◇日々の◇ 8.31台風の影響なのか、とても強い風に煽られるようにしながら中山道を上がっていって地下鉄の駅を目指す。駅が見えてくるとぼさぼさになった髪の毛を右手で整えながら階段を下り、2センチ四方程度の大きさのタイルがびっしりと並べられた壁を見ながら改札を目指す。タイルの隙間にある本来白い筈の部分は黴によってどす黒く変色していて、足下を見るとコンクリートの上に塗られた緑色の塗料が所々変色したり剥がれたりしていて、駅構内で僕の目に入ってくる風景の印象はどうにもぼやけたものにしかならない。天井で光っている蛍光灯の光量も少なく感じるし、全体的に薄暗い感じがしてそれは僕の心証を映し出している様な気がした。 ホームで電車が来るのを待っている間もその感覚が抜ける事は無くて、線路の間に数メーター間隔で立っている太い柱には無数の亀裂が見えてそこから水がしみ出している所を見ていたりするうちに、僕の中で霞がかかっているある考えが、鮮明になるどころかよりぼやけていった。駅の墨っぽいイメージとは対極にあるステンレス製の銀色に輝く電車がホームへ静かに滑り込んできて漸く僕ははっとして顔をそちらの方へ向けたのだけれど、これまた駅の風景とは不釣り合いなホームドアという極めて未来的な設備が電車のドアと寸分違わぬタイミングで開いた瞬間に、車両の中から発せられるどこかしら酸っぱいような匂いを僕は鼻腔に感じて、ああ“なる程”と思ったりした。 だからといってそれで僕の考えが綺麗に整理された訳では全く無くて、その“なる程”という感覚は駅構内のバランスの悪さの理由が何となく理解出来たというだけの事だ。僕が悩んでいたのはそんな事ではなく、取り敢えず車内でぽっかりと開いていた椅子に腰を下ろして鞄からサッカー雑誌を取り出してぺらぺらとめくってみた。彼が表紙に来るとは、何というタイミングの良さなのだろうと僕は不思議に思っていたのだけれど、長谷部が劇的なゴールを決めたから表紙になったのか、それとも元々この表紙の予定だったのかは僕には判る筈もなく、ただ我らの長谷部が表紙を飾っているという理由だけで買い求めたサッカー雑誌が僕の考えに少しだけ光をもたらしてくれた。 最近ずっと悩んでいた事の一つに、このままウラワが大きくなっていったら一体何が待ちかまえているのかという事がある。ウラワの若き才能あふれる選手たちがリーグで頂点を極め、チームが素晴らしい完成度を持った時に、何を考えるのかという事だ。ステレオタイプの意見としては、やはりいの一番に出てくるのは海外移籍という言葉だろう。事実海外へ出ていく事がフットボール選手にとってステップアップの第一歩という考え方が間違いなく浸透してきているし、海外のフットボールクラブも日本人が持つ価値を理解した上で、そこそこの実力を持った選手ならば獲得を躊躇しないクラブも出てきている。まだ一度もリーグ優勝したこと無いのにそんな事を考えるのは早いのかも知れないけれど、それでもウラワの煌めく才能を毎週この目で見ていると、いつ彼らがそんな考えを持ってしまうか戦々恐々とする時がある。 でも、それで本当に良いのだろうか。確かに選手としてのキャリアを積みあげてスキルを上げるためには、より高いレベルで戦う事がとても重要なのだろうし、それはボカとの闘いを見ていて理解する事はできた。ただだからと行って単純にそうする事が選手にとって最高の幸せなのかは判らないし、海外へ出て行って失敗して帰ってくるというリスクは間違いなくあって、それが選手の可能性を逆にそぎ落としてしまう可能性だって無いとは言えない。選手にとっての理想は勿論人それぞれ違うのだろうけれど、闇雲に海外で挑戦する事が全て善と言い切るのは僕にとって難しい事なのだ。Jリーグに現役生活の全てを費やし、尚かつそれが選手にとって最大の幸福である様な現実を僕は望んでいるし、またそうする為には何が必要なのかとずっと悩んでいるのだ。 長谷部を特集したページの中に彼のコメントがあって、そこにはこう書かれていた。 「サポーターが見ていて『このチームは強いな』『うまいな』と思ってもらえるようなチームを、レッズで作りたいし、そこで中心として動ける選手になりたいと思う。」(サッカーマガジン2004年9月14日号から抜粋) そうか、とひとりごちた。僕らは間違いなくJリーグの中で最も優れたサポートをしているという自負があるし、リーグの中で唯一、雰囲気のあるスタジアムを作り出せているとも思っている。今が完成形の訳ではなくて、チーム同様サポートもどんどん進化して行かなくてはならないとは思うけれど、多分そういう事なのだと思う。ウラワに来てくれた外国籍の選手達は、大なり小なり僕らのサポートを評価してくれてきた。それが励みにもなったし、時には嬉しくて涙が出そうになった時すらある。選手にとって、自身の能力を限界まで成長させたいという欲求があるのは容易に理解できるけれど、それを上回る程の何かを持ったクラブが自分の側にあるとしたら、果たしてそこを離れたいと思うのだろうか。 ここから先は僕の勝手な思い込み。海外へ出て行ったって、干されて試合に出られないかも知れないし人種差別を受けるかも知れない。実力が全く通用せず、頭を垂れて情けなく帰国する事だってあるだろう。勿論そんなネガティブな要素を含めて、自身の成長に繋がるのだろうけれど、逆にウラワ程の愛情を持ったサポーターに囲まれたクラブは世界中探してもそうそう見つからないとも思うし、そこでプレーする喜びを感じながらフットボール選手としての人生を送るのだって悪くない事だと思う。何故エメルソンが未だにウラワに在籍しているのか。チームを離れたギドやウーベやペトロが、たかだか極東の島国で行われるカップ戦の決勝にわざわざ足を運ぶのか。悪く言えばウラワから戦力外の烙印を押された選手が、何故引退後ウラワの地に戻ってくるのか。きっと、ウラワには何かがあるのだと思うし、それを作り出しているのはサポーターたちに他ならない。 僕にとってはウラワが一番で、日本代表とか海外サッカーはどうしたってその次になる。ウラワの勝利さえ見る事が出来れば他には何もいらないし、ウラワで大きな戦力になっている選手が外へ出て行ってしまうのはどんな理由があれ残念に思う。だから、僕は今以上にウラワのスタジアムが作り出す強烈な個性を持つ雰囲気を成長させたいと願い、ウラワの町が選手達にとってこれ以上ない程過ごしやすいものになって欲しいと願う。そうする事でウラワにやってきた選手がここを離れたくないと感じてくれればこの上なく、一生ここで過ごしたいなと思ってくれれば完璧だ。 そしてその為にはリーグ自体の繁栄も欠かせない事象になるのだし、まずはウラワがリーグを勝ち取らないと何も始まらないなとやっと頭の中が整理され、結局大事なのは目の前の試合を美しく勝って行く事のみという、毎度変わらぬ回答が出てきて漸く僕の脳内は静寂を取り戻した。地下鉄は都心へ入り徐々に車内が混み合ってきて周囲のスペースが減ってきたから僕は雑誌を鞄にしまい込み、その鞄を膝の上に抱えた。目的の駅まであと十数分、目を閉じて眠らずにウラワが見せる美しいフットボールを頭の中に描きながらその時間を過ごす。何だか、毎日こんな事を繰り返している様な気がする。 ◇磐田戦後◇ 8.30まだまだだと思った。確かに中盤の圧力はかなりの時間高いレベルで継続できていたし、細かいスペースを使って少ないタッチでボールを前へ運べる様になったのもウラワが進化した証しだと思う。何より、開幕から1敗1分と出遅れて焦りすらあるだろう磐田に、あの様な形で劇的な勝利を飾れたのは、クラブにとって間違いなく大きな一歩になったと思う。だからこそ、まだまだだと感じた。 予想した以上に磐田の衰えは明確で、後半も半ばを過ぎると驚く程運動量が減ってスピードも落ち、余りにも簡単にウラワの攻撃陣がフィニッシュまで到達できた。自慢のパスワークも以前ほどの恐怖は感じなかったし、ただパスを回しているだけで最終的な攻撃に移る際の判断力とか個人のスピードが無いから、どうやって得点を奪うのだろうと逆に疑問がわき出てくる程だった。だから、前半の終了間際に失点してしまったのはとても残念だったし、後半幾度と無く迎えた決定機を一つもものに出来なかった所に、多少なりとも複雑な思いを抱いてしまうのだ。あの磐田なら、もっと簡単に勝たないといけない。そう、思ったのだ。 昨日の試合は、あれだけ内容面で圧倒できたのだから余裕を持って勝ち切らなくてはならない試合だったと思うのだけれど、結局相手が一人減ってからいきなり圧力を掛けられて失点してしまうあたりに集中力の低さを感じたし、優勝を勝ち取るにはこれからまだやらなくてはならない事が沢山あると????も思った。それが時折見られる集中が欠けた様に感じられる時間帯を減らす事なのか、得点機をより確実にものにしていく事なのか、素人の僕には判らないけれど、それでも今のままでは確実に優勝できるとは断言出来ない。そういった意味で、まだまだという言葉が出てきた。 ただ、チームが前進を続けているのは間違いない事実で、もっと上へという気持ちが伝わってくる素晴らしいチームになっていると思う。