◇ウラワ系サイト管理人様方へ◇ 6.29えー、唐突ですがとある企画を実行します。題して、 ![]() 具体的には、思い出話を書いたら勝手に次のウラワ系サイトを指名したり、または、これを見つけた方が勝手にトラックバックするなどして書いたり。上手く続けば面白いですし、途中で止まってしまえばそれまでかなと考えております。 振り返ればもうJリーグ開幕から11年が経ち、気がつけばかなりの歴史を積み重ねてきました。1年目からずっと熱くサポートし続けている方もいらっしゃるでしょうし、僕のように中途半端な観戦が長く続いた方もいるでしょう。つい最近、ウラワにはまりこんだ人もいるかと思います。人それぞれ、心に残る試合や場面は異なるでしょうし、同じ試合でも捉え方は千差万別だと思いますから、様々なアプローチが垣間見られればとても面白いと思います。 NO.1 平成14年11月4日 vs鹿島アントラーズイープラスでチケットを取る事が出来た時、実はそれ程観戦に関して心配していなかった。当時の僕は、今ほど熱心にウラワの試合を見に行っていた訳では無く、ゴール裏に行くことは殆ど無くて専らSBの住人だった。シーチケを持たない僕は、駒場での観戦も限られていて、国立やさいスタといった大きな器の試合を見る事がどうしても多かった。まあ、サポーターと言うよりはファンと言った方が正しかったのだろうか。国立では、いつも決まってA席を購入し、試合開始の1時間と少し前に着くようにしていて、聖火台の麓あたりに席を確保していた。いくらウラワの動員が凄いと言っても、聖火台のあたりまでぎっしり埋まる事はそう無く、ゆったりと足を伸ばして試合を眺められる立地を、僕はそれなりに好んでいた。 いつも国立の時はそんな感じだったから、幾ら初めてのファイナルだからといって、そこまで焦って早い時間に行かなくても席は何とかなるだろうというのが、チケットを取れた時の正直な感想だった。イープラスが余りにも繋がらなくて、PCのモニターに映る「ページが表示できません」という文字を見ていても、他に何か大きな催しがあるのだろうなと、のほほんと構えていたのが昨日の様に思い出されて懐かしい。 こんな案配だから、当日午前11時半に千駄ヶ谷を降り立った僕が受けた衝撃の大きさは、推して知るべしだ。本当に吃驚した。だって、開門時間は過ぎていた筈なのに、入場しようとする人達の群れは駅前から遙か離れた場所に最後尾が位置し、とても試合開始までに入場が間に合わないだろうと思わせる程で、この時ばかりは自分の無知を徹底的に呪った。代々木へと続く駅前の道路には真っ赤なユニフォームに包まれたサポーター達が蠢き、遅々として進まない列にイライラしている様子が遠くからでも確認できた。焦った僕は、今どんな状況になっているのかを知るべく、国立競技場の周囲をぐるぐると歩き回った。30分後、これはもうどうしようも無いという結論に達した僕は、諦観して列の最後尾に連なった。相変わらず列の動きは余りにも遅かったけれど、自分が撒いた種なのだから仕方がないと言い聞かせ、歩きながらレプリカへと袖を通し腕を組みながら入場出来る時を待った。 並びながら想像はしていたけれど、場内に入るとその想像が中途半端なものだと痛烈に気づかされた。無い。試合を見られるスペースが、全く無いのだ。聖火台のあたりでも、席どころか通路にまで人が一杯に溢れ、立ち止まるスペースすらままならない。ずっと鹿島よりまで進んでも、その状況は変わらなかった。呆然と立ちつくす僕の携帯が鳴ったのは、その時だった。いつもクルヴァで見ている知人から掛かってきた電話は、「席が無いんだろ?こっちはつめればどうにでもなるから、ゴール裏へ来いよ」と云う様な内容だったと記憶している。殆ど思考停止になっていた僕は、何かに導かれるままにアウェーゴール裏へふらふらと移動し、呼んでくれた知人にお礼をするのも忘れ、ただ青いピッチを見つめていた。 そうする内、赤く染まったスタンドがざわめきだし、その方に視線をゆっくりと移動すると、そこにはASローマのホームゲームを思わせる様なフラッグの洪水があった。そう言えば、昨日浦議にLフラッグを持って行こうなどという書き込みがあったな。ゆらゆらと振られる赤い旗の海を見ていると、自分がどこにいるのか見失いそうで、フラッグの海に自分が沈んで行く様な感覚を持ち、足下がぐらぐらと崩れていく様な気がした。試合前から僕は準備不足だったし、もうその時点で終わっていたのかも知れない。そんな積もりは全く無かったけれど。 試合には負けた。攻撃では殆ど形を作れず、ウラワは不運とも言えるオウンゴールによって、初めてのタイトルを寸での所で失った。ただ、僕にとってはスタートの試合だった。生まれて始めてクルヴァで90分を過ごし、声を張り上げて応援する事の実際を知った。試合後はぐったりと疲れ、次の日は全く体を動かす事が出来なかったけれど、如何にウラワが沢山の人から愛され、素晴らしい応援を持っているという事を、自分の体を通じて理解する事が出来た。テレビを通してでは絶対に解らなかった、SBや聖火台からでも遠かった、クルヴァの魅力。自分の力でチームを鼓舞する事の出来る素晴らしさ。それを知れただけで、僕にとってこの試合が分水嶺となったのは間違いなく、その後のサポートに対して絶大な影響力を持った。 それまで少し斜に構えていたのがもの凄く馬鹿らしくなり、僕はそれこそあっという間にゴール裏の住人へと変化した。遠くから眺めるウラワもそりゃ悪いものじゃ無かったけれど、自ら応援する事でチームと一体となって戦える事の魅力に比べれば、もう比較にならない。これ以降、僕は観戦という単語を使う頻度が徐々に下がり、参戦という言葉を好んで使う様になる。とあるサポーターが、また一人増えた一日。 こんな感じです。取り敢えず、お次の方を指名させて頂きます。にゃんた夫妻、宜しくお願い致します。ネタでも勿論ありありです。 ◇徒然なるままに◇ 6.27負け惜しみと言われようが、横浜が何度優勝しようと日本のフットボール文化は進化しない。3期連続のステージ制覇は史上初らしいけれど、それがどうしたというのだ。今日、何気なく手に取ったスポーツ新聞の一面に「横浜!」の字が躍っていたから、何だ漸く日本のメディアもフットボールを真面目に取り上げる様になったのかと思いきや、続く文字は「合併か?」ときたもんだ。馬鹿にしていると憤った所で仕方がない。メディアにとっては、横浜マリノスの優勝なんてその程度の価値しかないのだから。 優勝をかけた試合を、少なくともさいスタよりは余程アクセスの良い横国で行いながら、結局観客動員でウラワに全く差をつけられない横浜。選手達が必死に戦っているのは解っているし、彼らが強さを増してきているのも十分理解している。だからこそ、彼らが可哀想ですらある。これだけ勝ち続けても3日もすれば彼らの功績は忘却の彼方へと吹き飛んでしまい、きっとユーロの決勝や五輪代表の壮行試合に巷の噂は持って行かれてしまうだろうから。 サポーターとすれば、世間がどんな反応をしようが関係ないのかも知れない。僕だって、ウラワがもし優勝したりすれば、メディアが全く騒がなかろうがそんな事はお構いなしに三日三晩飲めない酒を呷り、仕事の事など微塵も考えずにひたすら喜びに浸り続けるだろう。恐らく、横浜のサポーターたちは今そんな心境なのだろうし、彼らの歓喜に水を差す積もりは毛頭ない。 ただ、じゃあそれで良いのか、という事なのだ。確かに、フットボールは日本のプロスポーツの中で相変わらず野球に次ぐ二番手の存在に甘んじているし、野球の壁が想像以上に高いのは周知の通り。今でも野球中継を見ていると、身長が闘莉王より大きい奴らが平気で守備固めに出てきたりするし、裾野が広がったとはいえ身体能力に優れた輩はまだまだ野球に進んでいるのだろうと思わせる事が多々ある。選手の年俸にしても、フットボールは野球選手のそれと比較するとゼロが一つ足りず、プロのアスリートを目指す将来有望な青少年諸君が描く将来の青写真に、微妙な影を落としている。 ワールドカップを自国開催した影響や、続々と海外へ進出する日本人フットボーラーによって、間違いなく海外のフットボールが日本のメディアに報道される機会は増えてきた。海外のフットボールを紹介する雑誌は右肩上がりに部数を増やしているし、今回のユーロや昨年からのチャンピオンズリーグが地上波で放映される様になったのはその証しでもある。Jリーグも、ワールドカップの為に建設されたスタジアムの効果によって、多少なりとも観客動員自体は増加しているけれども、まだ何かが足りないと感じる。もっともっと、日本全体が自国のフットボールリーグへと目を向ける状況を作り出さなくてはならないのではないか。 お金が全てだとは言わない。今のJリーグは吸収合併で大騒ぎしている野球などより、余程健全な運営が出来ているとも思う。しかし、一つの球団に牛耳られている野球の方が、メディアの露出が多く、明らかに発言力で上回り、選手が得られる報酬も多い。若き才能が自分の未来を考える時に、予想される収入をその考慮に入れない等と誰が言えようか。そこまで綺麗事ばかりでは無い様な気がする。 フットボールクラブの主たる収入源は、チケットの売り上げ収入とスポンサー収入、あとはグッズの売り上げ等だろう。プロ野球やメジャーリーグ、そして欧州のトップリーグと最も異なる点は、テレビの放映権料だ。現在の様に、自国のフットボールリーグの注目度が高くない状況では、なかなか放映権料が高く売れる事も無いだろうし、恐らくこの壁を突破しないとJリーグが更なる高みへ進む事は難しく、フットボールが文化として根付くのに少し弱いと思う。 ウラワは、フットボールクラブとして沿革については日本で最も恵まれたクラブだ。地域全体がクラブをバックアップし、サポーターの数や熱さも飛び抜けている。そんな中に身を置いているから普段はなかなか気づかないけれど、他のクラブは運営に汲々としている所も少なくないのだ。この状況を打破する為には、もはや方法は一つしかない。世代別を含む代表選手を最も多く抱え、選ばれし者しか得られない“真紅”のチームカラーを持つクラブが、圧倒的な強さを持ってリーグを制覇するしかないのだ。絶対的な“強”の要素を持ったウラワレッズが、グランデとなりJリーグを支配する。そうなった時に初めて、メディアは自国のフットボールリーグに注目を集める様になるだろうし、スポンサーにとって旨味のある対象としてフットボールが昇華されるだろう。 昨日、クソ熱い中声を張り上げ、酸欠で倒れそうになりながら考えていた。ここには、こんなに素晴らしいエンターテイメントがあるんですよ。もっともっと、この事実を知らない、知ろうとしない人達に、この楽しさ、素晴らしさを誰か伝えて下さいと。ウラワを知らない人生なんて、勿体なさ過ぎるから。 ◇ファースト最終戦◇ 6.26ボーイズマッチでウラワの子供達は、何故だか体格に勝るFC東京ユースを相手に、押し込まれながらも何とか耐え抜き勝利を収めた。僕の不確かな記憶を信じるならば、埼玉スタジアムで瓦斯から勝利を奪った初めての瞬間だ。ジンクスなどからはもう離れなければならない時だと解ってはいても、ホームで瓦斯に勝った事がないという事実は、心のどこかに巣くっていた。しかし、それもこれまでだ。ボーイズマッチとは言え、それぞれが身に纏っていたユニフォームはトップチームと何ら変わりのないものだ。余りの暑さに耐えがたく、コンコースに避難しようと何度も思ったけれど、後半終了までボーイズマッチを見ていて本当に良かった。瓦斯に対して持っていたネガティブなイメージは、ウラワの子供達によって見事に払拭された。 トップの試合が始まると、その思いはより一層強固なものになっていった。今までの戦いと同様に、瓦斯はいつも掲げている攻撃サッカーの片鱗を見せる事も無く、終始ウラワがボールを支配する展開。