動けた」とコメントしている。ただ、前半の彼はトップ下の選手にもかかわらずかなり頻繁に右サイドへと顔を出していた。勿論得意のプレーゾーンはあるのだろうけれど(海本が怪我をしたのもその理由かも知れない)、2トップにあれだけマークがついているのだから得点を奪う為にはそれを追い越して行くプレーをどんどん仕掛けなければならない筈で、幾ら自由に動けるからといってもサイドへ流れて行ってばかりではチャンスメイクは出来ても得点を奪う事には繋がらない。中村は豊田スタジアムで行われた試合でもウラワから2点を奪っているし、昨日も後半の半ば過ぎに“中央突破”から得点した。それが前半から出来なかった所に、経験という抽象的な言葉の意味を感じ取れる気がする。

 ウラワも名古屋も、中盤の圧力の掛け合いはかなり高いレベルで拮抗していたと思うし、組織的にボールを動かす手法はもしかすると名古屋の方が上手かったかも知れない。ただ、直線的に勝敗へと結びつく得点を奪うパターンは明らかにウラワの方が多くて、最終ラインの集中力もウラワの方に分があった。ギドに言わせれば「妥当な結果」なのだろうし、それに僕も同意する。こうした精神的に負荷の掛かる試合を何度も繰り返していって、チームは少しずつ大きくなって行くのだと思うし、それが実感出来るのはやはりスタジアムにおいて他ない。

 傲りだと言われるかも知れないけれど、やはりスタジアムでチームと一緒に戦っているサポーターはそれだけで十分素敵だし、サポーターのレゾンデートルはスタジアムにあると思う。五体満足に恵まれ、金銭的にも何とかチームを追いかけられるというとても幸運な立場にいる僕は、周囲から何と言われようが出来る限りスタジアムへ行きたい。チームと一緒に戦いたい。それが勝っているからだとか言われる事もあるけれど、その本質は“ウラワだから”という所にしかなくて、そんな事は誰に理解されなくても良い。

 瑞穂にも日本平にも、というか東海地方の各スタジアムからは何度も苦い思い出をプレゼントされたけれど、それでもまたこうして戦いを楽しみに待つ自分がいる。辛い思いを沢山経験しているからこそ、昨日の様な勝利の味は口には言い表せない程のものになるし、それは手に入れたらまた次を欲する麻薬の様なもの。リベンジと簡単にいうと軽い言葉になってしまうけれど、今年程それを僕らが体感出来る時も無い。だって、来年からは復讐を受けて立つ側になるのだから。そういえば天皇杯4回戦は福岡が相手。本当に今年ほどリベンジという言葉が当て嵌まる年はないな。

◇いざ行かん◇ 10.10


 という訳で、これから出発です(10日午後10時現在)。概略は、和光市集合→外環道→東名高速→名古屋→瑞穂、てな感じ。0泊2日の小旅行、頑張ってきます。

◇エメは好きだけどアメは嫌いだ◇ 10.9


 今日最後の営業先である書店さんで話を終えてお店から一歩外へ出るとそこは昼から続く土砂降りで、お店の前を通る片側二車線の駅へと真っ直ぐに続く道は白く煙っていて、それは上から降ってくる雨と、地面を強く叩く雨が跳ね返って出来る飛沫とが合わさった為に出来ているのだろう。こんな天気になると予想して持ってきた家にある中で一番大きな傘を開き、広い歩道に出る。頭上に傘を掲げるとすぐにばちばちと大きな音を立てるから雨の強さが解るし、足下には少しのアスファルトの歪みを利用した水溜まりがそこかしこに出来上がっていて、歩くのに難儀する。

 幸い風は余り強くなかったから雨水が横から吹き込んでくる様な事は無かったのだけれど、それでも僕のスーツは徐々に湿っぽくなっていくし、安普請の革靴は悲鳴を上げ始めて浸水を易々と許してしまう。まあ、今日の営業先はこれで終わりであとは会社へ戻るだけだから、僕はそれ程憂鬱な気持ちになる事無く、駅までの道を急いだ。それにしても、最近どうも雨が多い気がする。聞くところによると年間の降水量は減っているらしいのだけれど、逆に集中的に降る雨は増えているらしい。今日の雨だってかなりの雨量をこの地域にもたらしているだろうし、仕事中に降る雨が大嫌いな僕にとって余り歓迎すべき事ではない。