前半の終了間際、啓太がパスミスをした時に何やら山田と口論している場面があって、僕はもうそのプレー自体は正確に覚えていないのだけれど、自分の犯したミスがどんな要因によってなされたのかが理解できているからこそチームメイトに要求できるのだと思うし、自分の仕事をきちんとやっているから人に対して物が言えるのだと思う。啓太は確かに攻撃時のミスが多いけれど、それ以上にプレスの主導者として中盤をかけずり回っていて、それを知っているから山田だって聞く耳を持つ。チームが有機的に動き始めているのを、何とはなしに実感した瞬間だった。 昨日のピッチに立っていた11人に、不要な人材などいない。誰も彼もが与えられた仕事以上のものを発揮しようと努力しているのがびしびしと伝わってきて、スタンドで見ているともう心の奥の方がかっと熱くなってきてボルテージが上がり、叫ぶ声はどんどん大きくなる。エメルソンと永井は持ち前のスピードとドリブルを生かして虎視眈々とゴールを狙い、トップ下の山瀬は攻撃ではスピードのある前線二人に置いて行かれないよう必死に飛び出し、かと思えばボランチのカバーリングに奔走し、今や中盤に無くてはならない存在となった。啓太は自分でも認める技術的に劣る面をファイティングスピリットと運動量で問題なくカバーし、キャプテンは右サイドをほぼ完全に制圧している。アレックスは体調が戻ってきたのか驚く程の運動量を見せてくれて、後半足は止まりかけたけれどトップスピードのランニングが見られる様になってきた。持ち前の技術は折り紙付きなのだから、これでコンディションが整えば相手にとってより恐い存在になるだろう。 ディフェンスラインだって鬼気迫るアタックを随所に見せていて、アルパイと闘莉王は失点の時ヘディングをかぶってしまっていたからそういったミスは減らしていかなくてはならないとは思うけれど、それは彼らが持つ責任感の裏返しとも言える。実戦でコミュニケーションを十分に取っていけば、すぐにゴール前の壁が構築されるとも思う。内舘はスピードが多少劣る二人のカバーを必死にこなしていて、都築は安定したフィードで攻撃の起点であり続けた。 試合を終えるホイッスルが吹かれた瞬間、ピッチに倒れ込んだのは長谷部ただ一人だった。その直前に素晴らしいとしか形容しようのない劇的なゴールを決めた選手が、ピッチ上で最も自分の力を出し切った選手だったのだ。それがあのゴールを生み出し、ウラワに勝利をもたらした。 90分、バランスを逸する時間もあったけれど、殆どの時間休み無く続けられたプレスは相手にとって脅威になっているし、もうウラワはボールホルダーが囲まれようと少々の事では慌てずにボールをつないでいけるチームになった。実際僕は、同点に追いつかれた直後も何故だか勝てるという気持ちが全くなくならずにいて、その理由は多分チームが成長しているのをずっと感じ取れてきているからだと思う。 まだまだだと思う事は、もっと出来ると思う事と表裏一体だ。開幕から今まで、大きな波に揺り動かされながらウラワはここまで登ってきた。磐田を、置き去りに出来るパフォーマンスを見せられる位に。それでも足りないと思うのは、僕が贅沢になった訳でもあるまい。こんなに出来るウラワを見るのは初めてだけれど、もっともっと上に登っていけると僕は心の何処かで理解しているから、求めてしまうのだ。 成長しながら、勝利する。ギドはとても難しい時間を過ごしているのだろうけれど、その難しい時間を乗り越えた時にこのチームは、恐ろしいチームになると思う。あんな劇的な勝利の後でも、より高く、より上へと、選手も監督もそしてサポーターもが目指しているのだから。磐田に引導を渡せたかは判らないけれど、少なくとも恐怖心を植え付けるには十分の試合だった筈だ。福西が退場したのはその慌てた心根の現れだと思うし、僕らは今まで感じ取ってきた悔しい思い出をこうして一つ一つクリアしていけば良いのだ。成長するチームと共に。それが、唯一の結果をもたらしてくれると、僕は信じてい????る。 ◇明日は。◇ 8.28僕は磐田に恨みがある訳ではなくて、どちらかと言えば一番嫌いなチームは横浜Fマリノスだ。オフトが土台を築きドゥンガが精神力を注入した数年前の磐田は、本当にJの歴史上ベストと行っても良いレベルのチームだったと思うし、彼らがポゼッションフットボールという明確なコンセプトを持ってチーム強化に当たっている事に対しては尊敬の念すら持っている。横浜の様な「勝てば官軍」というフットボールチームは僕が最も嫌うタイプのチームであり、それが横浜のチームカラーなのか岡田監督のパーソナリティーによるものなのかはどうでも良くて、そんな僕は稀代のファンタジーアをサックしたマルチェロ・リッピも嫌いだ。 磐田は技術的に秀でた選手を重用するけれど、だからといって彼らが手を抜いたプレーをする様な事もなく、名波だろうと藤田だろうときちんとフリーランニングを繰り返してパスコースを造り出す様な小さな努力の積み重ねをしている。それがあるからこそ、あの美麗なパスワークが生まれてくるのだろうし、相手を翻弄して疲弊させるポゼッションフットボールを、相手の力量如何に関わらず表現できるのではないだろうか。僕は、今後日本人が強烈なフィジカルを獲得できるなどとは今のところ考えておらず、きっと敏捷性や正確な技術、そうして戦術的に熟成されたチームでなければ世界に互して戦えないと考えている。そういった面で、磐田はこれまでリーグの指標として存在してきたと思う。 磐田はある意味で、一度完成されたチームだ。成熟したといえば聞こえは良いが、チームの流れから言えば下り坂にあるのは間違い無く、今現在世代交代がお世辞にも上手く行っているとは言えないだろう。ただ、磐田の様なオリジナリティーを持つチームが覇権を争う時こそJリーグが一歩前進する時期だと僕は思っているし、よもや横浜の様なチームが勝っているのはリーグの沽券に関わる。プロのリーグ戦なのだから、勝利したチームが一番偉いというのは正しい指摘ではあるけれど、それでも僕はそういった考え方に賛同する積もりはない。 美しく勝つフットボールが世界で最も尊敬されるべき存在であり、勝利だけを求めるフットボールに未来はないと、僕は考えている。だからウラワは、美しく勝たなくてはならないのだ。リーグの中で及第点を少し上回るレベルの選手を集め、攻守にバランスの良いフットボールをして、勝負強さをもってリーグを勝ち抜くのもそれは一つの考え方かも知れないけれど、ウラワがそれではやっぱり物足りない。もう僕らは12年も待ったのだから、今更貧弱なフットボールで一度だけ優勝する様なシーンで満足出来る筈もない。どうせならば、圧倒的な攻撃力で相手を叩き潰し続ける、強引なまでの強さを持ったフットボールでリーグを席巻したいじゃないか。 今、美しい磐田は衰えを見せ始めている。だったら、そこにぽっかり口を開けて待っている穴をウラワが埋めて、そこに居座れば良い。今時、左右のストッパーがウイングバックの外側を何度もオーバーラップするチームは余り見られないし、気がつけばボランチやスイーパーの選手が何度も“相手”ゴール前に出没するチームも見られない。既に攻撃力ではリーグで最も警戒されるチームへと進化したし、実際に得点力は並大抵のものではない。ここで識者ならばディフェンスの安定化を図ってバランスの取れたチームに仕上げた方が良いと言うのだろうし、それは絶対的に間違っていないとも思うのだけれど、僕はもっともっと攻撃的なチームを欲する。相手に攻めさせる隙を与えない、恐ろしい程の攻撃的なフットボール。それが完成に近づけば近づく程、きっとウラワの輝きは増し、美しさを見せる様になる。 そういった個性を持ったチームこそJリーグのトップに相応しいと思うし、そして明日はその磐田に引導を渡す日だ。横浜を戦かせる日だ。 ◇諸行無常◇ 8.26部署内で取引先の担当替えがあって、僕は新たに板橋区にある取引先3社を回る事になった。今日はその初陣で、初陣といっても2年程前まで回っていた所だから取り立てて気合いを入れる事も無いのだけれどそれでも一応気を引き締めて都営三田線に揺られ、酵母菌の匂いが立ちこめる中山道を下っていって、志村坂下にある取引先へと向かった。 志村坂下の交差点から更に一つ先の信号を、左手に和食レストランを見ながら右折し、まっすぐ行くと今日一軒目に訪問する予定の取引先が見えてくる。その取引先の手前側には、僕の記憶が確かならば製本所があった筈で、いつもそこでは電動のフォークリフトがパレットに積まれた真新しい雑誌などを忙しく移動させていて、そこに面する道路がそれ程広くないから留まっているトラックを避けるように歩かなくてはならなかったから結構邪魔だな等と考えながらこの道を歩く事が多かった。そんな不確かな記憶を反芻ながら、少し下を向きながら歩いているといきなり僕の足下にあるアスファルトの色が黒から赤へと変わって、更にぴかぴか光る新しいガードレールが目に入ってきて危うくぶつかりそうになったから、どうしたのだろうと顔を上げるとそこには吃驚するくらい綺麗なマンションが屹立していた。 