瓦斯は前線からどんどんプレスを掛けてきて、俺たちはモダンなサッカーをやっているんだと必死にアピールするものの、外国人二人が抜けてボールの落ち着かせ所を持てずに、全く攻撃の糸口を掴めない。翻ってウラワは、開幕時に戻った様な3トップがなかなか流動的に動く事が出来ずにいたけれど、それでも執拗に永井と山田の右サイドからどんどん攻撃を仕掛けていき、試合の流れを失う事は無かった。だから、前半終了間際に茂庭がオウンゴールを献上してくれたのは、取り立てて驚くべき事では無かった。圧倒的に、ウラワの方に得点の気配が漂っていたのだから。 後半に入っても、その流れは変わることなく時間は過ぎていく。暑さからか瓦斯のプレスは徐々に弱まり、ウラワはゆったりとボールを保持する様になる。そんな時、自陣でボールを奪った長谷部が長駆相手ゴール前まで敢然と進み、アレックスへとスルーパスを出す。アレックスは未だにフィット出来ず苦しむ精神性を体現するかの様に、弱気なマイナスのパスを一度は出すのだけれど、増嶋にカットされたボールが再び彼の足下へ戻るや、土居が鍵をかけ忘れたゴールマウスのニアサイドへ向けて、冷静にボールを流し込んだ。これでファーストステージは終わってしまうし、今日のアレックスも重い動きが目立ったけれど、それでもこのゴールが彼の中の何かを変えてくれると信じてる。満足なんか出来る訳が無いだろう。セカンドステージ、アレックスは一つの大きな目標に向かって、突き進んでくれる筈だ。 4級審判員の穴沢氏が見事なまでのファンタジーを見せて、後半20分過ぎから試合は混沌の中へ迷い込んだ。達也がいなくなり、一点を返され、茂庭が退場し。ただ、僕の心が惑わされる事は無かった。もう、瓦斯に対する偏った思いは払拭されたのだ。実力差が殆ど無いチーム同士の対戦で、これまで勝てなかったのが不思議だったのだ。今年、味スタで初めての勝利をヴェルディに対して挙げて、今日、瓦斯に対するリーグ戦の連敗に終止符を打った。こうやって、今まで貯めこんできた下らないジンクス達を一つ一つクリアにしていくのだ。無意味なジンクスの積み重ねが全て消え去った時、ウラワは本物になる。 長すぎたロスタイムが終わり、試合終了のホイッスルを聞いた時、何とも言えない感慨を覚えた。シーズンが始まる前、僕はファーストステージのウラワにそれ程の期待感を持っていなかった。新しい選手と、経験の無い新しい監督を迎え入れ、上手くチーム作りが出来れば良いと考えていた。しかし、終わってみれば3位というチーム最高位タイの成績を収めた。勿論、この成績を不満に思う人も居るだろうし、あれだけの戦力を抱えているのだからもっと優勝に絡まなければ駄目だと思っている人も居るだろう。でも、僕は思う。シーズンのラスト3試合、去年は優勝に絡みながら2敗1分で勝ち点を1しか取る事が出来なかった。今年は、ラスト3試合で、1勝1敗1分で勝ち点を4奪う事が出来た。この勝ち点3の分は、間違いなくチームが前に進んだ証しであり、少しずつだけれど成長を遂げた表明だと思うのだ。 マイナスの意味を持つジンクスを一つ一つ取り去って行き、勝ち点1にこだわる質の高いフットボールを目指しながら日々精進する。今日の勝利は、本当に大きい意味を持つ。ウラワはやはり成長していたし、それは結果が証明した。今日の夜、テレビを始めとするメディアでは横浜の事で持ちきりになるのだろうけれど、一番戦々恐々としているのはもしかすると横浜のイレブンと監督なのかも知れない。ウラワが、フットボールクラブとして唯一足りないものがリーグタイトルだ。それ以外は、全て揃っている。このままウラワが順調に歩みを進めていけば、日本で唯一無二の存在になるのは明らかで、その歩みは遅くても着実に進んでいる事を証明出来たのだから。セカンドステージが楽しみだ。 ◇サボタージュ◇ 6.24今日も、営業マンは歩き続ける。取引先をまわる為、午前早い時間に会社を飛び出せば、そこには真夏の様な太陽が照りつける空間が広がる。コンクリートで固められたビルや足下のアスファルトはその光を反射し、人間が作り出した物だというのにそれらが僕を慮ってくれる様子は今のところない。それらはずっと日の光を増幅し続け、気温を高め続けてくれる。全く、ご苦労な事だ。歩いていると想像以上に気候は厳しく、上着などとうの昔に捨て去って半袖のワイシャツだけで外回りに出ているのだけれど、そんな悲しき抵抗などまるで無かった事の様に、日光は容赦なく僕を責め立てる。 吹き出す汗を抑えつつ、そして流れ落ちる汗は半ば諦めながら、じっとりと湿ったシャツを体に感じながら、延々と歩く。排気ガスによってうっすらと灰色に濁った青空は、少年時代の夏休みを想起させ僕からやる気という意味の言葉を奪い去り、また少年時代の光化学スモッグ注意報を思い出させ頭痛の種を増やしてくれる。意味もなく歩いている訳ではないし、お金を稼ぐ為に歩いているのだから決してこの徒歩に使用している時間が無駄では無い事を理解している積もりではいるのだけれど、僕を易々と追い抜いていく乗用車に乗る涼しげな人達を見ていると、言いようのない憤りの感情がふつふつと湧いてきて、更に体温を上げていく。 もう5年もこの仕事を毎年繰り返しているのだから、この季節がこんなものだと理解はしている。歩きながらイライラするのも、毎年同じように繰り返されている輪廻の様なものだ。それにしたって、ここ数日感じている不安定な心根はこの暑さだけでは説明出来ない。頭に血が上って余計な体力を使っているのは例年以上だし、そういった感情の発露はここ数日に集中している。何故だろうと必死に考えてはみるものの、暑さにのぼせ上がった貧相な僕の思考回路がそこで仕事をしてくれる筈もなく、その答えを漸く見いだせたのは、遂に暑さに我慢がならなくて立ち寄った喫茶店に於いてだった。ふらふらと歩く僕の目の前に、突然出てきたかの様な古びた喫茶店。普段ならばどうやっても入る筈のない、薄汚れた外装の喫茶店。ただ、歴史だけは長そうだ。 