 15分ほど歩くと漸く駅が見えてきて、その頃には大きな傘を差していたにもかかわらず僕の身体を包む着物は随分と湿気てしまっていた。駅はこの地域の中心的な位置にあって、規模としては随分大きい筈だ。しかしながら駅舎は平屋の簡素な作りで、8番線まである線路の配置と比較すると貧相な感じは否めない。改札を通って左右を見渡すと、通路の片側には白いビニール製のシートが張られていて、その脇には工事中を知らせる立て看板があり、こうした趣のある古い駅舎も少し経つと近代的なものへと変化してしまうのかと思うと、湿ってしまった自分の着物の事もあってなのか、少しだけ悲しくなった。

 工事中で狭くなっている階段を登って、会社へ戻る上りホームを目指す。酷い天気なのは間違いないけれど、この程度の雨では日本の誇る鉄道ダイヤに影響を与える事は出来ないらしくて、少しでも遅れが出ようものならさっさと会社へ電話を入れて直帰しようと目論んでいたから、内心ちっと思ったのは何も僕が仕事嫌いで雨嫌いだからというだけでは無い。そう、明日は瑞穂での戦いが待っているのだ、今日の夜から車で出発して名古屋へと乗り込もうとしているのだ、少しでも体力を温存して明日の戦いに備えようというのは間違った考えでもあるまい。何しろ下手をすれば明日は土砂降りの中朝から並び続け、試合に臨まなくてはならないかも知れないのだ。

 5分程度で電車はいつもと同じ様子でホームに入ってきて、ドアが開くとわっと人が沢山降りてきた。その人の群れをかわして車内へ入ると、そこは雨の日特有のむっとした高い湿度を感じさせる空気に満ちていて、それでも僕はこの空気が嫌いではない。何故ならば、車内に居る限り僕が雨に濡れる事はない訳で、電車に乗っている時間というのは外回りをしていて雨を確実にしのげる貴重なものでもあるのだ。そう思ってすっとドアにもたれ掛かると、そのドアは結露でびしょびしょに濡れていて、傘をさしていたお陰で唯一全く濡れていなかった僕の上着の背中部分から冷たい感触が伝わってきた。はあ、こんなものだ。

 そうする内に電車は都内へと差し掛かり、そうだ今日の待ち合わせ場所を明確に決めていなかったなと携帯電話を取り出してメールを打つ。確か深夜1時に待ち合わせだったけな、と不確かな記憶を手繰りつつ場所を尋ねるメールを仲間へと送信し、返信を待つ手持ち無沙汰な時間は最近買い換えてネットが早くなった携帯電話を活用しようと、i-浦議を見るとそこは大騒ぎになっていた。延期になった名古屋戦の情報が刻々と書き込まれ、一体何が起きたんだろうと書き込みをどんどん遡ると、台風の影響を考えて明日の試合は月曜日に延期になったという事が理解できた。おいおい、準備万端でいたのに。考えている間もなく今度はメールが帰ってきて、今知った情報と同じ内容の事が書いてあって、取り敢えず僕はどうするべきなのかしばし頭を働かせた。

 自分の予定表を頭の中で広げると、月曜日には何の予定も入っていない筈だから、兎に角行こうと考えた。車が出るかは解らないけれど、名古屋へ行く手段は幾らでもある。チケットを無駄にするのも馬鹿らしいし、何よりウラワの戦いだ。雨中、選手達と戦うというのも逆にモチベーションが上がって良いかなとも思うけれど、台風一過、晴れ渡った秋空の下、ウラワのフットボールを存分に発揮する方が良い。選手もサポーターも、戦う環境を選ぶ事は出来ない。ただ目の前にある戦いを、真剣にやるだけ。電車は地下に入ってネットが繋がらなくなってからしばらくして、はたと自分は戦っているのか考え始めた。答えは出ない。

