◇焼き肉◇ 9.29目覚めるとクシャミが止まらず、掛け布団を用意せずに眠ってしまった自分の段取りの悪さを呪った。予想以上に気温は低くて、これが昨日と同じ部屋なのか解らなかったくらいで、これが季節の変わり目という奴かとひとりごちた。じゃあ、隣で寝ている連れもさぞや寒い思いをしているのだろう、大丈夫かなと目をやると、何と布団をかぶって寝ているではないか。ううーん、いつのまに。 ただ、クシャミはそれから数分経つと止まって、寒気もそれ程大きくはならなかったから風邪をひいたという所までは行かなかった様で一安心して、取り敢えず体を暖めようと熱いシャワーを浴びる事にした。そう、今日は何としても会社へ出掛けなくてはならないのだ。今夜は仕事にかこつけて取引先と焼き肉を食べに行こうと計画していて、風邪などひいてはいられない。こういったモチベーションがある時に体調を崩すのはめずらしい事で、こんな所でも人間って精神的なものに左右されるっていうのは本当なのだなと、酷い納得の仕方をしていた。 一日中ずっと湿っぽい天気で、夜になっても一旦やんだかと思った雨がまた急に強く降り出したり、台風のせいなのか何だかハッキリしない天候が続く中、僕は先方との待ち合わせ場所である水道橋の駅へ会社から向かっていた。僕は雨に対する好き嫌いがシチュエーションによってくるくる変わり、例えば休みで家から一歩も出なくて良い様な時はしとしとと降りしきる雨に対して好意的な感覚を持つ事が多いのだけれど、こうして仕事で外回りをしている様な時は本当に雨が恨めしく思えてくる。歩き方が下手なのか、僕は雨の日に外を歩いていると右足だけが水を跳ねてズボンを濡らしてしまう事が多くて、グレーや黒のスーツを着ている時は良いのだけれど薄いベージュの着物だと右足だけそこが焦茶色に変色してしまうから情けない事この上ない。今日は雨が降るだろうと予想してグレーのスーツを着ていて、その歩き方の問題はクリアしていたからそれ程雨を気にする事無く地下鉄の階段を登って、JRの水道橋駅へと向かった。 先方と合流して後楽園を背に駅を出て、すぐの所にあるコンビニエンスストアの角を左に折れて目的の店へと急ぐ。雨足はまた急に強まり、僕らは半ば駆け出す様にして店へと向かった。それが雨を避けようとする為なのか、肉を欲するが故なのかは解らなかったけれど。兎に角僕はこれから向かおうとする焼肉店が大好きで、ここ2ヶ月の間で3度目の訪問になるのだけれど、何度食べてもここの肉だけは止められない。そんなに食に対する気持ちが強い訳ではない僕がはまり込んでしまうのだから、相当のものなのだろう。自動ドアを通り、キャッシャーがあるカウンターで予約をしてある旨を伝えるとすぐに目の前の席に案内され、座るや否や紙で出来た前掛けをそそくさと準備して、一気に大量の肉を注文した。 “焼き肉”店であるにも関わらず、上カルビを持ってきた店員は「生でも美味しく頂けます」などと宣うのがこの店の通過儀礼で、初めて来た取引先の人達は目を丸くしていたのだけれど、結局一口食べただけでそれが間違いでは無い事に気づかされる。僕もそうだったんだけれど、やっぱり人は食べ物に対する先入観を大なり小なり持っていて、肉を生で食べるという事に対して違和感を持っている人も多々いるだろうし、何より自分なりの食べ方というものが確立している大人ほど、それとは違ったやり方を受け入れるのに抵抗感があるのではないかと思った。 何もそれは食に限った話ではなくて、フットボールの見方にしてもそういう面があると思う。システムを持ち出さないとフットボールの話が出来ない評論家も居るみたいだし、自分の哲学というかそんな大それた言葉を使う事自体無理があるかもしれないけれど、自分の理想とは違ったフットボールクラブに対して、つい強い言葉を使って無意味な否定をしてしまう人もいるらしい。食べ方にもフットボールにも、勿論セオリーは存在するけれど、そのセオリーを守ってしまえばやり方というのは無数に存在するだろう。そういったものが見えなくなった時が一番危険だし、特にJリーグはまだよちよち歩きなのだから、各クラブがどうやってこの先運営していくかなんて迷いながら進んでいるのが現状だ。今後、選手を育てて売る様なクラブだって出現してくるかも知れないし、“外人”を買い漁って強化を進めるクラブも出てくるかも知れない。 日本人にとって、牛肉を食べる事など百年前であれば考えられなかった事で、しかも生でそれを食べるなど当時の人達からすれば狂気の沙汰だ。しかし今では僕の様な凡庸な人間でも、年に何度もそれをしたいと願い足繁く店に通う。別に良いじゃないか、ウラワが“外人部隊”だって。帰化した二人の事を考えるのは勿論だけれど、僕はそれに関わらずウラワが“外人”だらけになったって釈然としない思いを抱える事は無い。僕はウラワを応援しているのであって、そこにいるのが外人だろうと日本人だろうと全く意味をなさないから。金満だ?外人部隊だ?言わせておけば良いさ。誰が何を言おうと、ウラワが勝つ事が僕にとっては最も大事なのだから。 ◇ガンバ戦◇ 9.26こういった試合がこれから続くのだろうと思う。最小得点差、ギリギリの削り合い。厳しいけれど、こんな充実した時間をどれだけ長く続けられるかに、ウラワの今後がかかっているのだろうと思う。お世辞にも今日の試合は内容的に十分だと言えるものでは無かったし、一つ間違えば勝利を逃していた可能性だったある。相手のある事、そう簡単に物事が運ぶ訳がない。 ただ、選手達は僕が考えていたよりもずっと強い精神を持っていた様だ。中心選手を怪我で欠いた前節に嫌な負け方をして迎えた今日の試合。ホームで行われる首位攻防という事の意味を、選手達は完全に理解していた。フットボールは哲学のスポーツだと僕は思っているけれど、美しく勝つ事が最も重要だと僕は考えているけれど、それでも勝利が最優先される時は間違いなく存在して、今日の試合はそれに値するものだ。試合中降り続けた霧雨、国体で使用されたからかデコボコになってしまった駒場のピッチ、相変わらずファンタジーを発揮し続ける主審。選手の離脱はもとより、相手も同じとはいえ条件は良いとは言えなかった。 そんな中、ウラワは勝つ事に集中しきった戦いを見せてくれて、サポーターも上手く後押しが出来たのではないかと思う。セカンドステージの立ち上がり、余りにも簡単に得点を奪う事が出来て連勝が続いたから僕も少し勘違いしていた所があって、もしかしたらこのまま楽に勝ててしまうんじゃないかと考えていた所も少なからずあったのだけれど、まあそれじゃあつまらないじゃないか。厳しい条件の中を勝ち抜く事ほど心躍る事は無いし、今ウラワに与えられた試練をチームが持つ力全部を使って跳ね返せられたらと思う。勿論、サポートの力も含めて。 具体的にウラワのフットボールはまだまだ模索中という感じで、山田のトップ下起用とか永井の右サイドとか、今までにも無かった訳じゃないけれど、ギドとエンゲルスは今後も少しずつマイナーチェンジを繰り返しながら方向性を定めていく積もりなのだろう。今年ウラワが強烈にレベルアップしたのは、中盤の高い位置から始まるプレッシングであり、それが攻守の基盤になっている。