予想通り、アイスコーヒーを運んできた主人は、眉間に深い皺が刻まれ、真っ白い口ひげを蓄えた老人だった。無言で働く彼から視線を外し、目の前に置かれた飲み物をぼうっと見る。 冷静に考えれば当然なんだけれど、やっぱり僕の不機嫌は、急に襲ってきた暑さと急に失速したウラワが絶妙なバランスで同時に僕の所へやってきたからだという結論に達した。僕は、慣れない手つきでアイスコーヒーにガムシロップを落として、グラスにまとわりつく水滴を疎ましく思いながら、紙袋からストローを取り出し、既に溶け始めている氷と砂糖とコーヒーを撹拌しながら考えていた。去年までだって、この時期ウラワが勝ち続けていた訳でもあるまいし、暑いのは毎年の事なのだし、どうして今年はこれだけ機嫌が良くないのだろうかと。それはやはり、期待値の大きさなのだと思う。昨年は兎も角、僕が働き始めてからのウラワは、常に優勝争いする位置にいた事など無く、如何に降格から免れるかどうかの場所に居た。それが今年は、開幕前から優勝候補の呼び声高く、チームの状況も5月に入って右肩上がりに上昇し、現実にリーグ11節を終えた所までは優勝を狙える位置につけていたのだ。 それがどうだ、ウラワは残り4試合で見事なまでの失速を見せ、昨年の終盤に感じた虚脱感を再度僕に突きつけてきた。色々勘案すべき事はあるけれど、一度大きな期待をもってしまった者にとって、その期待を奪い去られた時の喪失感は甚大なものだ。急激に上昇してきた気温とクロスオーバーする様にウラワの勢いは下降し、僕の精神に絶大な影響を与えた。この数週間、ウラワの勝利を見ていないのも大きな理由の一つとして挙げられるかも知れない。 となると、土曜日の試合でもし上手く締めくくれない様な事があれば、少なくともそれ以降の3週間は今と同じような不安定な精神状態で過ごさねばならなくなるのだろうか。それは絶対に阻止しなくてはならない。もとより、こんなやる気の出ない状態で3週間も仕事を続ければ、間違いなく職務に弊害が出てくるだろうし、結果自分がどんどん厳しい場所へと追いやられてしまう事にもなりかねない。だから絶対、土曜日の戦いは負ける事は許されない。 どんな時も変わらぬスタンスでチームをサポートしたいと考えてはいるけれど、今度の土曜日はちょっと今までより高いモチベーションで臨む事になりそうだ。相手はいけ好かないガス屋だし、この溜まった鬱憤を晴らすには丁度良いではないか。ウラワを相手にすると、マングースに睨まれたコブラの様に萎縮する奴らなど、簡単に捻り上げてしまえば良い。リーグ戦で勝っていない事など全く気にする必要もない。それは、去年の戦いで明らかになっている。嘘で塗り固められた攻撃サッカーを標榜する相手には、本物の攻撃フットボールを見せつけてやって、恐怖におののかせてやる。 ちょっと寒い位冷房の効いた室内で、空になったグラスを握りしめてまた熱くなってしまっていた。気がつけば灰皿に積み重ねられた吸い殻は既に4本を数え、そろそろ時間だ。頭は熱いけれど随分体も冷えた事だし、テーブルの右隅でくちゃっと小さく丸まっている伝票を片手で持ちレジへと向かう。今日も一日、過ごしにくい気候が続くのだろうけれど、土曜の事を考えていたら幾分かやる気が僕の体内に戻ってきた気がした。喫茶店での数十分が僕の精神を上向かせ、美味しいアイスコーヒーではなかったけれど、数百円でこの時間が得られたと思えば安いものだ。落ち込んだら、またここに来ようと思う。お釣りを貰って店主に一瞥をくれた時、彼の表情にうっすらと笑みが浮かんでいた様に見えたのは、気のせいだろうか。 ◇瓦斯戦◇ 6.23前節、瓦斯は名古屋を相手に壮絶な逆転勝利を見せ、ファーストステージ最後のホームゲームを飾っている。ああいう勝ち方はチームを乗せる事が少なからずあって、また何で次にウラワが戦うというのに、という気持ちもあるけれど、最終戦はきっちり勝利を収めたい。昨年、ナビスコの準々決勝で漸く瓦斯から初白星を挙げたものの、結局リーグ戦ではまだ一度も勝てていない訳だし、そう言えば今年になって初めて味スタでも勝ち星を挙げられたのだから、そういった東京のチームに対するマイナスのイメージを全て払拭する為にも、最終戦は優れた舞台になる。 という訳で、その瓦斯戦の後に武蔵小杉にてオフ会をやる予定にしています。試合が午後3時からなので、神奈川まで戻ってくるにはそれなりの時間が掛かると思いますし、小杉の駅に午後8時集合くらいで考えています。とりたててランドマークたり得る建築物がある駅では無いので、集合場所はバスターミナルがあるロータリーにしようか、等と考えてはいるのですが。詳細はここのURLで決めましょう。 ◇空想◇ 6.22空想に耽る。環七沿いにある会社を出て、可処分所得が極めて多い人達が住んでいると容易に想像出来る、それぞれの区画が異常に大きい静かな佇まいの住宅街を、駅へと向かってゆっくりと歩きながら考える。僕が勤める会社のある場所は、喧噪の中を縫うように歩かなければならない様な都心には無く、世間で勝利者と呼ばれる様な人たちが好んで住んでいるのだろうと思わせる所にあるから、妬み嫉みの類は幾らでも心に浮かんではくるのだけれど、今日の様に考え事をしながら歩きたい時には静かでとても都合が良い。都心にはありがちなネオンサインや明るい看板を見かける事もなく、灯りと言えばただ一定の間隔で道路を照らす街路灯だけだから、視覚に与えられる情報も制限されていて心地よい。 急いて歩けば10分も掛からない距離にある駅まで、たっぷり20分近くかけてゆっくりと歩く。ある事を空想しながら。その空想の中身は、もうかれこれ10年以上の間、頭の中を駆けめぐっているものだ。どこからか僕の心へと飛来してきてからこちら、出て行く事を忘れたかの様にずっと居座り続けている。 雲が、夏の時よりずっと高いところにある澄み切った秋空の下に、その空想はある。優しい日の光を緑色のピッチが反射し、そこを吹き抜ける風の冷たさが肌に感じる気温を調整する。