◇名古屋戦へ向けて◇ 10.6


 台風が近づいてきている様だけれど、そんな事は意に介さず今週末は名古屋へと遠征予定。チケットは発売直後に手に入れたし、往復の足も観戦仲間の好意で確保する事が出来た。準備は万端、去年のセカンドステージ14節の怨念を晴らすべく。

 正直瑞穂には余り良い思い出が無いし、実際に数字はそれを冷酷に指し示しているけれど、そんな事を気にしていたらフットボールチームを応援する事など出来ないのだから、逆に今までの鬱憤を晴らす時がやって来たんだとでも考えようと思う。今年のウラワは今まで積み重ねてきた負のジンクスを次々と破っていて、その事が応援する僕の気持ちを後押ししてくれる。本来ならサポーターはチームを後押しすべきなのに、何だか今年はチームからぐいぐい引っ張られている様な気さえするのは、僕だけだろうか。

 今まで何度も書いてきたけれど、ウラワを応援するのに今程面白い時間は無いと思う。より高く、より先を見据えたチームがどんどんと成長しながら勝利を積み重ねていく時。ウラワは将来グランデになり、それであり続けるのだけれど、多分その時よりも今の方が面白い筈だ。Jリーグを開幕から見てきても判る様に、こうした若きチームが伸び行く姿というのは案外見られないものだ。補強が奏功していると言われる今のウラワだけれど、スタメンに名を連ねる面々は思いの外若く、未来予想図がどんな形になるのかさえ解らない程伸びしろは大きい。スタジアムで見るウラワのフットボールは、見る者を驚喜させる力があって、その魔力は今のところ衰えを知らない。

 ただ、僕の様に薄給に苦しむ人、休みが取れずにもがいている人、サポーターの中には断腸の思いで参戦を思いとどまっている人も少なくないと思う。だから、スタジアムへ行ける人達はそれぞれのやり方でチームと共に戦わなければならいし、行けない人達の分まで(大袈裟だけど)よりチームをサポートしなくてはならないと僕は思っている。アウェーの名古屋戦、ホームで迎え撃つファーストの覇者横浜戦、殆ど勝った記憶の無い鹿島スタジアムでの鹿島戦。今週末からウラワは本格的に“天王山”と言える戦いに挑む。先週、先々週と続いた所謂「首位攻防戦」は序章に過ぎない。名古屋から始まる3試合の重要性は、言わずもがな。

 スタジアムで戦うのも、テレビの前で念を送るのも、会社のPCで実況を見つめるのも、現場で携帯片手にウラワの動向を探るのも、授業を抜け出してボルテージでモニターを囲むのも、みんなそれはチームの勝利を求めるための所作。そういうサポーターの思いは間違いなく野を越え山を越えチームに伝わる筈で、サポートだけじゃ勝てないと言われ続けたウラワが今こそ変革する時だ。勝って勝って勝ちまくって、ウラワの誇るフットボールクラブが絶大な存在になる、そんな時だ。

◇個人責任◇ 10.4


 昨夜休日出勤から帰ってきて間もなく、テレビを点けるとアジアユースの試合をやっていたから他に見るものもなくて何となくそれを見ていた。どこかでこの世代は谷間をクリアして新たな“黄金”の世代だという様な事を聞いていたから、それなりに期待していたんだけれどその期待はあっという間に消え去って、ただ漠然としたボール回しと、後手後手に回る中盤のディフェンスが目立つ、言うなれば凡戦だった。

 チャンスは明らかに相手カタールの方が多く、PK戦を制してベスト4へ駒を進めたとはいえ内容的にはお寒いものだったと思うし、しかも残酷な事に見ていてまるで楽しくなかった。勿論年代別とは言っても歴とした代表の試合なのだし、勝利が最も重視されるトーナメント戦なのだから面白い試合を期待する方が酷なのかも知れないけれど、順調に進んだ予選リーグを含めてもこのチームに僕にとっての面白味が欠けているのは事実で、その理由は追い求める必要も無くすぐに理解する事が出来た。個人で勝負を仕掛ける場面を殆ど見られないのが、それだ。