その意味で今日酒井が使える目途が立ったのはとても良かった事だし、彼の持つポテンシャルの高さは山瀬と長谷部を欠くウラワの中盤にとってとても重要な意味を持つ。兎に角、僕は酒井のプレーを見てほっと一息ついた。 僕の夏休みは殆どウラワの試合を見る事とそれを考える事に費やされてしまったけれど、これ程至福の時は無いのだから十分に楽しんだと言えると思う。明日からは仕事が再開するし、今日の勝利が仕事に対するモチベーションを高めてくれたから、僕も負けずに頑張らねば。国立、瑞穂、鹿島・・・。アウェーでもホームでも、ゴール裏で僕も戦うし、それを可能にするために毎日働く。そんな生き方もまた。 ◇時間は驚く程早く進む◇ 9.25僕の夏休みはあっという間に終わりを告げようとしていて、まあこれだけの長期休暇が取れるだけ良いのかなと思ったりもするのだけれど、やはり事前に考えていた事が一つもまともに出来なかったから少しばかり悔いが残る。映画を沢山見たりだとか、日帰りでも良いから旅行に行ったりだとか、そんな計画は予想通り殆ど上手くいかなくて、結局出来た事は映画を1本見る事と携帯を買い換える事だけだった。 まあ、休みの間にウラワの試合が3つもあったから、試合後の休みなどどうせ疲れ切って動けないのは予想出来た事だから、僕の夏休みが計画通りに進まなかったのは必然だったのかも知れない。一事が万事計画通りに進んだらそれは気持ちが良いかも知れないけれど、実際物事がそんなに上手く運ぶ事など殆ど無くて、僕の場合は自分の計画性の無さがその結果を招いているのだけれど、でもきっちり計画を立てていた所でそれが上手く行くという保証はどこにも無く、無秩序な計画とその実現性という振り子の振れ幅の中で僕は生きている。 昨年のシーズンが終わってから今の今まで、精力的な補強を続けてきたウラワにしても結果的にそれが当初の計画通りに進んでいる訳では無くて、ニキフォロフの怪我が無ければアルパイは来ていなかったかも知れないし、坪井が怪我をしなければネネがやって来る事も無かっただろう。ましてや中盤の核二人が相次いで故障離脱をするなどと、誰が当初の計画に練り込むだろうか。フットボールには怪我がつきものと良く言われるけれど、だからといって開幕前に考えていたスタメンの半分近くが戦列を離れてしまったのは、不幸という他無い。 フィジカルコンディションを整えるのはクラブの仕事なのかも知れないが、ウラワの面々が負った怪我は殆ど試合中に見舞われた不慮の事故といった類のもので、まあ防ぎようの無いものばかりだったと思う。坪井に至ってはクラブの試合以外で負傷してしまったのだから、クラブとしては頭を抱える他無いだろう。それでもクラブはそれを補うために素早く行動して補強を続けてきたし、勝ちたいという気持ちは浦和レッズ創設史上最も大きいのではないかと感じている。 これだけクラブが精力的に動いても、選手が怪我をしてしまう可能性が減ることは無い。中盤で攻撃を組み立てるだけでなくディフェンス面でも大きな働きをしていた二人が一気に抜けてしまったのだから、ネガティブな気持ちにならない方が嘘だろう。僕は長谷部の一報を聞いたとき目の前が真っ暗になってふらふらと立ちくらみの様な症状が出てきてしまった。大なり小なり、ウラワに関わる人達は皆同じ様な気持ちを抱いただろうと思う。 だからもう、僕は全く逆の発想をする事にした。どこのチームだって主力の何割かが抜けたら戦力ダウンは逃れられないし、如何に与えられた逆境に打ち勝って勝利する事が重要なのだと考る事にしたのだ。ニキ・坪井・山瀬・長谷部が離脱、闘莉王も一時期肉離れでチームから離れていた。ベンチには入っているけれど、都築だって膝の故障でまともにボールを蹴る事が出来ないみたいだ。けれど、フットボールはチームの総合力で戦うスポーツ。こうして突きつけられた現実は、試練の様なものだろう。仮にこれを乗り切って勝利を勝ち取る事が出来たとしたら、ウラワはまた一歩大きなクラブへと足を踏み出せるだろうし、来期以降の考え方も変わってくる。 苦しみの中もがき続け、上へと手を伸ばした先に待っているもの。それは僕の様に無計画な人間にはきっと一生与えられることのない素晴らしいものだと思う。間違いなく、ウラワの戦力は落ちているし、今後簡単に勝てる試合は一つもないだろう。ただ、ウラワはビッグクラブを目指して進んでいるし、その振り子の振幅は比べるべくもないいけれど僕のそれよりずっと大きい。きっと、この厳しい状況下でチームが勝ち続けられたとしたら、それは何物にも代え難い経験になる。サポーターも、ここは一つ気張ってやろうじゃないか。 明日の試合はまるで謀ったかのように、聖地駒場で行われる。 ◇次、次!◇ 9.24味スタで後ろの席に居た奴らが“永井専属”野次将軍達だったから、僕は普段と比較して2倍以上の声量でコールをして、味方選手を鼓舞する発言を繰り返して、今日の朝起きたら声が完全に潰れ大変な事になっている。これで試合に勝っていればまだ報われた感じもするのだけれど、半ば自滅の形で瓦斯にやられてしまったから何とも寝起きが悪い。折角の夏休みだというのに、僕の心は晴れない。 最近ずっと勝ち続けてきたからか余り気にならなかったのだけれど、昨日のゴール裏にはちょっと問題点があったと個人的には感じている。珍しく試合開始前に“We Are REDS!”コールをやってそれが終わった時に、スタンドのそこかしこから「凄い」とか「うわぁ〜」とかいう声が聞こえてきて、感嘆の声というか自分たちの応援に酔うような感じの溜め息が聞こえてきて、僕はとても嫌な気持ちになった。一応味スタのアウェーG1というチケットで入場していた僕は、BOYSの中心部からもそれ程離れた所にいた訳でも無いのに、そんな場所でもそういった声が聞こえてくるのは何か間違えているんじゃないかと思った。 僕たちは何の為にゴール裏へ行くのか。味方に野次を送ったり、自分たちの応援に酔ったり、まさかそんな事の為に行くのではないだろう。アウェーとは言え曲がりなりにもウラワのゴール裏なのだ。溜め息をつくのはメインやバックにいる人達に任せておけば良いし、僕らは選手達をバックアップして後押しする為に存在するのではないのだろうか。僕も以前は相手選手や審判に対して野次を送る事が多かったのだけれど、その声がピッチに届いている筈もなくそれは全くの自己満足に過ぎないという事が段々と理解出来る様になってきた。そして、そんな事をしている体力があるならば、少しでもコールの声を大きくして飛び跳ねている事が、結局の所最もシンプルに、僕らの思いが選手達に伝わるのじゃないかと思う様になった。だから、昨日味スタで感じたものには強烈に違和感があるし、もっともっと、僕らにも出来る事があるんじゃないかと思いながらサポートをしていた。 ピッチの上でも、山瀬不在の新システムが機能せずにシンプルなフットボールを心がける瓦斯に対して強さを発揮する事が出来なくて、フラストレーションが溜まる一日だった。中心となる選手が怪我で離脱してしまったから、それを補う新しい何かを求めるのはチームを率いるものとしては当然の事で、昨日の試合はそういった谷間に訪れた厳しいものだったけれど、だからといって山瀬がすぐに戻ってくる筈もなく僕らが文句を言っていたって何も始まらないのだから、ギドとエンゲルスを信じてどの様にこのチームを次の試合で立て直してくれるか楽しみに待とうと思う。 