どうみても、周囲を工場や倉庫に囲まれたこの場所の風景にとけ込んでいないその建造物はまだ出来たばかりの様子で、エントランスなどに入居者募集のチラシがそこかしこに貼られていて、それでも見上げると洗濯物が干されているのが見えたから既に入居が始まっているのが解ったのだけれど、チラシによると建物の名前はお洒落というか仰々しいというか、まあ僕のイメージするこの場所にはどうしてもそぐわないものだったからうーんと唸ってしまい、そう言えば僕の住む街にも同じ様な立地にも関わらずまるでそこが高級住宅地にあるかの様なネーミングをされたマンションがあったなあと思い出した。どうして不動産業者というのはこうした浅知恵から脱却出来ないのかとひとしきり悩んだのだけれど、でも僕はきっとそれよりも慣れ親しんだあの製本所の風景がもうそこには無いという事の方が悲しかった。フォークリフトは形すら見られず、車道に半ば車体の八割方をはみ出して停車していたトラックの姿もどこにも無い。その代わり、マンションの区画だけ新しく舗装がされガードレールまで設置された歩道が出来て確かに歩きやすくはなっているのだけれど、じゃああそこで働いていた親父さんたちは一体どこへ行ったのかという疑問が浮かんでは消え、柄じゃないけど諸行無常感がいきなり頭の上から降ってきた感じがした。 そうすると胸ポケットの携帯が鳴り、液晶の画面を見ると今日休みの筈の連れ合いからの電話だったからどうしたんだろうと思って電話に出ると、彼女の携帯電話のジョグダイヤルが壊れてしまったという内容で、ソニータイマーの説明をしても彼女は納得せずに何で1年ちょっとで壊れちゃうのよなどと憤っていたけれど、そりゃソニーなのだから仕方がないじゃないかと僕は半ば喜びながら話をしていた。僕の携帯も彼女のものと同機種であり、買った時期も全く同じだからそろそろこっちも壊れるのかと、逆に新しい機種を買う理由が出来たと考えていたから。形あるものは全て、少しずつその形を変えながら生滅してとどまらない。確か、倫理の授業でそんな思想を習ったっけ。 板橋区での仕事を終え、また僕は三田線の人となる。会社のある目黒までゆうに1時間は掛かる帰路だから、ラッシュ時にはまだ時間がある空いた車内で睡眠不足を補おうと僕はぐっすり眠ろうと考えた。仮に目黒を寝過ごしても、洗足からでもバスで帰れるし、更にその先まで行ってしまっても田園調布から東横線の上りに乗れば会社へは戻れる。普段ならば携帯のアラームをバイブレーターにして眠るのだけれど、今日はそれもせずにゆっくり眠りながら帰ろう、そう考えた。電車がホームへと入ってきて、車内に入ると想像通りお客は少なく、眠るにはこの上ない絶好の舞台だった。一番後ろの車両に乗り込み、ロングシートのドア際に座って手摺りにもたれ掛かりながらすぐに眠る体勢に入る。ここならば船を漕いで左右の人に迷惑を掛ける事も無いし、精神的にもゆとりを持って眠る事が出来る。そうだ、帰社時間には少しだけ余裕があるから、わざと洗足まで行ってちょっと喫茶店にでも寄ってから戻ろうか、などと考えていたらあっという間に眠りに落ちた。 一度白金高輪で目が覚めたのだけれど、あと二駅の目黒で起きて降りるのはちょっと想像すら出来い程しんどかったから、もういい、このまま洗足まで寝ようと心に決めてもう一度深い眠りに入ろうと、うつらうつらした時にヒザを叩く感触があって僕は重たい瞼を仕方なく開いた。するとそこには課長の笑顔が待っていて、何故彼がここにいるのか理解するのに数秒を要したのだけれど結局それは偶然で、「おい、目黒だよ。寝過ごしちゃうよ」という彼の優しい言葉に僕は多分苦虫をかみつぶした様な顔を見せたのだろうけれど、きっと優しい課長はそれを単純に寝起きの辛そうな顔と解釈してくれている筈だと自分を納得させながら、そうか、形あるものはいつか壊れるというけれど、自分の中で決めた考え方という形が無いものですら、こうした偶然によって壊される事があるのだなと思った。 確かにこの世のすべては儚いのかも知れない。優れたチームだって、いつかは崩れ去ってしまうものだ。磐田がその例だとは言わないけれど。ただ、崩れてしまう事実があるという事はそこに至るまでの過程もある筈で、今日は物事が壊れる話ばかりになってしまったけれど、その逆で物事が構築される所も日常に溢れているに違いない。さて、ウラワはどっちだ。 ◇磐田戦◇ 8.24ヴェルディ戦の大勝に、未だ心躍らせて毎日の様にビデオを見ているのだけれど、実は次節埼玉スタジアムで迎え撃つ敵はあのジュビロ磐田であり、開幕から2試合彼らは結果を出せていない様だけれどそれはそれで腐っても磐田なのだから、そうそう簡単に勝たせて貰えるとも思えないし次節もまた気合いの入ったサポートが必要だなと強く感じている。向こうは怪我人が多くて、チームを固定化した組織で運営していた仇が出ている様子で、ウラワが付け入る隙はその辺りにあるのではないかと考えている。 ウラワには闘莉王と達也が戻ってきて、平川と岡野の回復具合が気にはなるけれど、怪我をしている坪井を除けば殆どベストに近い布陣で臨める筈だ。磐田は中盤の選手達がそれぞれ怪我や疲労を抱えて満身創痍の様相を呈しているし、特に右サイドの西は試合に出ているとはいえまだまだ完全なパフォーマンスを発揮しているとは言い難い状況であるし、システム的には同様の3−5−2でぶつかる可能性が非常に高いからウラワとしては左サイドのアレックスがサイドの攻防でどれだけイニシアチブを取れるかが大きな鍵になってくると思う。 磐田は調子が悪くても、中盤が流動的に動いて早いパス回しをしてくるだろうけれど、僕はそれに真っ向から勝負してポゼッションを争って欲しいと考えている。磐田のフットボールはポジションをそれほど固定せず色んな所に選手が顔を出すのだけれど、実際攻撃に沢山の人数を掛けているという訳ではなくて、無理なディフェンスの攻撃参加も余り無いからカウンターが上手く掛からない事が多い。まず間違いなく、ヴェルディ戦の様に簡単に得点を奪える筈は無くて、結局試合をコントロールした方が勝利を掴めると思うのだ。 ファーストステージの戦いは、不可解なレッドカードで前半の早い時間にエメルソンを失ったウラワを手玉に取る様に、磐田に勝ち点を持って行かれた。それでも、個人が見せる局面の戦いでは殆ど負けていなかったし、後半には足の止まった磐田から、山瀬がゴールキーパーと1対1になるなど決定的なチャンスを何度か作り出す事が出来ていた。 そしてあの時と決定的に違うのは、ウラワがチームとして成熟しつつあるという事。ファーストの時点では五輪代表選手はチームに合流して練習する時間が余り無くて、闘莉王に至っては試合にすら出ていなかった。ウラワは若いチームだから、成長するのもまた早い。今期もファーストステージの始めの方ではリードしながら逆転負けを喫したり、そういったネガティブな試合運びも散見されたけれど、それがシーズンを進む毎に自分たちで消化して徐々にそういった状況を打破する力強さと強かさを身につけつつある。神戸戦にしろ東京V戦にしろ、ファーストならば逆転負けをしてもおかしくない様な試合展開だったにもかかわらず、彼らはそれを自分たちの力で堪え、最終的に自らのペースで試合を終える事が出来た。振り返れば、ファースト最終節の瓦斯戦も、同様の事が言えると思う。 間違いなく、ウラワは今成長する右肩上がりの曲線のまっただ中に居る。選手同士がお互いの相互理解を進め、チームとして共通のイメージを構築し、そしてそれが少しずつ形を見せ始めているのだ。それが結実したときに初めて「優勝」という二文字が見えてくるのだろうし、その為にまずホームで勝ち点3を取るのはもはや至上命題だ。僕は去年、突然降りかかってきた仕事によってホームでの磐田戦を見る事が出来なかった。あの試合は、実はとてもエポックメイキングな試合で、その後福西はあの試合を「忘れられない程悔しい」とまで言っていた。今年のヤマハスタジアムで彼はその復習を果たしたと言っているらしいけれど、だったらもう一度、今度は立ち直れない位にやってやろうじゃないか。 ヴェルディ戦の後半、エメルソンは少しだけイライラしていた様に見受けられ、終了間際にはちょっと疲れている様だった。コンディションはまだ完調には程遠いらしく、それでもあれだけのプレーを見せてくれるエメには頭の下がる思いだけれど、多分次節はもっと切れたプレーを魅せてくれるだろう。退場に追いやられた磐田のピッチ。仲間の得点を祝福するものの自分ももっと得点を奪いたいという表情を隠さなかったさいスタのピッチ。エメルソンの中には僕たちに計り知れない積もりつもったものがある筈で、それが今度の磐田戦で炸裂すると僕は思ったりしている。 ◇三都主アレサンドロ“アレックス”◇ 8.22僕は、実はもの凄く憤っている。昨日の試合を慣れないバックスタンドで見ていて、とても気になった現象があったから。普段はゴール裏にいるから余り感じられなかった事が明確に感じ取れてしまったから。