あと少しでやってくる冬を感じさせながら、暑くもなく寒くもなく。感覚的に絶妙なバランスが成り立つ、四季の中でもかなり限られた時間である秋の午後。快進撃を続ける赤い軍団が、漸く最後のコーナーを回ってウイニングランへと向かおうとする姿がそこにはある。一年を通して長い時間戦い抜いてきた僕らの代表が、遂に一番上の場所へ立とうとする瞬間。それを僕は、暇さえあれば心の中で思い描いてきた。 大歓声に包み込まれているにもかかわらず、スタジアム中へと響き渡るホイッスルの音を耳にして、鬱屈した想いや歓喜の叫び、ありったけの想いが全て一つの塊となった咆哮をあげる。ピッチを見れば、大の字に倒れ込んで一人喜びに浸る選手の姿や、ベンチへと駆け寄りスタッフと歓喜の輪を作る選手、グラウンド外側で髪を振り乱しながら走り回る選手の姿がある。スタンドでは、そこかしこで喜びの余り咽び泣くサポーターや、あたり構わずハイタッチを繰り返し狂気の表情を浮かべているサポーターもいる。僕はと言えば、嗚咽を堪える様に一人下を向き、両手を痛い程握りしめて歯を食いしばっている。長い間求め続けた結果を得られた喜びに、破綻を来すのではないかと思われる様な心根を周囲に悟られないために、必死で喜びを噛み締めるようにしている。絶対に涙は流すまい、男たるものと思いながら。それも、スタンドに駆け寄るエメルソンの顔が、涙でぐしゃぐしゃになっているを見た時、全てが崩れ去ってしまうのだけれど。わっと溢れ出る感情を押しとどめる術は僕には無く。 危うく、歩きながら泣き出してしまう所だった。去年、国立の舞台でカップを勝ち取った時でも、僕は涙を流す事が無かった。ただ嬉しくて、初めてのタ?敲?栢?pイトルに狂喜乱舞したのは間違いないけれど、リーグを獲った時の為に何かしらの感情を残しておくべきだと思ったから。ここで遣い果たしてはならないと。 どんなにゆっくり歩いても、僕の願いとは裏腹に駅はどんどんと近づいてきて、空想の時間はそろそろ終わりを告げようとしている。どれだけ想い続ければ良いのだろうか。僕らがどれ程強い想いを持ってサポートしているのか、どこかの誰かは解ってくれているのだろうか。ウラワは3位すらままならないチームなのか。勝利者になる為の経験は少ないのだろう。戦術的に未熟な面も多々あるかも知れない。選手も監督もまだ若く、勝利を得るにはもう少し時間が必要なのだろう事も、頭の中では理解しているつもりだ。だけど、心の奥底からわき出てくる想いは、やっぱりウラワがてっぺんに立つことなのだ。もうそれしか、僕の心を満たしてくれる現実は無い。現実とは乖離しているかも知れない空想を、これからも僕は毎日の様に頭の中で反芻する。それだけで、僕の脳髄は活発な動きを始めるから。 駅にたどり着き、ホームで電車を待っている僕の、心拍数が通常よりも2割くらい早まっていたのが、果たして階段を登ったせいだけなのかは僕にも判らない。 ◇桃太郎って…◇ 6.20本当に、物事って思い通りに進まないものだ。願えば願う程、追いかけているその対象はどんどんと遠ざかって行ってしまう。今日岡山では、望んでいた結果を得られなかった。何とか最後の2試合を連勝で終わりたいと、どれ程多くの人が望んでいた事だろうか。そんな切なる願いも、残りの10分であっさりとうち捨てられた。 僕は現地へ行った訳ではなく、結果は携帯電話のメールで受け取った。都合3通のメールを、遠征していた知人から送ってもらっていたのだ。1通目、2通目はともに本文が無く、題名に「エメ!」とだけあった。そして3通目にも本文は無くて、ただタイトルが「…」とされていた。僕はこれで全てを理解したし、携帯電話を片手にがっくりと頭を垂れる時間は酷く長く感じた。その後ネットである程度の内容を調べて、終了直前に逆転ゴールを許したのだと知った。 どこかで経験したような、厳しい結果。去年のセカンドステージ終盤、3試合を残して首位に立っていたウラワは、その3試合を1分2敗で終了し、結果6位まで順位を落とした。そんな経験をしていたから、僕は今期の残り試合できっちり結果を出してくれると信じていたし、それが成長していくチームなのだろうと考えていた。しかし、現実には結果を得る事が出来ず、去年の経験が役に立ったとは言い難い。まだ、経験不足なのだろうか。 多分、その通りなのだ。ウラワにはまだ経験が足りていない。J開幕から連続して最下位を記録したり、下部リーグへ落ちたり、厳しい記憶は沢山あるけれど、継続して優勝争いをした経験は殆ど無い。勝つことのみを願って、そこで苦杯を嘗めた事は、実はとても少ないのだ。今となっては驚くべき事だけれど、つい2年前まで、ウラワの事を考えるのは降格をしないかという心配ばかりだった。順位表を見るのは下からというのが癖になっていたし、ウラワの文字がトップ5にあるのが当然の事になったのは、本当にここ1年の事なのだ。勿論、オジェックや原監督の時に、単発的に上位へ進出した事はあったけれど、実際常にトップを狙えるクラブでは無かった筈だ。そういう意味で、僕らはまだトップを目指す経験が少ない。 そういえば、鹿島もJ元年のファーストステージで優勝してから3年、優勝からずっと離れていた。当時Jリーグはヴェルディの黄金時代であり、鹿島はかなり高いポテンシャルを持って優勝争いを繰り広げてはいたけれど、結局シーズン通しての優勝は、96年まで待たなくてはならなかった。だからウラワがそこまで待たなくてはならないという事にはならないけれど、今日の負けはチームとして絶対に糧としなくてはならない。 チームの最終目的は間違いなくリーグ優勝なのだし、それは監督、選手、そしてサポーターも理解していると思う。清水戦の戦いを見て、僕はウラワが遂にグランデへと近づいたと感じた。もはや、リーグ優勝はとても近い目標になったと感じた。しかし、それ程甘い事では無かったらしい。勝利への渇望を持って試合に臨んでも、僕らには目を覆いたくなる様な事実が突きつけられただけだった。