昨日は、トップ下を置かない布陣でウラワは試合に臨んだのだけれど、それは連勝中に慣れた形のものでは無かったから選手達にも間違いなく戸惑いはあったと思うし、だけどそれをチームとして選び戦いを挑んだのだから、今更どうこう言っても仕方がない。次の戦いへ向けて、監督・コーチを筆頭にどうすれば勝てるのかという事をチームは必死に考えるだろうし、それが無ければプロではない。昨日の試合中、選手達は戸惑いながらも勝利へ向けて模索し続け、最後には4バックを取り入れてまで瓦斯から勝ち点を奪おうと動いていた。結果的に勝ち点を失う格好になったのだけれど、だからと言ってスタンドが悪い意味での溜め息をつく必要はどこにも無いし、中二日で次の試合はやってきてしまう。 チームは、目標を達成するために頭を使い、体を使い、全力で動き続けるだろう。だから、僕を含めたゴール裏の住人も、どんなサポートがチームにとって最善か常に考えながらやらなければらないと思う。自戒を込めて。さあ、切り替えてガンバ戦に臨みましょ! ◇こんな時こそサポーターの力が必要だ◇ 9.22実は今僕は遅い夏休み中であり、昨日も今日も会社へは行っていないのだけれど、それでも映画を見たりゲームをやったり昔のビデオを見たり本を読んだりネットを徘徊したり、それはとても忙しい毎日を送っている。休暇を貰えたのにもかかわらず、僕が家から出るのは煙草を買いに行く時くらいのもので、あとは専ら部屋の中でごろごろと過ごしている。そんな休みなのだからもう少し更新したら良いじゃないかとも思うのだけれど、実際そういったモチベーションは会社に行っている時の方が上がるみたいで休んでいると自分から能動的に動き出す機会が滅法減って、ホント何もする気が起きない。 今週の平日3日間を休みとしたから、前後の祝日を合わせると都合9連休となる。その間、一昨日映画を見に行った(これが「珈琲時光」という小津監督生誕百周年記念のやつで、台湾の監督が撮った結構な代物。僕には作品の全てを理解出来る能力が備わってないから言い切る事が難しいけれど、もう一度見たいと思ったのは確か。)以外は、ウラワの試合を見に行く予定しか入っていない。これを会社の人達に話すと馬鹿にされるか、奥さんをもっと大事にしなさいとか言われるかのどちらかしか無いのだけれど、その奥さんだって僕と同じ日程を過ごしているのだから仕方がない。 明日は神奈川に住む僕にとって、ウラワのホームよりもスタジアムが近いから、普段さぼっている分朝早く行って並ぶつもりだ。アウェーG1とA自由席が売り切れて、ホームG1が残っている状況下で行われる試合。ウラワとしては色々と積もるネガティブな要素もあるし、ちょっと緩かった新潟戦を払拭して魂のサポートをしなくてはならないと思う。その結果がチケットの売れ方に現れていると思うし、多分これまで行われた味スタの試合の中で最も赤く染まるそれになるだろう。誰それの為に、と簡単には言いたくないけれど、是非明日はウラワが持つポテンシャルを存分に発揮して、今のウラワがどれだけ素晴らしいチームなのかを示す良い機会だと思う。 みんな頭の中に思い描いている絵は同じだろうし、選手達だってそうだと信じている。何もする気が起きない連休でも、ウラワの試合だけは別だ。明日は、いや明日も、全身全霊を込めてウラワをサポートするつもり。そうだ、喪章をつけていこうかな。 ◇馬鹿ほど良く考えた積もりになる◇ 9.20昨日も一日寝て過ごしたというのに、今日も寝起きは最悪で十時を過ぎたあたりで漸く目が覚めた。嫁さんはとっくの昔に起き出して色々と家の仕事をしてくれていたらしく僕に対して少し不機嫌な眼差しを送ってきていて、仕方ないじゃないか新潟戦で疲れていたんだからなどという言い訳が頭の中に浮かんできたもののそんな事を言ったら火に油を注ぐ結果になるのは容易に想像出来たから、ここは素直に謝ってそそくさと布団から抜け出て身支度を急いだ。新潟戦は強がってみたものの、南側スタンドがオレンジ色に染まった光景を見て自然と声が大きくなり飛び跳ねる量が増えて体にかなりの負担が掛かっていたらしく、なかなか疲れが抜けていかない。 怠い体を奮い立たせて出掛ける準備をする。今日は嫁さんの実家へ遊びに行こうという計画だったから、本来もう少し早起きしなければならなかったのだけれど、寝坊してしまったものは仕方がないから電話を入れて少し遅れる旨を伝えた。いつの頃からか嫁さんの実家へ行く事に対して緊張感を持つ事が減って、今では自分の家に帰るのと同じくらいリラックスした心持ちで向かう事が出来る様になってしまった。これが良い事なのかは解らないけれど、少なくとも険悪な関係では無いのだから余り失礼が無ければ良しとする様に、自分では納得している。 シャワーを浴び、歯を磨き顔を洗い、通り一遍の身支度をしていると徐々に体に活力が湧いてくるのが感じられて、これは毎度毎度繰り返される感覚で、幾ら疲れていてもこうして支度をしている内にその日動こうとする力が出てくるのだ。いつも不思議に思うのだけれど、人間はこうして毎日疲労と回復を繰り返しながら少しずつ老化していくのだろうと、うっすらと感じている。 準備を整えて家を出ると、9月も末に近づいてい??††?るのにも関わらず相変わらず気温は高くてまだまだ過ごし辛い感じはするのだけれど、日差しはもう夏の強いそれではなくなっていて、そんな辺りに秋がやって来ているのを感じる。真夏日だろうと、間違いなく季節は変わっていこうとしているのだ。こうした日々感じる本当に微量の変化が、日本人の機微を作り上げているのだと思うし、その事を考える時間はそんなに多くは無いけれど、それでも自分の人格形成に少なからぬ影響を与えているのだろうとも思う。普段いちいち考えない様な事が、実際はその事に大きく風向きを変えられているというのは良くある事だ。 久しぶりに訪れた嫁さんの実家。つい2年前までは全くの他人だったというのに、今では僕の事をまるで本当の息子のかの様に接してくれる家族。自分でも未だに信じがたいのだけれど、僕はこの家の家族として振る舞う事を今では何の不自然さも無くこなしているし、それが当たり前だと思う様にもなってきた。嫁さんの両親は、これまた当然の如く僕を笑顔で迎え入れてくれて、お菓子だの何だのと次から次へともてなしをしてくれて、何だかとても心地よい空間がそこにはある。こんな風にされると遠慮を知らない僕はどんどんと増長してしまうのだけれど、彼らが何故与えてくれるのか考え込んでしまう時もあるし、そのまま安閑としているのも少々居心地が悪かったりもする。 自分の親でも連れの親でも、やはり彼らが自分の子供(またはその配偶者)に対して何らかの表現をするのは当然なのだろうし、僕には子供がまだいないから本当の所を考えるのは絶対に無理なのだけれど、この関係性はどこかで見た様な気がしていた。 先週の土曜日は、新潟に埼玉スタジアムへいつもより多く人を入れられて少しだけ苛つきを感じ、チームの屋台骨が大怪我を負ってしまい戦線を離脱し、普段とは少し感じが違った週末だったから色々チームをサポートする事の意味を考えさせられた。