 ウラワを追いかけている人ならばおおよそは理解して貰えると思うけれど、やはりウラワの魅力は技術とスピードを生かした攻撃時のドリブル突破だろうし、少なくとも僕はそれを期待し、相手ディフェンスをズタズタに引き裂くウラワの攻撃を見たいというのが、スタジアムへ足を運ぶ大きな要素となっている。クラブが持つ伝統なのか、ウラワは昔からドリブルを好む選手が多く在籍してきたけれど、それが効果的に勝利へと結びつくシーズンは少なくて、どちらかと言えばボールを持ちすぎるという風にネガティブな判断をされていた事が多かった。しかし昨年あたりから、選手の技量が変化し戦術的な理解度が増し、ドリブルを効果的に得点へとつなげられる様になってきて、ドリブルが得点と勝利に直結する機会が増えてきた。

 そうなると面白いものでウラワの攻撃は今や破壊的なものへと進化していて、リーグを突っ走る原動力となっている。フォワードの二人だけではなく両翼の二人も頻繁に最前線でドリブル突破を試み、少しでも隙があれば中盤のセンターに位置する選手も常に独力でゴール前へと突進しようとする。取り立てて“誰が”というのでは無い所がウラワの凄い所で、どの選手がスタメンで出てきても結局同じ様に個人のスキルを生かして攻撃に挑む事が可能なのだ。これ程までに見ていて心が沸き立つフットボールを僕は他に余り知らないし、毎週の様に今のウラワを見ているからどうしたってユース代表のフットボールが陳腐に見えてきても仕方の無い事なのかも知れない。

 平山は確かに日本人としては驚きの身長を持っていて、それにしてはボールタッチも柔らかいし左右両足で正確なキックを蹴る事も出来るから、身体能力にコンプレックスのある多くの日本人にとって期待値が大きくなってしまうのは仕方がないのだろう。ただ、彼にしても見ているとゴールを背にしたままのプレーがとても多く、ボールを受けて反転しようとする気があるのかさえ疑わしくなってくる様なシーンがとても多い。まあこれは平山に限った話ではなく、ましてやこのチームに限った話ではなく、恐らく日本列島全体がこういったフットボールを志向しているのだろうと思うのだ。

 シンプルにとか簡単にとか、日本のフットボールではぽんぽんとパスを回して相手を走らせて、出来るだけ一人が少ないタッチでボールを動かす事が是とされている様に感じる。それが間違っているとは言えないし、きっと日本人にとってはその方向を目指して進むのが良いと考えるのは、分かり易いとも思う。ただ今のウラワを見ていると、それだけじゃフットボールは進化しないのではないかと思う様になってきた。例えば相手と対峙した時に、後ろへフォローに来た選手へボールを戻して組み立て直そうとする考え方もある。しかし、その時対峙する相手と勝負して抜き去る事が出来た時、相手ゴールに立ちふさがる選手は一人減り、ゴールへ近づく可能性は上がる。ウラワが今期あれだけの得点力を発揮しているのは、まさにそこなんじゃないだろうか。二人三人と襲いかかってくる相手のプレスを“個人”能力で突破すれば、ゴールはもう目の前だ。

 ユース代表やその他日本のフットボールに欠けているのは、実は個人で突破しようとする心意気なのではないか。ウラワにはその心意気を持った男気溢れる奴らが沢山いるし、いつも彼らは僕を楽しませてくれる。心躍らせてくれる。今の所ウラワのユース組織は今一だし、そういった面から変えていくのは難しいだろうから、ここは一つウラワが頂点に立って、ウラワの魅せるフットボールがこんなにも素晴らしいのだという事を皆に理解して貰えれば話は早い。そうすれば、ドリブル突破を繰り返す選手を叱る指導者も減るだろうし、逆にそれをやりたがる若い選手も増えていくだろうから。