でも、ここで俯いていては前へと進む事は出来ない。 昨年のセカンドステージラスト3試合では、勝ち点を1しか奪う事が出来なかった。そして現在、残り3試合の内1試合を残して奪っている勝ち点は昨年と同じく1。6月26日に迎える最終節は、チームの成長を証明するための試合になる。 ◇登り下り◇ 6.19地下深くに作られた元町・中華街の駅から地上へと上がり、辺りの眩しさに驚く。もう夕方と言っても差し支えないだろう時間にも関わらず、6月半ばだとは思えない程の強さを持った陽光は容赦なく肌を刺激し、その明るさは瞳の上に手を翳さずにはいられない程だ。駅から出て教会へ向かう道のり、左手にはとても美しい公園が見え景観はとても良いものの、長く続く登り坂によって僕の機嫌はすこぶる悪く、共に歩く妻に対してぶつぶつと愚痴を垂れる。何で君の幼なじみの結婚式に、僕まで列席しなくてはならないのだ。駅からは遠いし、坂道ばかりだし。まるで幼子の様に、僕はまるで論理性のない文句ばかりを並べ立てる。そんな僕を見ても妻は全く動じず、いつもの事と軽くあしらいながらすたすたと歩みを進め? ?栢?pていくから、僕の心は癒されない。日の光は相変わらずで、額に光る汗はもううっすらとは言えない程度までになっていた。 だから教会に着いた時、小高い丘の上に厳然と存在する建築物の前に立つ僕は、中に入る気持ちに若干の躊躇いがあった。周囲には全く知らない人ばかり。妻は気を遣ってくれるものの、人付き合いがそれ程上手い訳ではない僕は、気後れして妻の後をしずしずとついて行くだけだった。今日は朝から気乗りしていなかったし、教会の中へ入るまでその気持ちに変化は無かった。そう、中に入るまでは。 僕の短い人生の中で、所謂本物の教会に足を踏み入れたのは初めての経験だ。空調設備がある筈もない建物なのに、ひんやりとした空気を漂わせる教会の中でベンチに腰掛けた僕は、さっきまでの不機嫌が嘘のようにとても厳粛な気持ちに変わっていた。表情が一変したのだろう、妻も僕の顔をのぞき込み、とても不思議そうな顔をしている。僕だって、何故こんなに急に気持ちが変化したのか自分でも理解できていない。大袈裟ではない所に好感が持てるステンドグラスから差し込む柔らかな光を見ている内に、静寂の中澄んだ音色のオルガンを聞いている内に、ふうっと気持ちが軽くなっていったのだ。恐らく、自分を取り巻く物事の内の幾つかが変化し、僕が感じ取る何かを変えたのだろう。大きな何かが変わった訳じゃ無いけれど、多分、小さい物事の一つ一つが少しずつ変わったのだと思う。そんな事を考えていたら、ある事を思い出していた。 それは雑誌のインタビューだと思う。チャンピオンズリーグ決勝で敗れ去ったディディエ・デシャンの話。大差で負けはしたけれど、モナコがポルトより劣っていたとは認めたくないと彼は語っていた。バスク人らしい鼻っ柱の強い口ぶりで、あの試合を彼は説明した。 「ジュリが負傷退場した結果、チームのバランスが崩れて考えていた戦術が全く無に帰してしまった。その他の選手が悪かった訳では無くて、チームの出来映えはちょっとした事で大きく左右されてしまうんだ。もしポルトのデコが早い時間にジュリと同じような状況になっていたら、同じチームとは言えないだろう?」 ユベントスでキャプテンマークを巻いていた時と同じく、とても整理された頭脳を垣間見られた。フットボールは少しの変化がチームに大きな影響を与える事が少なくなく、その分かり易い例がチャンピオンズリーグの決勝だったのだ。勿論、歴史にIFは厳禁だけれど、ジュリがフルに戦ったチャンピオンズリーグの決勝はまた違った展開になったと思う。そんな事に想像を巡らす事が出来るのも、変化を見せた僕の精神状態のお陰だ。 父親に連れられた花嫁がバージンロードに姿を現し、僕は現実に引き戻された。妻の幼なじみは想像以上に美しく、教会の左右から聞こえてくる賛美歌がそれを引き立たせる。人が幸せを掴み取ろうとする時の光景は常に美しく、喜びの為に流される涙はきっと甘い。参列した人達の笑い顔を見ていると、何だか僕まで幸せな気分になってきた。つい30分前までは、不機嫌の極みにいた筈なのに。みるみる笑顔になっていく僕を感じ取ったのか、妻は横目で僕を見ながら嬉しそうに笑っている。 式が終わって教会を後にし、横浜の海が見える高台から駅の方向へと道を下る最中、ここを昇ってきた時とは正反対の清々しい気持ちになっていた。日が傾き、海からの風がひんやりと冷たくなったのも良かったのだと思う。クールになった頭脳で、ここ2試合のウラワを考える。それまでの好調が嘘のように、毎試合3点を叩き出していたウラワの攻撃陣は鳴りを潜め、勝利を奪い取れないでいる。きっと、彼らも何かが大きく変わった訳ではないのだろう。僕の気持ちがそれこそ瞬間的に大きく変化した様に、デシャンのチームが一つのピースを失っただけで失速した様に、ウラワにも何か少しの変化があったのだと思う。その少しの変化が次第に大きな影響力となって、チームの勢いを削ぎ、連勝街道をひた走るウラワにブレーキを掛けた。変化は常に起こっていて、だからこそ僕たちの土曜日はその変化を利用して良いものになったし、その逆も常に起こりうる。明日岡山で起こるだろう変化が、ウラワにとって素晴らしい変化であって欲しいと願いながら、僕は坂を下っていく。 ◇今日は木曜日◇ 6.17今、時間に追われている。昨日早引けした結果、昨日の内に仕上げておかなければならなかった企画書を家にまで持ち帰って作業中であり、終了までの時間はまだ見えてこない。こんな結果になるのは勿論判っていたから、別に焦りがある訳ではないのだけれど、やはり自分の時間が少なくなってしまうからまんじりとする暇もない。 だから、サイトの更新もこうして手抜きの様相が色濃くなってしまう訳で、だったらしなければ良いのではという声が僕の心に巣くう悪魔が囁くのだけれど、一方で白い羽を纏った天使は毎日継続する事が大事ですよと諭してくる。