どういったサポートが本当にチームの為になるのか、勿論ウラワはJリーグが始まってからの時間ずっとその事ばかりを自問自答し続けてきたのだろうけれど、僕自身がそこまで突き詰めて考えた事は無かったし、日曜・月曜の二日間その事ばかりを考えて過ごした。その結果が、今日の出来事で明確になりつつある。 親子の関係、それ一つとっても千差万別人それぞれ様々な形があると思う。ただ、基本的に間違いのない形と言えるのは「親から子への表現は一方通行」という事だと思う。見返りを期待しない表現とでも言えば良いのだろうか、叱るのもおだてるのも、与えるのも取り上げるのも、全ては親が子供の成長を願ってやる事だろう。それに対して親は子供から一切の見返りを期待してはいないと思う。僕は子供としての立場しか無いから大きな事は言えないけれど、恩返しとか親孝行とか、子供の側から考えるものはあったとしても、親がそれを期待して子供に何かをするという事は余り無いんじゃないかと漠然と考えている。 余りにも綺麗事過ぎるかも知れないが、サポーターとクラブの関係はそれに似ているのではないかと、僕は勝手に考える。クラブがどんな状況に陥ろうとも、例え常勝の時期があっても脆弱な時期があっても、常に同様のレベルを保ったサポートをする事がサポーターのあり方じゃないかと僕は思うのだ。クラブにどんな事態が訪れたって、僕に出来る事は一生懸命応援する事しか無いのだから。新潟の応援に負けてなるものかとか、山瀬を怪我で欠いてチーム力が落ちたらどうしようとか、そんな事を気にするのは馬鹿げているという事にやっと気がついた。僕はただ、ウラワが正真正銘の“グランデ・ウラワ”になる日まで変わらぬ応援を続ける。そしてその念願が叶った後も、また変わらぬ応援を続ける。そうしたいと思う。 ◇重たい一日◇ 9.19あれだけの動員力を目の当たりにすれば、本来もっと頭に来たり悔しさを感じたりする筈なのだろうけれど、昨日僕は南側スタンドの大部分がオレンジ色に染まっているのを見ても、余り何も感じなかった。試合前から南側の並びに紛れ込んでくるオレンジ色の人達を見ていたけれど、彼らの顔には悲壮感や険しさといったものが決定的に欠けていて、それはスタンドの応援でも変わることが無かった。正確にどう表現して良いか解らないけれど、何というかスタンスが全く違うのだろうなと感じた。僕らとは、全く違う世界を生きているのだと。だから僕はいつもと変わらぬサポートが出来たし、ピッチ上でもいつもと変わらぬウラワのフットボールが見られた。 立ち上がりこそ引いてくる相手に少し戸惑った感はあったけれど、ネネが先制点を奪って以降ウラワは普段の集中力を取り戻して素晴らしいフットボールを繰り広げた。ウラワは前半の半ばから後半の途中まで、一体これはどこのリーグのチームなのかというくらいレベルの高いプレッシングを続けていて、そこから繰り出されるハーフカウンターやポゼッションからの崩しなど攻撃面でも相手を圧倒し続けた。前半で3点を奪い、後半の立ち上がりにもエメルソンの驚くべきゴールが生まれて、その後も圧倒的なウラワペースは変わらなかった。 新潟がボールを持ってもそれを攻撃につなげる事は殆ど出来ず、ウラワはいとも簡単にボールを奪って自分たちのフットボールを何事も無かった様に繰り返す。試合前の何となくまったりとした感じは確かに嫌だったけれど、試合を見ていると強さを積み重ねてきたチームが感じられて、ゴール裏もそれに対して自信を持ったサポートが出来ていて、多分こんな時間はウラワを応援してきて初めてと言っても良いものなのじゃないかと感じていた。 この強いチームの中心となっているのは、勿論エメルソンである事は間違いのない事実だけれど、攻守に実効的な働きをしてチームがより効果的に動けているのは山瀬による所が大きい。トップ下の選手があれだけピッチを広く走り回るのを僕は見た事が無いし、あれだけスピードのあるフォワードの選手に追いつき追い越せる選手はなかなかいないと思う。放っておけば前線が孤立しがちなウラワの選手構成の中で、山瀬が居る事によって攻撃の全体的な厚みが増すし、ディフェンス面でもアレックスと長谷部が並ぶ左サイドのカバーを試合中何度でも繰り返す。セカンドステージの好調は、山瀬と啓太、長谷部の3人が並ぶ中盤のバランスが飛躍的に向上したのが大きな要因となっているし、だからこそ山瀬の戦線離脱はとても痛い。 ただ、ギドも言っていた通り、これによってチームのバランスが崩れる事は無いと思うし、逆に言えばそれでチームが失速する様な事があってはならないと思うのだ。シーズン前の補強がここで生きてくるだろうし、それがクラブの総合力なのだ。今、ウラワの生命線は中盤の強烈なプレスだと僕は考えているし、誰が代わりに入るのかは解らないけれど、今のバランスを崩さずに戦っていく事は十分可能だと思う。 そりゃ、チームとすれば痛手である事には間違いない。どう考えても替えの利く選手でない事は僕だって理解しているし、あのシーンを招いた要因になる事象を頭の中に思い浮かべては憤りを覚えたりもする。けれども、そんな事をしていたって山瀬の怪我が無くなる訳ではないし、どう考えても一番悔しくてやるせない思いを抱いているのは本人なのだから、周囲が出来る事は限られてくる。自分が離脱した事によってチームが失速でもしようものなら、山瀬にとっては二重の苦しみになってしまう。彼の代わりに出る選手は、それ以上を求めて動き回ってくれるだろうし、僕らはいつも以上のサポートをする事しか出来ない。怪我はフットボールにつきものだし、こんな大きな怪我を二度も負ってしまった山瀬の事を考えると今でも何でだよと叫びたくなる。だからという訳ではないけれど、来期彼が戻ってきた時に、ウラワがチャンピオンチームになっていなくてはならないと、そう思った。 新しく、アップローダーを作ってみました。試験運用中ですがお気軽にご利用下さい。あと、grandeurawa.comで運用していた掲示板を、ここのサイトからもアクセス出来るように変更してみました。 ◇集中力◇ 9.17酒を飲むと気が大きくなると良く言われるが、僕の場合その正反対で酒を飲んで酔っぱらうと普段から酷い集中力の欠如がより顕著になり、注意力はどんどんと散漫になっていく。酒が廻って気が大きくなってついついみんなの分を支払ってしまうなどということは僕には絶対になくて、逆に今財布に幾ら入っているかを常に考えて今日の支払いをどうやって少なくしようかなどとせこい事ばかり考える様になるし、目の前にいる相手との話に集中して周りが見えなくなるという事も無く、遠くでお偉いさんがこそこそ話がしているのが目に入ってきて一体どんな内緒話をしているのかが猛烈に気になったりする。 特に僕は取り立てて気のつく人間では無いのだけれど、酒の席だけは誰のコップが空いているという事をすぐに気づいてしまって、やりたくもないのにお酌をしたりしてしまうし、気分が悪くなった人を見つけ出すのも決まって僕で、これもまた何故だか知らぬ間に介抱している自分がいたりする。どことなく良い感じになっている男女を見つけ出していいなあと指をくわえたり、酒の席では無礼講の筈なのにここでも上司に長々と説教をくらっている人を見つけては可哀想だなあと思ったり、実際僕にとって宴の席はとても忙しい時間なのだ。