アレックスがボールを持った時に起こる、これだとは言い切れないのだけれど何となく不穏な雰囲気というか空気というか。後半はその傾向が特に顕著になり、少しでも球離れが悪くなると空気どころかブーイングの様なものすら聞こえてきた。 僕は、今までウラワの試合を見続けてきて、アレックスほど技術的に秀でた選手を見たことが無かった。チキは勿論上手かったけれど、流石にバルセロナで長い間戦ってきただけあって実効的なプレーが随所に見受けられ凄いなと思う事も多々あったけれど、それでも僕はウラワの歴史の中でアレックスは左サイドの選手としてチキと比較し得る唯一の選手じゃないかとも思っている。四億円を使って取ったのだからもっとやって貰わなければ困るとか、噂では来シーズン欧州へ移籍するらしいからとか、今現在のシーズンをピッチの上で戦っている選手本人にとっては全く関係の無い事柄で選手を否定する事に何の意味があるのだろうか。 アレックスは確かに球離れが悪いし、ディフェンスのスキルは逆サイドのキャプテンと比べると悲しくなる程低いと思う。ただ、それを補って余りある攻撃時の特徴があって、それには今までのウラワが持ちたくても持てなかったものが多分に含まれている。スピード溢れるフォワードを抱えるが故、縦に急ぎすぎるチームの攻撃をその技術の高さでバランスを取り、良い姿勢でボールを保持すればとても高い精度のクロスをペナルティエリアの中へ送る。去年のネッドもそうだったのだけれど、どうしてもウラワは縦へと突破するスピードの高い選手を好む傾向があって、それはサポーターだけでなくてクラブ全体としての傾向で、その期待値と異なる選手は違ったオリジナリティを持っていようともなかなか理解されない。ネッドだって理解されたとは思えないし。 少なくとも、去年までというかJリーグが始まってからのウラワで今程左サイドからチャンスメイクが出来るチームは殆ど初めてと言っても良いくらいだと僕は思っているし、現実的にアレックスを起点として生まれた得点は沢山ある。アレックスは、高い位置でボールを持つと盛んにフェイクを入れて立った姿勢でドリブルをする事が多いけれど、それは彼が1対1の勝負に勝つためにやっているのではなくて、どちらかと言えばペナルティエリア内の陣形が整うのを待つためにそれを行っている事の方が多いと感じられる。その証拠に、昨日の試合をさっきビデオでチェックしていたら、やはりアレックスがボールをこねている時にはペナルティエリアの中に人が居ない事が多く、彼がどの様な考え方でプレーしているのかを改めて考えさせられた。 今までのウラワは、特に去年のチームはクロスからヘディングで得点を奪うというケースが極めて少なくて、それは今年のチームにも引き継がれている。Jリーグの公式サイトでも見られるけれど、オプタデータによるとウラワのクロス数はJの中でも圧倒的に少なくて、その代わりにドリブルランがもの凄く多い。エメルソンや達也という小柄なフォワードの存在が、頭での得点機会を減らしているのかと思わせるのだろう。ただ、それは事実の1側面だけでしかなくて、小さくてもポジショニングとボールの精度があれば十分に頭でもゴールを決める事が出来るし、それは昨日の永井のゴールが証明している(永井は上背があっても、決してヘディングの得意な選手ではない)。 アレックスが持つボールコントロールの技術やキックの精度は間違いなくウラワの中でもトップクラスだし、それを生かさない手はないと思うのだ。彼がボールを持ったならば、前線の選手達は彼を信じてゴール前になだれ込んだ方が良い結果を得られるだろうし、アレックスの技術はそうする事によってより生かされる。彼がドリブルを始めるとどうしてもエメルソンと同じ様に一人で突破してゴールまで突き進んでくれる事を期待してしまうのだろうけれど、そういったプレーを中心にやるのはフォワードの二人だけで良いと思う。チャンスメイクが、アレックスの最大の特徴なのだから。 わざわざスタジアムまで応援に出掛けて行って、見方のプレーに対して醒めた眼差しを送るのがどれだけ馬鹿馬鹿しい事か。ウラワは以前貴重な左サイドの選手をいわば壊しているし、その轍を踏む必要はどこにもないと思う。見方にブーイングしている暇があったらそれより声を嗄らせて応援する方が余程理に叶っていると思うし、だってスタジアムに行くというのはそういう事だろうと思う。 ◇東京V1969戦◇ 8.21その2実はさいスタの指定席でリーグ戦を見るのは生まれて初めての事で、リーグ戦以外では福田の引退試合をアッパーで見た事があったけれど、今日の様に遅い時間にさいスタへ着いた事も初めてだったから考えていた以上に色んな発見があった。浦和美園の駅を降りて、ロータリーの所で上司を待っていると、南門行きの100円バスというのがあるのをまず知った。そうしている内に上司が笑いながらやってきて、凄い人だねなどと言うから今日は多分今年最低の入場者数ですよと切り返すと、それにまた驚いていた。 待ち合わせが駅に4時半だったから自分の感覚だと試合開始1時間前の時点で駅の近辺にいる何て考えられず、そわそわとスタジアムへと急ごうとするのだけれど、上司は来るのが早すぎたんじゃない? などと言うから余計に焦る。おいおい、もう少ししたら選手紹介が始まっちゃうよ。さいスタへと続く埼玉高速鉄道脇の遊歩道はいつもの感覚だと何もないだだっ広い中にぽつんとモデルハウスが建っているイメージしか無かったのだけれど、今日は何故だか屋台が沢山出ていてそこにお客さんも沢山居てとても賑わっていた。最近屋台がブームだからな、などと考えていたのだけれど実はいつも僕がここを通る時間に居ないだけで本当はもっと以前から屋台は居たのかも知れない。 スタジアムに到着し、初体験である指定席のチケットを見るとC5ゲートと書いてあって、実はそれがどのあたりだか見当もつかなかったから南門広場にあるスタジアム案内所で確認するとその席はバックスタンドアッパーのアウェー寄りで、そうだ確かさいスタのアッパーに行くのはエスカレーターを使うんだったなと昔知った知識を思い出し、これまたリーグ戦では初めて南門のゲートからスタジアムの中へと入ってエスカレーターに乗った。 事前のチケット販売状況から、今日の試合は3万入れば良い方だと考えていて、5時過ぎに席に着いた段階でホームのゴール裏にも空席が見えたから確かに今日はお客さんが少なそうだと実感して少しだけ悲しくなったのだけれど、連れてきた上司は一向にそんな事に構う事もなくスタジアムの大きさに驚き、間もなく練習に出てきたヴェルディの選手に対するブーイングに驚きしていて、彼にとっての初体験であるウラワ劇場を十分に堪能している様子だったからすぐに気持ちを取り戻してピッチで練習を始めたウラワの選手達を見やった。 そうする内にHouse of loveがそこいら中に響き渡り、あっという間に選手紹介が始まって徐々に高まっていくスタンドの雰囲気をこうして指定席で見るのも悪くないなと考えていると、今度は試合前にもかかわらずゴール裏からwe are diamondsが聞こえてきて、僕の両腕には鳥肌が立ち、歌が終わるとデカ旗がいつもながら驚かされるスピードでゴール裏一体に広がって試合前の臨戦態勢が感じられて僕の気持ちも最高潮に達しようとしていた。脇を見ると上司は凄い凄いと連発していて、僕は少しだけ誇らしい気持ちになる。どうだ、これが僕の愛するウラワなんですよ。 試合が始まっていきなりウラワは3点を奪い、ゴール裏の声援も加速する。上司がいきなり立ち上がって何をするのかと見ていたら、俺、あっちまで行って応援見てきて良い? と聞いてきたので僕は喜んでどうぞと答えた。僕たちが座っていたのは南側スタンドのすぐ上あたりで、北側の野太い声は勿論届いていたのだけれど応援しているサポーターは確かに余り良く見えなかったから上司の気持ちも解った。今日のアッパーはがらがらで席の移動は全く困難な作業では無かったから、上司は結構長い間北側の方でピッチとスタンドを交互に見ていた。 結局試合は8年ぶりの7得点で幕を閉じ、終わってみればウラワの圧勝だった。相手に大きな問題があったと思うから手放しで大喜びという訳にはいかないけれど、それでもこんな試合はなかなか見られるものじゃないし、上司にもそう伝えると。「ウラワは攻撃力が凄いね。ただ守備は結構穴があるね」と結構的確なコメントが帰ってきて吃驚して、更に「今日の試合を見られなかった人は残念だね。可哀想」とも言ってきた。全く僕も同じ気持ちで、確か8年前の柏戦の時も、僕の友人一人がどうしても抜けられない用事で行かれず、電話で結果を伝えた時に泣きそうだった事を思い出し、それでも自分が来られて良かったなととても自分勝手な事を考えていた。そして、全くの初観戦の人に、これだけ得点が入った試合を見せられて良かったなとも。これなら次を考えられるから。 ◇指定席◇ 8.21今日は会社の上司をウラワ化せんと、さいスタでは初めて指定席で観戦する事になった。だからこんな時間(午前11時半)に更新しているのだけれど。