全くどいつもこいつも勝手な事を云いやがって。 企画書は明日の朝までに完成させれば良いから、ユーロでもぼうっと見ながら作業をしようと考えているのだけれど、やっぱりウラワの優勝が完全に無くなってしまった事を考えると、想像していた事とは言え少しばかり悔しい気持ちも浮かんでくる。睡魔も遠からず襲ってくるだろうし、なるべく早く終えて眠ってしまいたいという欲望と、いいじゃんフットボール見ながらまったりやろうよという欲望が交互に襲ってきて、僕は混乱をきたしはじめる。 頭の中で蝉がワンワン鳴いている様な気がして、そうだまだ風呂にも入っていないじゃないかと、要らぬ事を思い出したり。大した仕事ではないけれど、それでも仕事だから終わらせなければならない強迫観念が、僕を追い立てる。そのドアの向こうから、鋭利な鎌を持った、髑髏のお面を被って黒いマントに包まれた奴が追っかけてくる様な気さえしてくる。 やはり、水曜開催は僕にとって悪魔の様な存在だ。色んな意味で。 ◇引き分けという結果もまた。◇ 6.16結果にもの凄く不満という訳では無い。会社を早引けして駒場に駆けつけ、そこで気の抜けた前半とセットプレーからの失点を見せられても、後半の立ち上がりに追いつき、その後バランスを失いながらも勝ちに行こうと攻め続けた姿勢を見て、そこまで不満を爆発させるほどの感情には至らなかった。あくまでも、個人的には。 どうして清水戦の様な戦い方が出来ないのかと訝しがっても、結局それがフットボールなのだと思う。相手のある事、いつでも同じような展開を繰り広げる事が出来るのでもなく、こういった守りを最重要視するチームと戦う時に、如何にその守勢の相手を崩すための引き出しを沢山持てるかという事になるのだろう。今のウラワは、引き出しの数は増えたけれど、まだどこかが引っ掛かっていて上手く開け閉めが出来ない、といった感じだろうか。 歯がゆくて、歯ぎしり地団駄を踏みしめる試合の後、結果的には何故だか3位に浮上してしまった。自分たちで結果を作れなくても、周囲が補佐してくれる時もある。こんな現実を受け入れて、次に生かすしかない。監督も選手も、誰だって一生懸命にやっている事には違いない。ただ、その方向が少しずれていたりするだけの事だ。みんな、それを少しずつ修正しながら、その都度戦いに挑んでいる訳で、サポーターもそれは一緒だったりする。 勝てなかった事は悔しいけれど、俯いていても仕方のない事だからまた次を考える。残りの2試合、ウラワが勝ってくれる事だけを信じて。去年のセカンド、残りの3試合を全部勝てばウラワは優勝出来る位置にいた。今年は、残りの2試合を全部勝っても優勝には手が届かない。ただ、3位に入る事は出来る。現実的に、3位に入れば賞金だって違ってくるし、トップ3という響きは悪いものではない。去年出来なかった事を、今年はやれば良い。そうやって、クラブは少しずつ成長していく。 ただ一つ。試合が終わった後、闘莉王がスタンドに厳しい視線を送った時の表情は、今後長い間忘れられそうもない。彼は頭の良い選手だから、色々理解してくれていれば良いのだけれど。 ◇負けたサポーターの二日間◇ 6.14日曜日、予想通り寝起きが悪い。アウェーで、しかもあれだけ点差をつけられた久しぶりに味わう敗戦の痛手は、思ったよりも多く僕の体のそこかしこに現れていた。負けてなるものかと腹から絞り出した声のせいで、みぞおちの下あたりから脇腹にかけての腹筋が筋肉痛による鈍い痛みを持ち、退場者を出した主審を罵倒する為に使った喉は、その奥の方がずきずきと痛む。スタジアムで飛び跳ね、前の座席を蹴っ飛ばしたりした僕の足は一晩経っても棒のようであり、コールの度に拍手をし天に突き上げた腕は、情けない事に頭より上の高さへ上がらない。劣勢の時間がとても多い試合だったから、少し頑張りすぎてしまったのかも知れない。まだ若いのに、などという奥さんの冷ややかな言葉をさり気なくかわしつつ、昼過ぎまで寝床にて微睡む。 体中がみしみし音を立てている気がするのだけれど、このまま次の日を迎えてしまうのはどうしても避けたかったので、午後遅い時間に思い立ち、電車に乗って二駅の隣町へと出向く。川崎市に引っ越してきて1年、そう言えば殆ど街を歩いた事が無かった。等々力競技場へは何度か足を運んだものの、それ以外の土地勘は全くない。浦和市街の方が、余程良く知っている。1日経っても晴れることのない悔しさを少しでも薄めるべく、ぼうっと川崎市の町中をとぼとぼと歩く。無目的に歩みを進めていると、6月にしては少しだけ高く感じる気温が僕の肌をしっとりと汗ばませ、徐々に頭の中がからっぽになっていく感覚が現れてきた。しかしそれも長くは続かず、部屋に戻り汗が引くとまたあの嫌な記憶が蘇り、不機嫌な自分がまた顔を出す。自分もそれなりに不機嫌なのだろうけれど、そんな僕を思いやってか奥さんはフットボールの話をしてこない。少しだけ、有り難かった。 日曜日ですらこんな始末なのだから、月曜日の朝、会社へ向かおうとするのにどれだけ努力が必要だったか。体の痛みは多少改善されたものの、精神的な重しが取れている筈もなく、僕は眉間に皺を寄せたまま会社のデスクへついた。月曜は定例の会議があり、その場所へと移動すると同僚が何気なく一昨日の試合の事に触れた。 「お疲れ。見事な坪井のゴールだったね、ははは。」 彼にとっては何気ない一言なのだろうけれど、やはりウラワを、そしてそのチームを必死に応援している僕を馬鹿にされた様な発言は聞き捨てならない。ほっといて下さい、と言うのが精一杯だったのだけれど、彼はしつこくその話を続けるものだから危うく掴みかかりそうになってしまった。瞬間、先輩が「それには触れちゃ駄目だよ」と笑いながらいなしてくれなければ。週の初めだというのに、がさがさと心が音を立てていた。 会社に居るとろくな事が無いと思い、会議が終わると早々に会社を出て取引先へと向かう。営業先の待合室で、某社の営業と会った。