アルコールに犯され続けたこの3日間、その事を改めて気づかされた。 ただ僕の散漫な精神は酔いが回っている時に限った事ではなく、集中力が無いのは小学校時代から続く永遠の課題であり、それは仕事においても私生活においても常につきまとってくるもので、僕の生活に大きな影響を与えるのと共に、様々な色づけもしてくれている。会社で交渉用の資料を作るためにPCへと向かっている時でも、僕の耳はいつでも前後左右で繰り広げられている会話に聞き耳を立てていて、少しでも面白そうな話が飛び込んでくればすぐにそれに参加して笑いを共有したいと考えて資料作りをほっぽり出してその会話に参加するし、そうする内に自分が何をしていたのかをすっかり忘れて違う仕事を始めて、また数分経つと資料作りをしていたのを思い出してそっちへ戻ったりする。 電車に乗って文庫本にのめり込んでいると自分で思っている時も、実は集中して本を読んでいるのではなくて本に書いてある活字の上っ面を目で追いかけているだけで文章の意味が頭に入ってこずに、隣から聞こえてくるカップルの楽しげな話し声に耳を傾けたりだとか、対面に座っている若いお兄さんが読んでいるスポーツ新聞のキャッチを追っかけていたりとか、30分も電車に乗って文庫本を開いていたのに結局4ページくらいしか読み進められないのは良くある事だ。連れと買い物なんかに出掛けても、当初自分が見たかった筈のDVDデッキのコーナーに行ってもものの数分で飽きてしまって、連れは一生懸命に値段を見たりしながら比較検討しているのを横目に、隣接する携帯電話のコーナーへふらふらと歩いていって物色を始め、それを見つけた連れに怒られたりするのも日常茶飯事だったりする。 これ程までに注意力散漫な僕が、唯一絶大な集中力を発揮できる場所があって、それは言うまでもなくウラワの試合が行われるスタジアムだ。クルヴァに立って選手紹介が行われている時間でもまだ、僕の集中力は高まらない。相手がどんな布陣でくるのだろうとか、今日のウラワはどんなフットボールを見せてくれるのだろうかと考えを巡らせている。ただ、場内にファーストインプレッションが響き渡るや否や、僕の心は早鐘を打ち始め、目に入ってくるものは緑のピッチに広がったウラワの選手達だけになる。試合がどんな内容だろうがそんな事は全く気にならなくなり、全身全霊を込めて応援する事だけに注力する様になる。90分の間、自分が何を考えていたか後で振り返っても殆ど覚えていないし、試合が終わった後は勝とうと負けようと、ただ呆然としている。 アウェーゴール裏がいつもより少しだけ広くてそこがオレンジ色になっていようとも、11月に狭い狭いスタジアムで行われる試合のチケットが取れるか解らなくても、相手がとっても強くて大変な試合だろうとも、相手が弱くて余裕で勝てるなどと考えている時でも、一旦試合が始まってしまえば僕はウラワが勝つ事しか考えなくなるし、それ一点のみに集中した精神力を発揮する事が出来る様になる。僕にとってこれは凄い事。生まれてこの方“集中して何かをやる”という事を出来なかった人間に対して、ウラワはこれ程までに大きな力を与えてくれるのだ。これで力一杯応援しなかったら嘘だし、だから僕は明日もスタジアムへ向かう。 ◇言い訳◇ 9.15当サイトを見に来て頂いている方々、大変申し訳ないのですが昨日・今日・明日と飲みの席が続いておりまして、酒に弱い僕は全く頭が働かず更新が出来ない状況でございます。今日もアルコールによって思考回路は完全に麻痺していますので、何も出てきません。何卒、ご容赦の程。 ◇見えない壁◇ 9.12大体、前半で4得点を奪ってしまったら後半のモチベーションを保つのは極めて難しいと思うし、それでも今日は全体的な動きが重い中それなりに試合を終わらせる事が出来た。これが、強くなったと言わずして何と言うのだ。 ディフェンスラインの左にネネが入っても大きな混乱を見せる事も無かったし、勿論これは相手の力量の問題があるから攻め込まれなかった分馴染むのには好都合だったのかも知れないけれど、ギドはそれを見越して今日ネネの起用を決めたのだろうからその強かさにも感心する。また、後半試験的なのだろうか平川がボランチに入って、急にその辺りからドタバタしてしまい失点を喫してしまったけれど、これも4点差というアドバンテージがあったからこそ出来た事だと思うし、本当に今のウラワが持つ得点力というか前線の力量に感嘆の声を上げたくなる。 強くなろう、トップを目指そうというチームだから、こうしてアウェイゲームで完勝しても細かな所を指摘したくなる気持ちも僕の心の中に少しだけあるけれど、逆に今日の試合を見ていると伸びてきた箇所も存分に発見出来て、テレビ観戦ながらも気分はウキウキしたものになっていた。例えばネネ。左利きでブラジル人らしい柔らかいボールコントロールをするディフェンダーは、後半太ももを痛めて退いてしまったけれどそれまでの時間十分に安定したパフォーマンスを発揮していたし、何より彼がディフェンスラインに入ったお陰かアレックスもいつもより楽しげにプレーしていた様に感じる。つい先日、インドでフル出場してきたばかりだと言うのに、明らかにウラワはアレックスを起点に攻撃を仕掛けていた。左サイドに左利きの選手が並ぶというのはポゼッションに安定感が出るから僕は結構好きで、無理な体の向きをしなくてもボールを受けてパスが出せるから一歩が早くなり綺麗なパスワークが実現出来る。ネネに関しては体調も十分ではないだろうし、怪我の具合も気になるからまだ何とも言えないけれど、彼がフィットしてくればまたウラワは一つ高い次元に進めると思う。 嫌な時間に失点して一気にムードが悪くなるという悪癖も、徐々に改善の方向へ向かっているとも思う。大分はウラワの下に位置するチームだけれど、マグノ・アウベスや高松、吉田といった好アタッカーを有していて、得点力に関しては全く侮れないチームだ。それでも今日は嫌な時間に失点する事もなければ、“やばい”と感じさせる時間も無かった。フットボールは常に相手との相関関係によって成り立つから簡単に表現する事はいけない事だとしても、少なくともウラワは安定した試合運びという面では前に進んだと言えると思う。 僕は今日実家に帰っていて、両親を巻き込んでのテレビ観戦だったから大分の状況が全く判らなかった。ただ、中継で得た情報だと、ビッグアイは雨の為に屋根が閉められていてとても蒸し暑い状況だったらしいし、屋内でやるフットボールの感覚はやはりいつものそれとは違うだろうし、そういった状況の中無理なプレスをせずにこうして勝ち点3を得られたのは、とても大きな事だと思う。何だかんだ言っても、今年求められているのは“勝利”なんだ。前半に4点という大量リードを奪い、後半はペースを落として交代枠を全て使い切り余裕を持った試合運びをする。いつだって慢心する事に対して注意力を落としてはならないけれど、こうした良くコントロールされたゲームを続けるのは、勝ち続ける為には必要な事だ。 ウラワは勝つ事を本当の意味ではまだ知らない。それはチームだけじゃなくて、僕を含めたサポーターだってそうだ。どうすればトップになれるのか、それは勝ち続ける事でしか知る事の出来ないとても難しいもの。