さて、そろそろ出掛けるかな。 ◇見てね・アテネ◇ 8.18一応これでも営業職の端くれだから、取引先の方々や社内の人間たちと話を合わせる為に必要最低限の努力はしている。それは例えばテレビのドラマを見る事だったり、全く知識の無い分野の事を少しだけかじってみたり。オリンピックを見ることが、今はそれに該当する。この所毎日の様に深夜遅くまでテレビを点けながら寝ころんで過ごす時間が多くて、昼間は眠くて仕事に集中するのが難儀だったり、本末転倒の日々が流れていく。 ただ、曲がりなりにも国を背負って戦っている日本選手団を見ていれば、肩入れしない方がおかしいし、翌日の仕事に多少の影響が出ようとそんな事は構いもせず、純粋な日本応援団と化してテレビに齧り付いている。柔道はやはり選手の持つメンタリティが力強く、技術的な面は勿論「金を取って当たり前」という風潮の中、当然の如くメダルを持って帰る事の出来る彼らに僕は敬服するし、水泳の北島康介もまた有言実行を地で行く活躍で、僕は驚くというよりも彼の精神面の強さに畏怖の感情を抱く程だった。 確か昨日だったか、女子柔道の準決勝で試合終了1秒前に一本背負いを決めた選手が居て、流石にあの時は夜中なのにも関わらず連れと飛び上がって喜んでハイタッチをしたり、とても日本人らしい表現行動をしていた。北島が金メダルを取った時も、山本が銀メダルを奪った瞬間も、僕は右手の拳を握りしめて小さく“しゃ!”と口に出していた。僕は取り立ててオリンピックを楽しみに待ちわびていた訳でも無く、大会が始まってテレビや周囲の人達が騒ぎ出してから漸く少しずつ見るようになったのだけれど、やはりスポーツの持つ熱気がブラウン管を通してでも伝わってきて、それが生中継ならば尚更であり、オリンピックは僕の感情を少しずつ揺さぶり始めたのだ。 そんな最中に、普段の自分を思い出していた。ウラワの試合を見ていて揺り動かされる僕の感情、ウラワのゴールで突き上げられる僕の激情。エメルソンがファールを受けただけで相手を殺す様な気持ちで発せられるブーイングや、達也の切り裂くようなドリブルを見たときに感じる高揚感、試合が終わった後ゴール裏へ挨拶に来る選手達の姿や、その後ベンチへと歩きながら何度もこちらを振り返って手を合わせるアルパイの姿を見てはしゃぐ自分。一つ一つの事柄が克明に思い出されてきて、何故だか僕はオリンピックを見ながらウラワの事を考え、スタジアムで感じる要素がとても現実的に、自分の奥底から浮かび上がってくるのが判った。 オリンピックを否定するとかそういう事ではなくて、ただ単純に僕はウラワが一番なのだと改めて理解した。フットボールが残念な結果に終わってしまった事もあるのだろうけれど、やはりオリンピックで感じられる感動とウラワのそれとは種類が違うのだ。日本人選手が勝つのは嬉しい事だし、そりゃ金メダルを多く取れた方が良いとも思う。出場する選手達の大半は名目上アマチュア選手であり、こういった大会でしか光を浴びられない事も理解している。だからこそ、彼らにとってオリンピックがとても重要なものになるのだろうし、それが勝利によるものか敗北によるものかの分別はさておき感極まって流される涙の多さがそれを物語っている。 だけど、僕にとって涙を流す程感情を揺さぶられる対象はウラワしかなくて、自分の体が壊れそうになる程応援する対象はウラワしかなくて、誰に強要するのでもなくただそれだけの事だ。プロだろうとアマチュアだろうと、そんな事は関係が無くただウラワである事。多分それが僕にとって一番の重要事なのだと、今の気持ちはそういったものだと自分で理解した。数年前の長野冬季五輪の頃は、舟木のジャンプに大声を上げて家族から窘められていたのだから、時の流れと共に僕の心持ちも変化を来したのだろう。そういえばあの頃、フットボールの代表戦でも今とはまるで違う熱さを持って観戦していた記憶がある。いつから今の様な気持ちに変化したのか、正確な所は僕にも判らないけれど、ただ一つ言えるのは、ウラワに対する思いは年々強まっているという事。 ◇いざ行かん、埼玉スタジアム2002◇ 8.17仕事が山を越えて僕の日常は落ち着きを取り戻してきたから、会社のPCでネットサーフする余裕も出てきた。それが良い事なのかはまた別の問題として、今日それとなくウラワ系のサイトをチェックしていたら久しぶりに公式サイトのチケット情報が更新されていたので、早速ヴェルディ戦の売れ行きを確かめてみた。するとどうだい、全然売れてないよ。おいおい、あれだけ神戸に赤いサポが駆けつけたというのに、セカンドのホーム開幕戦がこれでは心許ない。実数で売れているのは3万とちょっと程度ではないだろうか。 学生にとっては夏休みの期間だろうし、もしかするとこの週末は夏を満喫できる最後の1週間として、海に行ったり、フットボールよりも他の用事を入れている人が多いのかも知れない。相手も集客を期待できるクラブではないし。ただ、ウラワはこのセカンドステージ、間違いなく優勝を目指して戦うチームとなっていて、その目的を成し遂げる為には今まで以上のサポートが必要なのは当然の事だ。単純にお客さんが沢山入れば良いのかといえばそんな事は無いと思うけれど、折角アウェーの開幕戦を厳しい戦いの中勝ち点3を奪って帰ってきたチームに対して、今スタジアムで応援しないでいつするのだ。 そりゃあ、ヴェルディは森本程度しか話題になる選手はいないし、ウラワの誇る五輪代表選手二人だって出場しない。海外組が戻ってきたとはいえ廣山では余りにも地味だし、話題沸騰という訳にはいかないのは理解できる。次週に磐田戦が控えているのも、一つの要因なのかも知れない。でもさ、ウラワは始めて主体的にクラブの根底から変化して、優勝を狙おうとするクラブになりつつあるんだよ。この大きな変化を見届けられるのって、サポーターとしては結構幸せな事だと思うのだけれど。大波小波をかき分けて、少しずつウラワは成長してきている。チームとしては勿論のこと、それはサポーターにだって当てはまる事だと思う。今まで負ける試合を見る事の方が多かったウラワのサポが、勝利して当然というメンタルを得られる様になる過渡期な訳だし。 今からでも遅くはない。21日の土曜日にスケジュール帳が空白の人は、驚く程の変化の胎動を感じさせ始めているウラワを、現場で、この目で見届けた方が良いと思う。チケットはぴあでもローソンでも、簡単に入手する事が出来るのだし、当日思い立ってさいスタへ赴けば、そこでだって簡単に手に入る筈だと思う。自由席が恐いという人には、今年からとても便利なシートが出来た。さいスタに限った話だけれど、バックスタンドアッパーには2500円で手に入る指定席“SC”という席が設けられたのだ。ここならスタジアムに殆ど来たことが無い人でも恐れを抱く必要も無いし、何より指定席だから慣例の並びへ参加する事無く、あっさりと着席出来るのだし。夏休みなのだから、ちょっと身近な人を誘ってさいスタへ行くというのも悪くないと思う。 さいスタには、駒場の様な一見さんお断りといった雰囲気は無く、特にゴール裏中心部へ行かなければ誰でも簡単にウラワの試合を愉しむ事が出来る。きっかけは人それぞれだけれど、コアなサポの連中だって何らかのきっかけでウラワの試合を見る様になったのだし、誰かにとって今週末がそれにあたっても良いじゃないか。今のウラワは、試合内容など全ての面を含めてエンターテイメント性が極めて強い、面白いフットボールをしている。是非是非、もっと多くの人にスタジアムへ足を運んで欲しいと思う。だって勿体ないじゃない。こんな良い時期は、余り体験出来るものではない。優勝を目指して、クラブ初のリーグタイトルを目指して成長しているチームを見られるのは、今だけなのだ。 ◇イタリア戦◇ 8.16別に4バックを試す事自体が悪い事だとは全く思わない。ただ、試す時期ではなかっただけの事だ。山本氏は五輪に向けての準備が完全には出来なかったと嘆いている様だけれど。それがまるで自分の仕事では無いかの様な口ぶりで。個人的には五輪代表に少なからず期待をしていたし、特に今年のアジア最終予選UAEラウンドでの厳しい戦いを勝ち抜いた時には、このチームは何かを起こせる可能性があるんじゃないかと希望を見いだしていたから、今回の選手選考から今朝の試合までの流れには心底がっかりした。 もう色んな人が言及しているだろうから内容やそこへ至る過程をどうこう言う積もりも無いけれど、ただ自分のチームから選手を送り出しているのだから彼らを貶める様な行為をする人間を許す積もりも無い。精神的主柱としてチーム結成当初から本当に骨身を削って仕事をしてきた啓太を落とし、悪夢の様な怪我から復帰して漸くチームに馴染んだ頃に山瀬もまたその舞台から引きずり落とされた。達也と闘莉王は代表発表の記者会見に沈痛な面持ちで現れ、終ぞ笑顔を見せる事無くその場を終わらせた。13番と8番のユニフォームに袖を通しながら。まあ、力の世界だと言ってしまえばその通りだし、こういった選考にはいつだってもやもやしたものが残るのが常だから仕方がないと割り切る事も出来る。 