◇市原戦◇ 10.2


 外苑前の改札を脱兎の如く飛び出して、僕は国立までの道のりをひたすら走った。仕事に盗られた時間を取り戻すべく。駅からスタジアムまで、本気で走れば数分の距離だから日頃から運動を継続的にやっている人ならば何でもない事なのだろうけど、怠慢な生活を是としている僕にとってはこんな短いランニングでも息の切れる事ったら無い。ちらと時計を気にすると時間はそろそろ試合の後半が始まろうとしている頃で、半分しか見られないのは悲しい事だけれどそれでもウラワを見られる時間が少しでもあるのが幸せだとも考えながら、漸く僕は青山門からスタンドへと入っていった。

 職場から国立へと向かう途中、携帯サイトの情報と現地に居る連れとのメールのやりとりで前半にエメルソンのゴールで先制していた事は知っていて、そう言えば国立へやって来るのはナビスコの決勝以来だなと思い出し、そうする内にウラワのゴール裏から威風堂々が聞こえてきて、それが意図的なものなのかは解らなかったけれど僕はそれでもの凄く気分が高揚してきた。

 こんな時間だから勿論ゴール裏に陣取る事は出来ないだろうと考え、半分だけ開いているらしいバックスタンドに席を何とか確保した。席に着いた直後に後半開始のホイッスルが吹かれ、その後45分間、ウラワは言うなれば風格すら感じさせる試合を見せ続けてくれた。いつもとは違った視界から見えるウラワのフットボールは、殆どの時間何の心配もせずに見ていられる質の高さを持っていて、久しぶりに見る走る市原を相手にしても破綻が無く、本当に強いと感じられるものだった。

 聞けば、前半は結構ピンチを作られていた様だったのだけれど、後半は一方的な展開だったからそれがどうしてもたらされたのか考えていて、多分それは永井の得点が大きな影響を与えたのではないかと個人的に結論を出してみた。市原の攻撃を形作る中心的存在の村井を押さえるべく、右サイドで使われた永井がフォワードを追い越してきて決めたスーパーなミドルシュート。この失点により市原側の思考回路が弱含みになるのは当然の事で、特に村井本人は多少なりとも攻撃参加を自重しようとする気持ちが生まれてくるだろうし。そういった少しのメンタル面の変化が、チームの意識までも変えてしまうのは良くある事だし。

 強さというものがどうすれば得られるのかは今でも解らないけれど、僕はウラワが確実に“強さ”を身につけつつあると感じている。選手の能力によるものなのか、監督の戦術が素晴らしいのか、メンタル的なものが大きいのか、多分全てなのだろう。中核となる選手が次々に怪我で離脱しても、それを補い、新たなるプラスアルファを作り出す今のウラワは、魅力的という他ない。

 いつも見ているゴール裏からの視点とは違ったバックスタンドから見る試合だったからなのか、後半しか見ていないからなのか、相手を圧倒しつくした内容だったからなのか、僕は試合が終わってもどこか夢見心地でいた。今見た試合が本当にリアルなものだったのか、現実感が欠けたぼうっとした感覚のまま勝利の歓喜が埋め尽くす国立のバックスタンドで立ちつくしていると、ゴール裏からアレックスのコールが聞こえてきて、いや本当に良かったという思いが湧いてきた。これでやっとウラワの一員として認められたのかな、間違いなく次はもっと良くなるなと思った。

 僕が感じていた圧倒的な現実感の無さは、恐らく同じスタジアムで同じスコアの試合が続いたからだと思うし、どちらかと言うと既視感の様なものなのかも知れない。そして声を出して応援をしなかったから、自分の中で消化不良になっている部分があって、それがこの気持ちを生み出しているのかも知れない。どちらにしてもウラワが勝った事は圧倒的に真実で、この勝利が目指すものへ一歩近づいた事になるのも間違いない。ただ、勝ったのにもかかわらず僕の胸には煮え切らない気持ちが残っていて、これを払拭する為にはやっぱりクルヴァが必要なのだろうと理解した。

 次は名古屋か。

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