内容が良くても、どんなに素晴らしいフットボールを繰り広げても、16チームの中で最も勝ち点を多く奪わなければ知る事が出来ない、見えそうで見えない、そんな抽象的なもの。だから、今日の様にチームやピッチのコンディションが悪くても勝ち点を最大限に奪っていくのが最も重要な事で、今日勝てた事がまた一つチームに“勝ち方”を教えてくれる。強くなったウラワが、どうしても乗り越えなくてはならない壁があって、それは今急速に高さを低くしてきている。さて、どうやって乗り越えてやろうか。 ◇雨◇ 9.10取引先で仕事を終えて車で会社へと戻る途中、急に空が暗くなり強い雨がフロントガラスを叩き始めた。飯田橋駅のガードの手前で信号待ちをしているとその雨は急激に強くなっていって、車から見る景色がいきなり艶っぽくなった。上を走る総武線の車両を見ているとすぐにそれはガラスに降り注ぐ雨粒によって形が崩れてしまうのだけれど、定期的に動くワイパーによってまたその形が見えてきたりして、そんな繰り返しを見ている内に信号が青へと変わり僕は車を動かさなくてはならなくなった。ただ、その繰り返される動き(景色が崩れ、また綺麗に見えてという)を眺めていると、何故だか今のウラワのフットボールを思い出し、変な気分になっていた。 飯田橋から竹橋の方へと車を走らせ、降り続く雨に視界を遮られるからワイパーを一番早く動く様にして、前方の景色とワイパーの動きを何度も見比べる。その内に、僕が何故ワイパーの動きを見ていてウラワのフットボールを思い出したか何となく解った。それは、今のウラワに“連動性”がある事で、例えば相手が中盤でボールを持っている時に、ウラワの中盤は何人もが同じ意図を持って相手を囲みボールを奪い、その後あっという間にフィニッシュまで持って行く。最近、こんなシーンを何度も見るし、それがパターン化されているというのではなくて、ピッチの至る所でそういった選手の意図を感じるプレーが飛躍的に増えてきていると感じる。 選手がボールのある所へわっと集まり、相手ボールの行き先を限定してその先でさも当然といった風情でボールはウラワへと渡り、その瞬間にはもうウラワのフォワードは得点へ至る最短のラインを見つけてポジションをとっていて、そうすると狂いの無いパスがすっと通ってしまう。勿論こんなに良いシーンばかりではなく、個人が独力で突破してチャンスメイクをする事も多いけれど、僕はこうしたチームの連動性が感じられる動きが明らかに増えてきたと感じていて、それが雨粒を何度でも繰り返し消し去っていくワイパーの動きと酷似していると思った様だった。 そうなると今度は楽しくなってきて、ワイパーが連動性なら僕の運転する車はドリブルだと思い立って、ウインカーを何度も出して右へ左へ車線変更を試みたりしたんだけれど、やっぱり会社の車だし自分の運転に自信は無いしで結局車線変更をしたのは2回だけで、しかも本来乗る筈だった高速道路の入路から外れてしまって下で会社まで戻ったから、いつもなら30分の道のりを1時間ちょっとかけて帰る事になってしまった。ただ、たまにこうしていつもと違う道を走るのも悪くなく、飯田橋にある取引先から目黒にある会社までほぼ体が覚えていた道のりを外れたから、少しだけ道に迷ったりしたのだけれど、その事も僕の中に少しだけ残っている探検心を煽り、今度は車線変更はしなかったけれどここを曲がったら近いだろうなどと考えながら知らない道を運転するのはドリブルで相手を抜いていく事と似ているのかなとか考えられて楽しく、今のウラワの強さはこうした所にあるのだと思った。 チームとして決まった事を有機的な連動性を持って選手全員がこなし、その上でプラスアルファである個人の力を存分に発揮する。定期的な動きだけではすぐに相手に読まれてしまうし、個人の力だけでもそれは同じだ。ウラワの持っているエンジンが素晴らしい性能曲線を描くのは昔からだけれど、ここまで燃調が整ったのは初めてかも知れない。ギドとエンゲルスがコンピューターなのかジェットなのかは知らないけれど、どちらにしてもチューニングを繰り返すうちにベストのセッティングに近づいているのは間違いない。 僕は大分や新潟を舐めているとかそういう気持ちは全くなくて、変な甘ったるい空気を危惧していたりする訳でも無い。ただ、そういう時代は過ぎたんじゃないかと思うのだ。相手を甘く見て戦うなどという精神風土は今のウラワには無いと思うし、こうして徐々に形が見えてきたウラワの新しいフットボールを、更なる高みへと押し上げようとするものが最も強いんじゃないかと思う。この相手なら勝てる、ではなくて、全ての相手に勝てる、と思わない限り、望んでいるものはやってこないと思うし。そして、僕らが今まで持ち得ない望むものを“絶対に取れる”という信念がクラブにもサポーターにも必要なのだと思う。僕は大分へは行けないし、そんな輩が何を言うかと自分でも思うけれど、それでも今週末はまた一つ伸び行くウラワを見たいし、チームはそれを見せなくてはならないと思う。大丈夫、ウラワならやれる。 ◇週の半ば。◇ 9.8磐田戦の後半、同点に追いつかれてから20分くらいの間、僕はこの試合を勝てると信じてサポートしていたし、もしこれでもう一度勝ち越して勝つ事が出来れば、今期のウラワが期待する大きな事を達成してくれるだろうと考えた。先走り過ぎかも知れないし、慢心と捉えられるかも知れない。だけど、こういった感覚的なものが実は僕にとっては重要で、チームを信じるというのはこういった事の積み重ねがあって出来てくるのだなと思った。 その翌週に行われたナビスコカップの準々決勝。飛車格落ちとは言え3期連続でリーグ優勝をしている横浜Fマリノスに勝った事で、その感覚に拍車が掛かってきた。ホームでの強さを生かしたとか、相手が戦力的な問題を抱えていたとか、理由は後からなら幾らでもつけられるけれど、同じ様な状況でも去年のセカンドステージの試合はホームで0−3という惨敗を喫しているのだし、間違いなくチームとして勝利を奪う手段が増えてきているのが感じられて、僕の思考回路はどんどんと前向きなものとなりつつあり、僕はそのただ中にいる。 今までのウラワならば、これから続く大分と新潟との二試合に対して楽観的な意見が出たり、それに対して楽観視している時に限って負けるんだ、という意見が出たりしたものだけれど、もうウラワはそんなレベルにはいない。これからの2試合は、勝てるだろうとか負けるかも知れないとかではなくて、どんな内容を伴ったとしても絶対に勝たなくてはならない試合であって、それを可能にする力は既に身につけていると僕は思う。 リーグ戦で勝てなかった瓦斯に勝ち、味スタで勝ち、昨年から続いていた苦手の東海・関西アウェーで神戸に勝ち、ネガティブなジンクスを一つ一つクリアにしてきて、そうする内に僕の中のウラワに対する感覚も少しずつ変化してきたし、恐らくそれはウラワを見ているサポーターの全体的な意識にも変化はあると思う。そして勿論、チームにも。選手にも。 次節で当たる大分がどんなフットボールをしているのか、僕は相変わらず良く知らない。大分のサポーターには大変申し訳ないのだけれど、もう僕らはこんな所で立ち止まっている訳にはいかないのだ。