ただ、イタリア戦の布陣を見て僕は唖然とした。五輪代表が、というより日本のトレセン制度が長い時間を掛けて築いてきた3バックを基本にしたシステムをあっさりと投げ捨て、フラットな4バックを用いてきたのだ。この五輪代表が4バックをまともに試したシーンを僕は見たことが無かったし、試合が始まる前から半ば呆れてしまっていた。3バックも4バックも対応できる柔軟性、ユーティリティを備えた選手達ばかりだから、4バックでも問題ないと指揮官は考えたのだろうか。立ち上がり、3バックに慣れ親しんだ日本のディフェンスラインは、センターバックの中央部分、所謂“門”へ相手フォワードに入り込まれる事が多く、その結果9分までに2失点という考えられない脆さをさらけ出してしまった。普段から4バックのチームでプレーしている茂庭は兎も角、闘莉王はトップレベルの試合で4バックの経験など殆ど無いのだ。 指揮官は試合後、平然と「イタリアはサイドから攻撃してくるからその対応の為に4バックにした」などと嘯いていたけれど、僕はそれを許したくはない。更に言えば、今朝試合に臨んだ選手達の目的は今の時点でドイツであろう筈が無く、目の前の敵をただ倒す事しか考えていないだろう事は、素人の僕でも判る。2年半、選手達は何を考え、何を目的に過ごしてきたのか。谷間の世代と揶揄され続けた彼らが、どんな気持ちでこの大会に向けて準備してきたのか、考えただけで胸が痛くなる。チームは常に変化するのが当然で、そうでなくては強化されないのは勿論当然の事だと思うけれど、まさか本番になってから全く新しいシステムで試合に臨もうとするとは思ってもみなかった。 気持ちが足りないと、チームを鼓舞する発言を表立ってしていた達也や、慣れない4バックで懸命に守った闘莉王に対して僕は心から感謝の気持ちを持つし、是非ガーナ戦では少しでも気持ちを晴らせる様にしっかりと戦って欲しいと願っている。それは山本の為などではなく、自分の為。そして、ウラワに残った二人のため。ウラワの為。 強化や育成などというのは体面を保つには都合の良い言葉だけれど、現実に戦っている奴らにとってみれば眼前の試合こそが最も重要な事象であり、その瞬間未来の事など考えている筈もない。ただ、目の前に立ちはだかる敵より多くの得点を奪って勝利する、それだけの事だ。僕は、出来ることならば本来のやり方で彼らを戦わせてあげたかった。今まで経験した事の無い、イタリアの様な高いレベルの相手と対峙した時に、また自分たちも今までやった事のないやり方で恐る恐る戦う様な場面を見たくなかった。実際、僕はテレビを通してでしか彼らの姿を見ていないから、どんな考え方で彼らがギリシャでの日々を過ごしているのか想像も出来ない。ただ、2連敗を喫した事実は残り、彼らにはとても悔しい気持ちがあるだろうなという事くらいは何となく解る。今大会は残念な結果に終わってしまったけれど、どうか気持ちを切らずに居て欲しい。君たちにはクラブでのフットボールが、大きく手を広げて待っているのだから。 ◇口ばっかり◇ 8.15ばちばちと音がする様な気がしてふと目が覚めた。真っ暗な寝室で目を開けていると、始めの内は何も見えなかったのがしばらくすると部屋の風景がぼうっと見え始めてきて、目が慣れてきたのが判る。壁の上の方に掛かっている時計を見ようとしたのだけれど流石にそこはまだ見えず、面倒臭かったのだけれど仕方なく頭の所に置いてある携帯電話へと手を伸ばして時間を確認すると、午前5時半あたりだった。音の元はガラス窓を叩く雨音で、しかもそれはかなり大粒のものだろうと音を聞いているだけで推測できた。何だよ、今日は雨なのか。折角の休日、どこかへ出掛けてやろうかと考えていたから残念な気持ちになったのだけれど、まあ一日寝て過ごすのも悪くないかとすぐに思い直して、目覚ましの設定を2時間遅らせて再び眠りについた。 そうしてもう一度目覚めると時間は正午に限りなく近い所で、雨は既に止んでいた。部屋の中が何となくむっとした感じがしたから窓を開けてみると吹き込んでくる風はとても冷たく、まるで秋の様な感じでいきなり夏が終わってしまったのかと僕は少しばかり衝撃を受けた。今日の夜は等々力でフロンターレの試合がある予定で、前日までは行こうかなと漠然と考えていたのだけれどそれも早朝の雨で行く気を失っていたから、雨が止もうが、風が冷たく観戦には都合が良くなろうが、そんな事はどうでも良くなっていた。窓を開け放しにしたまま僕は再度布団へ戻り、テレビを点けてもぞもぞと過ごす。オリンピックでも見ながら、こうして布団の中で夜まで過ごそうと僕はこの時点で決めた。 遅い朝食を食べてコーヒーなんぞを飲みながら、タバコを何本も吸いながら怠惰な時間を過ごしていると、それはそれで少しずつ精神的な安らぎを得られる様で、あれだけ寝たのにもかかわらずまた眠気が襲ってくる。布団があるとまた眠ってしまいそうだったから取り敢えず布団を上げて、畳の上にごろりと横になりながらテレビぴあを片手に今日の予定を考える。午後5時過ぎから野球のイタリア戦、夜は卓球の愛ちゃんと柔道があって、深夜にはフットボールのイタリア戦がある。野球の試合までにはまだ時間があるから、今度はPCの前まで移動してサッカーカレンダーを見てみるとチャンピオンズリーグのバーゼル対インテルミラノ戦がやっている様だったので、それを見ながら時間を潰す事にした。 スイスのバーゼルはとても組織された好チームで、しかもセリエが開幕前のインテルは新加入の選手も多く、まだまだフィジカル面で問題が多くありそうで、バーゼルのホームでの試合は白熱していた。インテルには僕の愛する選手の一人であるゼ・マリアが移籍加入していて、彼がスタメンで出場していたからとても嬉しかったのだけれど、スタメンの選手を追っていく内にある事実に気がついた。右サイドバックがアルゼンチンのサネッティ、センターバックの一人がコロンビアのイヴァン・コルドバ、中盤は右からブラジルのゼ・マリア、アルゼンチンのベーロン、カンビアッソが並び、トップはブラジルのアドリアーノとウルグアイのレコバ。何とスタメン11人の内、南米の国に国籍を持つ選手が7人もいたのだ。これには流石に吃驚した。イタリア国籍の選手はトルドとマテラッツィに、新加入のファバッリしかおらず、こんなチーム構成でもやっぱりイタリアのチームはディフェンシブな哲学を貫き通せるのかと考え込んでしまった。 試合が行われたバーゼルのスタジアムは驚く程美しい専用のそれで、二層式のスタンドはかなりのキャパシティがあると想像され、当然の如くそのスタンドは観客で埋め尽くされていた。僕はスイスのフットボール事情に疎いのだけれど、ドイツやフランス、イタリアなどに周囲を囲まれた国なのだから相応に活気があるのだろう。それが良く理解できる雰囲気の中で試合は進み、アドリアーノのスーパーゴールとブッケルのチームプレーからのゴールで引き分けに終わった。インテルが見せた試合はやっぱりセリエAのクラブが見せるもので、コンディションが悪かった事もあるにしても、結局得点機はアドリアーノとレコバの2トップが有する個人技にその殆どが占められて、ポゼッションを高めようという雰囲気は余り無かった。ベーロンやカンビアッソがセンターに居ても彼らが試合をコントロール出来る訳でも無くて、まあそれはバーゼルの出来が良かったからかも知れないけれど。変化は起きるのだと思う。ただ、それは瞬間的に起こるものではなくて、いくら南米の選手が多数加入しようとも、長い歴史の中で築き上げられたチームというか国のフットボールが持つ色は、そう簡単に変化を見せてはくれないみたいだ。 この試合が終わってすぐに野球のイタリア戦が始まって、野球でもイタリアは守備に注力した戦い方をしてくるのかと注目して見ていたら、日本との差は圧倒的でそんな色を出す余裕すら彼らには無かった。フットボールではイタリアが全くの“格上”なのだろうけれど、野球では日本の方にかなり多くのアドバンテージがある。これが歴史なのだし、日本のフットボールもまだまだこれからだ。いつもフットボールの試合を見ていて、イタリアなどと戦うと身長差はそれ程では無くても胸板の厚さとかフィジカルに相当の差を感じる。日本人選手はどこかひ弱そうに見える事が多くて、これは人種的なものなのだろうと諦めていた事もあった。しかし今日の野球では逆に日本代表の方が体格的に勝っていて、こんな所にもまた歴史を感じていた。日本の国内で、トップクラスの体躯を持つアスリート達はまだまだ野球に流れているのだし、それは認識しなくてはならないだろう。また、トレーニングにも差があるのかも知れない。 それでも、フットボールは奇跡が起こり易いスポーツであるし、今日の深夜行われるイタリア戦で好結果が得られる事を期待したい。柔道では日本人選手が連日メンタルの強さを見せているのだから、達也のコメントを聞くまでもなく“気持ち”で負けずに戦って欲しいと考えている。僕は朝の雨で既に負けていて、布団から抜け出さずに怠惰な一日を過ごしているのだから、何の説得力もないけれど。 ◇神戸戦◇ 8.14まあ、色々言いたいことはあるし試合中何度もテレビのリモコンを放り投げそうになったけれど、それでも今日は結果を得た事が最も重要なのだと思う。昨年からとみに厳しい戦いが続いていた、東海から関西にかけての遠征で、内容に反省点は残るものの勝ち点3を掴んだという事実はきっと次に繋がっていく。少し調べてみたら、関西のアウェーゲームで最後に勝利したのは2002年のセカンドステージ、西京極での京都戦まで遡らなくてはならなかった。瓦斯にリーグ戦で初勝利したり、味スタでもリーグ戦で初勝利したり、今年はこうした嫌なジンクスを次々に排除していけたら良いと思う。 試合を見ると、山田が山瀬と共にトップ下へ入る変則的な布陣で、アレックスがいつもより随分下がり目の位置からスタートしていたから、途中4バックに見える事もあったのだけれどそれでも前半はきっちりとボールをキープして緩い展開の中試合をコントロールしていた。長谷部が奪った2得点の内、1点目はボランチとしてのセンスを感じさせるものであり、2点目はオフェンシブな選手としての技術を存分に発揮して奪ったものだった。神戸はエムボマと平瀬という新加入の二人をいきなりスタメンで使った3トップだったのだけれど、特に前半は練習期間の短さか殆ど怖さを感じさせず、前半が終わる間際までは何だ今日は楽勝だなと高をくくっていた。 前半終了間際に1点を返され、それでも全体的な流れは完全にウラワのものだったし、今日こそは確実に勝ちきってくれるだろうとハーフタイムの間考えていた。ただ、何となくこうした展開のアウェー戦には嫌な記憶が多くて、完全にチームの事を信じていたかといえば嘘になってしまうかも知れない。心のどこかに黒い影があって、それが僕が信じる確実な結果に少しだけ霞をかけていた。失点した時間帯も、それに輪を掛けていたし。 後半が始まって立て続けにコーナーから失点したのは、いや結局相手の3点目は得点にはならなかったのだけれど、それでもあれだけ簡単に失点の形を作り出されてしまうのはファーストステージから続いている課題が克服出来ていない証拠なのだし、やっぱりアウェーの戦いはそう簡単に勝利を見させてはくれないなあと考えていた。考えていた、なんて書いているけれど実際その時間帯は完全に興奮状態に入ってしまって、一緒に見ていた自分の奥さんに八つ当たりをしたりして僕はもの凄く機嫌が悪く、ブラウン管を通して見るピッチの選手達が不甲斐なく見えて仕方が無かった。しかし、冷房の効いた部屋で椅子に座りながらテレビ観戦している自分に選手達への文句など言える筈もなく、すぐに気を取り直して現地で戦っている彼ら(勿論サポーターも含めた)に気持ちを送ろうと考え直した。 後半に入ってからは神戸の動きだしが増えて押し込まれる場面が多くなり、コーナーが続いた時はどうなる事かと思ったけれど、それでもその後のウラワは良く耐えた。耐える内にやはり神戸もその勢いを持続させる事が出来なくなって、中盤以降ウラワもリズムを取り戻してきた。選手達の顔を見ていると、エメルソンの瞳にはまだ光を失っていなかったから、そしてチーム全体がおどおどした雰囲気を見せていなかったから、よしこれなら再度引き離す事が出来るのではないかと考えられる様になっていった。エメルソンの勝ち越しゴールはそう考え始めた矢先の出来事で、シュートの強烈な印象と併せて室内ながら僕はその瞬間大声を上げてしまった。 内容は、ファーストステージで見せたアウェーゲームの安定感を欠くものと酷似していたけれど、ウラワのリザルトに残ったのは全く違ったものとなった。この試合で勝利を得た事はとても大きな意味を持っていて、同点に追いつかれてから立て直す事が出来たチームは、これでまた少しだけれど貴重な一歩を踏み出せたのでは無いかと思う。最初から最後まで隙を見せずに戦い抜いて圧勝出来る試合など年に何度も無いのだし、こういった苦しい試合で如何に勝ち点を多く奪っていけるかがウラワにとって必要な事だ。内容が良くて勝てればそれに越したことはないけれど、今日みたいな試合でも勝って終われば次へのモチベーションも上がるし、内容が良くても勝てなければ意味がない。それにしてもユニバーは真っ赤だったな。 ◇雑感◇ 8.11Jではセカンドステージへ向けて、結構な選手の移動が見られる。エムボマがヴェルディを去ったと思えば神戸へと移籍し、フランスから廣山がそのヴェルディへ加入した。新潟はオゼアスを獲得し、鹿島はでくの坊2トップに期待するのを止めて、ベルギー帰りの鈴木とバロンの2トップで後半戦に臨むらしい。G大阪と清水にはそれぞれ出戻り組がボランチへと入る様子で、どのチームもセカンドステージの覇権争いに向けて補強に暇がない。 そんな中、我がウラワはブラジル人ディフェンダーの“ネネ”という選手と合意に至ったらしいのだけれど、代理人の問題からすんでの所で契約が反古になってしまった。ファースト終了直前に加入したアルパイを除けば、ウラワはセカンドステージへ向けての補強は今の所ゼロであり、戦力的な上積みは出来なかったと言って良いと思う。 ただ、ウラワには戦力的な上積み以上に、大きな経験を得た。マンチェスター・ユナイテッドと戦う事は叶わなかったけれど、昨年の世界王者と国外で一戦交える事が出来たのは、この上ない補強と言えると思う。その試合は、結果・内容ともども悔さが残るものだったけれど、そしてその悔しさを晴らす場面は雷雨によって失われてしまったけれど、それが逆にセカンドステージへと繋がる事になると思う。帰国後、選手達のインタビューを読むと、明らかに悔しさがにじみ出ているコメントを多く見られて、ボカの厳しいプレスと、効率的な攻撃を肌で感じて、ウラワの選手がまた一つ上のステップへ進めるのではないかと考えている。 国内で行われた親善試合を見るにつけ、1試合しか出来なくてもやっぱりイングランドへ行って良かったのじゃないだろうかと思う。あんな経験は、なかなか出来るものではない。オールドトラフォードの地で、何度も何度もボールを失い、自分たちのフットボールを上手く表現出来なかったウラワの戦士達は、きっとその悔しさをリーグ戦にぶつけ、また違った形で世界へと飛び出す方策を考えるだろう。リーグを制覇し、アジアチャンピオンズリーグへ。世界クラブ選手権へと。 ◇言い訳◇ 8.9いよいよ決算が目前に近づき、僕の忙しさは絶頂を極めている。ただ、それが他の人にとっても同様に忙しいと感じるかは判らなくて、あくまでも僕の感じ方の問題だ。毎晩日付が変わるくらいまで働いている訳ではなく、徹夜なんて滅相もない。きちんと毎日6時間は寝ている。普通に自分の近しい人たちを見回しても、僕よりも労働時間が多い人はごまんといるし、それこそ社内の編集に携わっている人間は3徹・4徹当たり前で働いているのだから僕が忙しい等と云うのは烏滸がましいのかも知れない。 ただ、だからといって単純に労働時間のみで忙しさが計れるのかというとそうでは無くて、例えば時間は短くとも受け取らなくてはならないプレッシャーだとか責任だとか、もしくは上から降りてくる理不尽な要求に答えなくてはならない事とか、そういった様々な現象が重なり合って体感的な忙しさは増していく。拘束時間はそれ程でも無くても、布団に入ってから仕事の事を考え初めて眠れなくなったり、休日だろうとも翌週に待ちかまえる無理難題に対して思いを巡らせ休んでいるのに休まらない感覚を味わったり、実際会社で働いている時間以外にもこうした積み重ねがあって、僕は忙しい事を感じ取っている。 ここまで読んだ所で、何だ忙しいとか言っている割には大した事がないじゃないかという意見もあるだろうけれどそれを受け入れる事は実は容易く、単純に僕は仕事に対してそこまでの思いを持って相対していないという事だ。自分の時間を削ってまで身を粉にして会社に奉仕しようと思っていないし、何があっても大事なのは自分の時間であり、自分やその周囲を、自分の納得の出来る感覚で満たす事の出来る時間が最も大切なのだ。勿論それを支えているのが自分の稼ぐ給料だという事は理解している積もりだし、要はバランスの問題なのだ。働いている人ならば誰でも、そのバランスの重心は違えども、こうした葛藤の中生きているのだと思う。 僕は、その仕事以外の時間においていつもならばウラワの試合のビデオを見たり、サイトの更新をしたりしながら過ごしている訳だけれど、ここ2ヶ月ほどそれら全てを行うのはとてもじゃないけれど時間が足りない。こんなちんけなサイトでも更新するのには一日1〜2時間は掛かっていて、平日の場合大半は、サイトの更新だけで帰宅してから就寝までの時間を使い切ってしまう。決算期に入ってからはその時間すらままならなくなり、帰宅してからも翌日使うための資料作りに忙殺され、高いテンションを保ったまま毎日を過ごしている。 そんな中、ウイニングイレブンの新作が発売されてしまったからたまらない。手に入るや否や僕の余暇は全く余分の無いものへと変貌し、起きている時間の八割方はテレビの画面と睨めっこする時間が続いている。