相手によって戦術をころころ変えたりする必要はウラワには無く、勿論スカウティングはチームスタッフが十分にやってくれるだろうけれど、ウラワは伸び行く今のチームが目指すフットボールをただピッチの上に描き出そうとさえすれば良いし、そうする事で間違いなく結果はついてくる。僕らもチームが最大限の力を発揮できるサポートが出来れば良い。 優勝する為には、落としてはならない試合というのが間違いなくあって、特に15試合で決着がついてしまうJリーグのシステムでは負けられる試合は恐ろしく少ない。上位を伺うチームとの直接対決は勿論、2試合続く下位チームとの対戦を落としている様ではその目指すものも覚束ない。先制されようと、同点に追いつかれようと、僕らは磐田から決勝点をもぎ取り、横浜から逆転勝利を掴み取ったのだ。こうして得た自信をクラブは蓄積するのだし、強豪はこうして育って行くのだと思う。 安定感を欠くウラワ、文句ない攻撃力を持ちながらも失点の多いウラワ。ただ、それは急激な勢いで成長を見せるウラワの、過程なのだ。このチームが最終的にどんな絵を描くのか。今の状態は、漸く下書きが終わったくらいなのだろう。それでもファーストステージでウラワの上にいた2チームからは勝利を収め、更に上を目指している。こんなに楽しい時間を、僕は他に知らない。 ◇日常の風景◇ 9.63週連続でさいスタが続いて、この2週間はゴール裏で雨中飛び跳ねていたから、今日の月曜日はやっぱり右腕と両ふくらはぎに筋肉痛を感じていて、喉はガラガラ、腹筋とお腹周りの筋肉からも痛みを訴えられるという極めて困難な状況の中、這々の体で会社へと這って行った。勿論勝利をこの目で見届けられたから気分としては上々のものだったけれど、時間ギリギリに家を飛び出して駅へと飛び込み、反対側のホームへ入ってきた電車に乗ろうと階段を駆け上がると、余りの体の重さに吃驚してまだ土曜日に蓄えた身体的な疲れが抜けきっていないのが判った。歳だなあ。 それでも冷房の効いた電車を乗り継いで会社最寄りの駅に着く頃にはその冷えた空気で体は元気を取り戻していたのだけれど、降りるや否やむっとした湿った空気が僕にまとわりついてきて簡単に得られた元気は簡単に失われてしまった。まあ、月曜日はウラワの試合があった時でもなかった時でも同じように憂鬱なのは変わらないから、気を取り直して会社へと続く緩く長い上り坂をてくてく歩く。駅を降りた時に会社には十分間に合う時間だと確認していたから、今日はいつも以上にゆっくりと歩いていると、後ろから肩をぽんと叩かれて、振り返ると川崎サポの先輩が「よかったね!」とだけ声を掛けてくれてそのまま僕を追い抜いていった。僕は満更でも無かったのだけれどそういえば川崎は雨中の小瀬で0-0エンパテに終わっていたのを思い出し、先輩の背中へ向かって「残念でした!」と声を張り上げた。 会社に着くと少し離れた所に座っている内勤の女子が虚ろな瞳で事務処理をこなしているのが見えて、その仕草が何だか機械のような無機質さを感じさせたからどうしたのだろうとひとしきり考えると、そうだ彼女は鹿島サポであり中田浩二サポでありリバプールのチャビ・アロンソのサポであった事を思い出し、何故上尾に住んでいながら鹿島サポなのかという疑問はさておいてあのフェルナンドのPKは無いだろう、可哀想に。と思ったから声を掛けるのを今日は止めておこうと思った。瑞穂くんだりまで遠征して、負けて帰ってくる悔しさは僕も知っているのだし。 僕も自分の席に着いてPCの電源を入れ、さて今日はどうしたものかと、当日にならないと働かない仕事に対する思考回路の電源も入れようかとしていた矢先、今度は営業部の扉をガラッと開けて同僚が堂々とした仕草で「おはようございます!」と入ってきて、彼のもの凄く晴れやかな顔を見てとても違和感を感じた。彼は基本的にとっても良い人なんだけれど、実際その感情を顔に表す事は滅多になくて無表情がデフォルトになっている様な人だったから、彼の輝く様な笑顔を見る事すら希であり、どうして今日に限ってこんな清々しい顔をしているのだと訝しがった。さては、週末キャバクラで良い事でもあったのかなと邪推するもそれは全くの外れで、名古屋出身の彼が実はグランパスサポーターだという事が今日判明し、瑞穂には行かなかったらしいのだけれど土曜日の彼は好きなネトゲーもキャバクラも断ってスカパーに齧り付き、グランパスの応援をしていたらしい。彼にそんな側面があっただけでも驚きなのに、尚かつ彼は僕にこう言った。「次の瑞穂ではこらしめてやるから、まあ覚悟しときな」 おいおい、今時“こらしめてやる”って。それは良いとしても今まで散々名古屋の地では嫌な思いばかりしてきたのだからそろそろこっちが勝ちますよと僕は言ったのだけれど、今までのクールさが嘘の様に彼は熱くなっていて、口角泡を飛ばす勢いで現状の名古屋がどれだけ調子が良いかを異様な熱気を持って語り始めたから僕はこれに付き合っていると大変な事になりそうだなと思い、そそくさと外回りに出る準備を始めた。 営業に出ようと鞄に資料を詰め込み、ぎっしりと重そうになったそれを持って早速不快な表情を顔に浮かべた僕は、駅を降りてからたかだか30分くらいの間にサポーターの悲哀をこれでもかと感じ取らされた。いや、本当にみんなあからさまだよな、もっと自重しないと社会人なんだから、勝った負けたでその度に一々日常にまで影響を及ぼす様な精神状態を続けていたら周りにも迷惑を掛けるし、疲れてしまうよ。などと考えながら重たい鞄を持ってさあ出掛けようと席を立とうとすると、隣に座るまた違った内勤の女子から話しかけられた。 「○○さん(管理人の名前)ここ最近機嫌が良いですよね。レッズが勝ってるんでしょ? 負けてる時は○○さんずっと機嫌が悪いから恐くて恐くて。勝ってると楽しそうだから、これからも勝ち続けると良いですね」 ・・・、一番ご迷惑をお掛けしているのは、僕だったらしい。 ◇雨の中お疲れ様でした◇ 9.5体調が万全という訳ではなかったから、家を出て武蔵小杉の駅について南北線に乗りそこから浦和美園へ着くまでの長い間、今日はどこで見ようかと悩み続けていた。だらしのない事にこの日のチケットはまだ購入しておらず、逆に言えば指定で見るという選択肢もその時は残されていて、試合の最中に雨が降るらしいと告げる天気予報を信じて、またアッパーでウラワの勇姿を見るというのも悪くないのかな、などという弱気な考えが僕の頭を支配する時間も少なからずあった。 でも結局、開門ギリギリの時間に北門付近へと到達した僕は、いつもの面々と顔を合わせた途端にそんな考えを思考の外へと追いやってしまい、何ら普段と変わる事のない面持ちでそろそろ先発隊が動き出そうとしている列に並んだ。北門広場に設置されたテントで当日券を買うのも初めての経験だったけれど、見上げた空は鉛色に曇ってぽつぽつと雨も降り出してきていたけれど、そんな事は既にどうでもよくなっていてやっぱり僕はゴール裏で応援するしか能がない人間なのだと悟った。調子が悪いとかそんな風に理由をつけて応援をサボタージュするのは簡単な事で、ピッチで戦う選手達にはそんな言い訳をする事は許されないのだから、僕も出来る限りやろうと考えた。