よもや自分を生んだ親も、来年30を迎えようとしている大の男が、テレビゲームに一日中興じているとは思いもよらないだろう。だけど面白いものは仕方がない、翌日に影響が著しく出ない程度に僕はここ数日ウイニングイレブンの狂信者となり、目を血走らせながら画面の中で踊る疑似フットボールの世界へと没頭してしまっているのだ。こんな事が出来るのだからやはり忙しくないのだろうと自分で自分を嗤いながら、それでも一旦ゲームを始めてしまうと、その手を止めることは僕にとって禁煙するよりも難しい。 サイトの更新が滞っているのは、そんなもの凄く下らない理由によって成されている。ウラワ的には色々なニュースがあって、書く題材には事欠かないけれど。昨日の日曜日、朝起きてから夕方遅くまで昼夜を無視してゲームに熱中していた僕は、はたと立ち止まって考えた。恐らく、このままでは自分が駄目になりそうだし、何らかの解決策は無いだろうかと。きっと、自分の手元にこのソフトがあるからこうなってしまうのだから、やはり手放す他解決策は見いだせないだろうな。そう考えて、僕は明日ソフトを売りに行く決断をした。まるでギドが山田をスタメンから外すかの様な、僕にとっては“英断”といっても良い程の。やってる事は自分の子供時代から全く変わらないし、少しは経験から学ばないとね。 散々言い訳しましたが、明日からまたぼちぼち更新を真面目にやる様にします。ウイイレは楽しいけれど、リアルな世界で体感出来る事の方が実りが大きいしね。30才がそろそろ現実的になってきた、情けないオトコの日常。 ◇凡試合と好試合◇ 8.2取引先のビルを裏口から出てすぐの所にある公園のようなスペースで、形だけといった趣で植えられた常緑樹に囲まれながら、これまた適当に据え置かれたベンチに腰掛けタバコに火を点けた。相変わらず続く真夏日に辟易しながらも、そうはいっても八月生まれの僕にとっては暑くない夏など夏では無いな、などと考えながら、頭の上から降ってくる蝉の鳴き声に耳を傾ける。そう言えば、蝉の鳴き声を聞くと夏を感じるのは今に始まった事じゃないのだけれど、何時も蝉の声を聞くのは彼らが留まっている木々の全体、つまり遠くから見ると林や森に聞いている事が多くて、それも一匹ではなく相当な数の蝉の声が一体となっているのを聞いている事が殆どだ。今日何気なくベンチから上を見上げると、一番近くの幹に留まっていた蝉が目に入ってきて、そこから大きな鳴き声が聞こえてきているのに気がついた。ああ、本当はこういった一匹ごとの鳴き声が集積して、始めて夏の風物詩は生まれてくるのだなあと感慨に浸りながら、昨日見ていたフットボールの試合に思いを寄せた。 MXテレビとフジテレビでほぼ同時に行われていた、Jリーグのチームとスペインのチームが戦う2試合の中継は、始めから最後まで僕を苛立たせ、終わった後も爽快感のかけらも僕に与えてくれはしなかった。結果だけを見れば両試合ともに大差がついたJの敗北であり、Jの実力を世に知らしめるどころか欧州好きの日本人を沸き立たせる事実しか残らなかったし、フジテレビを見ていた余りフットボールに詳しくない、もしくは詳しくなろうとせずに物事の表面だけを見てさも自分は良く知っていると披露するのが好きな人達に、より余計な情報を与えてしまったと僕は嘆くことしきりだった。ただそれでも両方の試合をザッピングで見ていた感想は、結果には表れないものを僕に与えてくれてその面だけは良かったと思う。大差での勝利と言っても、レアルのそれとバルセロナのそれでは内容面に大きな違いがあって、最後まで集中を切らす事無く高いポゼッションを保ちながら鹿島の陣内で試合の80パーセントをコントロールし、尚かつ相手ボールになれば脱兎の如くプレスを掛け続けたバルセロナと、偉大な選手は多数出場していたけれど足取りは重く、これといって切れたプレーをしていた訳でもないヴェルディに何度もゴールを脅かされたレアルとでは、比べるのもおこがましい。鹿島は大変だっただろうなと思う。 多分、試合を見ずに結果だけを知っていたらこんな感想は持たなかっただろうと思う。全く、鹿島も東京Vもだらしがないなとぼんやり考えたりしてすぐに忘れてしまった事だろう。しかし、現実にはこれだけ質の違うフットボールを見せられて、蝉の鳴き声もこれと同じ様な事なのだとひとりごちた。十メートルかそこいら先にある林から蝉の鳴き声が大音量で聞こえてきても、きっとそれはいつもと同じ夏を表す代名詞だとしか考えない。しかし、今日の様に目の前で必死に幹にすがり、鳴き続けている一匹の蝉を見ると、そうか同じ蝉とはいっても色んな種類のものがいるのだろうし、鳴き声一つとっても様々な音色があるのだなと考えられる。だから、その後知った新潟の結果も、バレンシアがあれ程の失点を喫する様子が簡単には想像できなかったけれど、きっと色んな要素が絡み合ってあの結果に繋がったのだろうと理解する事が出来た。 少なくとも、レアルにとってバレンシアは簡単に勝てる相手では無いし、事実去年レアルはバレンシアの後塵を拝している。というよりも、バレンシアはスペインリーグを制覇したクラブであり、レアルはたかだか4位のチームなのだ。それでもフットボールはその時々で結果も内容も驚く程の多面性を見せるし、それがたかが親善試合の類であろうとも選手達のモチベーション一つで想像以上に良い試合になったり、どうしようも無い程の凡試合になったりもする。 多分なのだけれど、バルセロナがあれだけのパフォーマンスを見せたのは、国立に集まった鹿島のサポーターが何時も通り頑張って応援したからついそれに反応してなのかも知れないし、レアルが極めて凡庸な内容しか見せられなかったのは、味スタがいつも通り静かでしかもレアルの得点時にのみ沸きかえるという状況にだれてしまったからかも知れないと考えた。アダーニがエメルソンに対して怒りの感情を露わにしたのも、それはエメルソンのプレーが凄いというのが最も大きな理由だと思うけれど、もう一つあのスタジアムの雰囲気が更にそれに輪を掛けたのかも知れない。埼玉スタジアムに飲み込まれた5万数千の観客数は、実はイタリアでもそこまでの数が入る試合などそれ程多くなくて、尚かつあれだけのアウェー感の中で試合をする事などインテルの選手にとっては希な事なのではないかと邪推してみる。 今週イングランドで行われる2試合は、実のところウラワの選手達にとって初体験となり得る環境を伴っている。オールドトラフォードスタジアムを埋め尽くす観客は、ボカとの試合ではそれ程多いとは思わないけれど、やっぱりホームマンチェスターユナイテッドとの試合では満員とはいかなくても、それに近い人数の「本場・マンチェスターユナイテッドサポーター」がうようよいる状況になるだろう事は容易に想像できる。そう、Jリーグだとホームは勿論、殆どのアウェーゲームでもホームジャックを敢行し常にホームゲームに近い環境で戦っているウラワの選手達が、始めて異様なアウェー環境の中で試合を戦うのだ。同じJリーグのチームでも、恒常的にアウェーの様な環境でを戦う事を余儀なくさせられるチームもあるのだし、それとは逆の立場ウラワにとって、かけがえのない体験になると考えている。 タバコを水の入った灰皿に投げ入れ、ジュッという音と共に吸い殻の火が消えるのを確かめてから、僕はたった5分程度の間によくこれだけの事を思いついたななどと考えながら、鞄を持って仕事へ戻ろうとベンチから立ち上がる。僕の応援するチームは常にホームの様な環境で戦っているけれど、僕はいつもアウェーだな。もしかしたらウラワの選手達よりも、僕の方がメンタルが強かったりして。なわけ無いか。 ◇駄目な奴◇ 8.1まあ、忙しいのは間違いなくて、夜自分の時間が極端に減っているのも事実なのだけれど、さりとてサイトの更新が全く出来なくなる訳でもない。これだけ頻度が落ちているのは封印していたウイニングイレブンを机の奥底から取り出してしまったからで、実を言うと来週発売される予定のウイニングイレブン8を予約してしまって、結構な時間離れていたこのサッカーゲームの情報をネットで漁り出すと止まらなくなって、始めてしまうと数時間があっという間に飛んでしまうこれを半年以上封印していたのだけれど、先週その封印を自主的に解除してしまったのだ。 やはり一度ゲームを始めると、一瞬にして日付が変わっていたりして時間の流れ方が変わった様な気がして興味深い。大人になると時間が経つのが早く感じる様になると良く言われるけれど、僕も30間近になってその現象を痛い程実感しているけれど、それでもこのゲームを始めるといよいよその時間は加速する。古いやつを取り出してきてもこの始末なのだから、来週新しいバージョンを入手したらどんな事になるか想像すら出来ない。仕事のストレスを解消する手段としても、このゲームは効力を持っている様だから、更に僕の時間は早くなるだろう。 という訳で、サイトの更新はぼちぼちやる事にします。毎日見に来て頂いている方には大変申し訳ないのですが、当面、僕がゲームに飽きるまでは更新頻度が極端に下がる事になりますので、どうかご了承下さい。って、そんな気にしている人はいないか。 |