よくもまあ我が侭な僕がそんな風に考えられる様になったなと感慨に浸っていたけれど、これもウラワのお陰かな。 スタジアムに入って、コンコースで時間を潰しながら喫煙所を行ったり来たりして、試合の前に感じる緊張感を緩和する。試合前はいつだってこうで、少しでもじっとしているとどうしても試合に対して色々と考えてしまい、過緊張からお腹が痛くなったりしてしまうし、そのままの状態で試合に入るとまず間違いなく前半で体力を使い果たしてしまい後半はろくに声が出なくなってしまうから、いつもこうやってスタジアム内を彷徨く。歩いているとゲートから見える南サイドスタンドの様子が嫌でも目に入ってきて、トリコロールカラーのパラソルが見えてマリサポも面白いものを持っているななどと思っていると、緩衝地帯の向かって左側に居る筈のウラワサポが全く見えなくてそこには青い椅子が静かに佇むだけだった。これまでさいスタで試合を見てきてこれ程までに寂しいスタンドの情景は初めてのもので、それに対してはやっぱり悲しい気持ちになった。 ただ、ファーストインプレッションが流れ選手達がピッチへと入ってくれば対面のスタンドに人が沢山いるかどうかという事は全く気にならなくなり、僕はいつもと同じ様にコールを繰り返し、ブーイングに精を出す。予報通り荒天に見舞われたスタジアムだったけれど、さいスタのピッチは素晴らしい吸水性でそれを微塵も感じさせず、スタンドも素晴らしい熱気で雨が降っている事などみんな忘れたかの様なサポートが出来たんじゃないだろうか。スタジアムを埋める人数が少なかろうと、そこは紛れもなくウラワが主催する試合であり、かえってゴール裏はアウェイゲームの様な一体感を持てたのでは無いかとすら思えた。また性懲りもなく声を涸らしぐったり疲れるまでサポートしてしまった僕は、気がつくと体調が悪かった事を忘れ、というよりもその不調がどこにあったのか判らなくなるくらい元気になってしまい、如何に人間が精神的なものに左右されるのか感じたりしていた。 試合後コンコースで合羽を畳みながら帰り支度をしていると、そこかしこから勝利の余韻から脱しきれないサポーターのコールが聞こえてきて、何だか去年の11月に同じ様なコンディションで行われた試合の後を思い出して、僕は楽しくて仕方なかった。確かにウラワの主催試合で最低の観客動員だったかも知れないけれど、それがどうしたと言うのだ。間違いなくここにはウラワの勝利を信じてサポートする奴らが沢山居て、雨に濡れそぼつのを意に介さず精一杯の声を上げる奴らが沢山居て、それだけで十分じゃないか。試合前に考えていた弱気の虫が出てこなくて本当に良かった。僕には観客動員を増やす事など出来ないし、必死に応援する事しかできないのだから、これからもそうして行こうと思う。そうする事でしか、昨日の様な楽しい時間を味わえないのだし。 ◇来年30になります◇ 9.3磐田戦で雨中応援したせいなのか、決算期を抜けて余りにも気が抜けてしまったからなのか、会社を休んだり寝込んだりしているという訳ではないのだけれど今週はどこか調子が上がらずにいて、外回りを終えた今日は何だか会社に戻るのがとても面倒臭くなり、飯田橋から直帰する事にした。そのまま帰っても良かったのだけれど、これだけ早く帰れるのも久しぶりだから直接家に帰るのも勿体ないと思い、飯田橋で南北線に乗るのを止めて東西線に乗って、九段下経由で神保町へ寄ろうと考えた。 神保町のA5出口の階段を登りながら、携帯電話を取り出して電波が入るのを確認してから会社へと電話を掛けて直帰する旨を伝える。これから書店さんと打ち合わせなんですよ、と誰も信じない様な言い訳をしゃあしゃあと話ながら出口の際でティッシュを配っているジーパンにTシャツを着た20代前半に見える若者を避けて歩道へと出て、神保町交差点の信号が青に変わるのを待つ。一橋の方角を向いて横断歩道を見ていると、仕事を終えたらしいサラリーマンたちが片側2車線の靖国通りを挟んだ向こう側に沢山見えて、信号が変わると彼らは神保町の駅を目指してこちらに雪崩の様にやってくるから僕はそれをすいすいとは言えない程度のステップでかわして横断歩道を渡り、向こう岸についたらすぐに左へと折れる。 少し歩いた先の右に僕が良く行く喫茶店があって、そこは細長い白いビルの1階にある。取り立てて何かが凄く良いという訳ではないのだけれど僕は実際この喫茶店をかなり気に入っていて、神保町でお茶を飲む時は滅多な事が無い限りここに来る様にしているから、今ではメニューを見なくても、というより店に入る前から大体何を注文するかが決まっている様になっていて、今日は時間も良い頃合いだし夕食を摂ろうかと考えていたから店の扉を開ける頃には僕の頭の中にはカレーの匂いが充満していた。 席に着くと、目に飛び込んでくるのは壁面に描かれたサイケデリックな絵画。テレビで良く目にする女性画家の作品らしいのだけれど、誰が描いたというのは兎も角、すっとこの店の雰囲気に入り込ませるこの絵を僕は嫌いではなく、だからといって凄く好きというのでも無くてただ座った時に目にするこの感じが好きなのだ。程なくして頼んだ食事が運ばれてきて僕は舌鼓を打ち、その後に用意されているコーヒーも濃くて“良い感じ”だ。食事を終えると煙草の煙を絵画に合わせてなのか水色に塗られている天井へ向けてふーっと吹いて、鞄から文庫本を取り出す。 濃いコーヒーを飲みながら、いつもならまだ会社に居るだろう時間に文庫本に目を落とす。何とも堪らない幸福な時間で、僕にとってはウラワの試合を見るのに次いで重要なひとときなのだ。こうした時間は日頃の鬱憤を見事なまでに払いのけてくれて、日々の仕事にストレスを感じている脳を休ませ癒してくれる効果がある。ぼーっと本を読んでいるだけなのだけれど、これが自分の家じゃ駄目なのだ。こうして喫茶店に来て、少しだけお金を支払って場所を借り、雰囲気を借り、その中で本を読む事が僕にとって、それはかけがえのないものになっている。サラリーマンとしてこうした態度が正しいのか判らないけれど、僕はいつでも帳尻さえ合わせれば良しとするスタンスで仕事をしているから、暇な時はこうした時間を過ごす事も多々ある。 ただ、僕みたいな人材ばかりが会社中に蔓延ったらそれはそれで問題だろうし、総務経理にこんな奴がいたら会社はすぐに傾くだろうと思う。本当にいつも凄いと思うのは、やはり毎日1分たりとも違わぬ時間に会社へとやってきて、細かくしびれそうな仕事を淡々とこなし、それでいて残業も厭わない様な真面目に働く方々で、僕みたいに調子よく飛び回って仕事をしているんだかしていないんだか判らない様な存在から見ると、じっと会社にこもって数字と睨めっこしている人達にはただただ感服するのみで、きっと本当は彼らの様な存在が会社を支えているのだとも思う。 今のウラワには、僕のように帳尻を合わせれば良いと考えている様な選手は居なくて、ピッチに広がる全員が与えられた職務を全うし、更にそれ以上を目指して動いている様に見える。本来、実力の半分程度しか出さなかった筈のキャプテンもベンチから外されたのが効いたのか、それ以来見違える程の運動量と集中力を見せ続け容易に右サイドを奪還している。そう言えば僕はキャプテンと同い年なんだっけ。ああ、僕もそろそろお尻に火がつく頃合いだな。 |