彼とは同世代であり、フットボールが趣味なのも共通で、話が合う数少ない知人だ。彼は眠そうな目をこすりながら、昨日行われたイングランドvsフランスの話を始めた。え、何だそれ。聞いている内に、ヨーロッパ選手権の話だった事に初めて気づいた。そう言えば、そんな催しをやっていたんだなあ。僕の心は、とうの昔にウラワによって占拠されてしまっているのだ。熱気のこもった口調で熱くイングランドの戦いぶりを語る彼の話に少しだけ興味を持ったのだけれど、実際映像は何も見ていないし、何より名古屋での辛い記憶が何度も頭を過ぎり、結局話の半分も理解する事が出来なかった。これからの数週間は眠れない日が続きますねと、語った彼に対してぼんやりと返事をしながら、やっぱり俯き加減になってしまう自分を感じ取り、少なくとも水曜日まではこんな辛い時間が続くのだろうと考えたりしていた。 空を見上げると、日は少しだけ西の方に傾き、夕暮れが近づいてきている事を僕に教えてくれた。あと1社しかまわれないなと考えた僕は、今日は寄るのを止めようと思っていた某社へと向かう。ここには、ウラワサポの大先輩が居るのだ。彼は名古屋へは行けなかったのだけれど、きっと機嫌はよろしくないだろうと思い、会うのを躊躇っていたのだ。しかし、そんな心配は僕がエレベータを下りた時、即座に払拭されてしまうのだけれど。 会うなり彼は、少しだけ苦みを加えた微妙な笑顔で僕に向き直り「お疲れ様」と声を掛けてくれた。取引先同士の何気ない一言に聞こえるこの言葉も、ウラワサポ同士、何かそれ以上の意味が伝わってきた気がした。そして、少しの翳りが垣間見えていた彼の笑顔は少し経つと正真正銘の笑みへと変化し、続いて彼の口からは不満や悔しさが微塵も感じられない言葉が飛んできた。「水曜日の柏戦、会社は休み取ったから。並びはまかしといて!まあなるべく早く来て欲しいけどね。 そうそう、あとさあ、セカンドの開幕戦、見たいよね。アルパイとイルハンのトルコ対決だよ。ユニバーかぁ、遠いな。でも行きたいね…」 彼と話している時間は、それこそ数分だったと思う。ただ、その数分は僕にとってとても長く感じ、一瞬にしてそれまで抱いていた感覚を振り払ってくれる貴重なものだった。そうだ、僕には悔しがっている暇は無いのだ。落ち込んでいる暇は無いのだ。そんな事に人生の貴重な時間を費やすのは無駄でしかない。僕はウラワというクラブを応援できる幸せがあり、チームの戦いは休む間もなく次々とやって来る。優勝は難しくなってしまったかも知れないけれど、だからと言って応援を休む訳では無い。成長するクラブだから、あんな失態もあるだろう。それを含めて応援するからこそ、サポーターなのだ。大先輩のぱっと明るい笑顔に、また教えられてしまった。 最後の会社を出ると、外はそろそろ日も落ち、あたりはだいぶ薄暗くなってきていた。足下のアスファルトは日中とは違い真っ黒に見え、ほんの少し前だったらその色に同化してしまっていただろう僕の心はきっぱりとそれと決別し、数メートル先を照らし出す街路灯の明かりを僕は見据えていた。さっきまで、何て馬鹿な気持ちを抱いていたのだろう。前を向いて、光の射す方向へと進むしかないじゃないか。すっかり晴れ渡ってしまった単純を絵に描いた様な僕の心は、既に水曜日の柏戦を思い描く。また、ウラワとの時間を考えながら。 アンケートの結果が集計されました。小杉or中原近辺という事で、今回は決定させて頂きます。細かい場所や日程をこれから決めたいと思いますので、それ用の掲示板を用意しました。レンタルですが。ご希望がある方は、ここに書き込んで下さい。 →掲示板(新しいウインドウが開きます) ◇思い通りにならない日もある。◇ 6.13本当は分かっていたんだ、家を出る時には。 一昨日の夜遅くまで、僕は翌日に控えた名古屋行きの為に、色々と準備をしていた。去年の屈辱を思い出しつつサイトの更新をしたり、意味のない所作だと解っていながら験担ぎの品物を鞄につめたり、余り成績の芳しくない東海アウェーが少しでも良い結果になる様にと、自分が納得できるまで作業をしていた。そしてそれは、僕がサイト文章を書き終え、サーバにトップページをアップロードせんとする時に起こった。 台所から、金属とガラスがぶつかった様な衝撃音が聞こえ、PCに向かっていた僕はびくりと背中を動かした。何だ、何が起こったんだ。明日の遠征に参加しない僕の奥さんは、既に実家へと泊まりに行っていて家には僕だけしか居ない筈だし、ちょっと背筋が薄ら寒くなった僕は、少しだけ早くなった鼓動を押さえながら忍び足で台所へと向かった。少しだけ錆が溜まり、動かすと金属の擦れ合う音がする扉を向こうへと押すと、床に散らばった調理用具が目に入ってきた。調理に使う金属製の道具、例えばお玉や菜箸や調理鋏などを壁に吊していたフックが、経年変化で弱り壁から外れ、全てが床まで落下したらしい。ふと嫌な予感が頭の中を過ぎったのだけれど、それを打ち消すようにして床に散乱した用具を集め、もう一度元あった場所へと戻す。痛んだフックを手直ししてもう一度壁に取り付け、用具を吊し直す。よし、これで問題ない。自分に言い聞かせながら、何事も無かった様にして僕は部屋へと戻り、明日の準備へと戻った。 最後に荷物の確認をして、さあ全て終わったと布団に潜り込んだ僕は、眠りに落ちるその刹那、またもやついさっき聞いたのと同じような衝撃音が、遠くで鳴っている様に聞こえた。いや、恐らくこの音は夢だろう。既に半ば以上眠りかけていた僕の頭脳は、それが現実の事だと判断するのに反対し、さあすぐに眠ろうじゃないかと語りかけてきた。うんそうだ、きっと夢だ。 眠っている間、夢を見た。内容は朧気ながらに、断片的に思い出される。鋼の剣を持った中世の兵士が、1対1で戦っている様なシーンだったと思う。片方が剣を振り上げ、相手へと振り下ろす。刹那、剣でそれを避けようとする兵士、ぶつかりあう剣と剣、辺り一面に広がる衝撃音。そこで、はっと目が覚めた。 顔を洗おうと洗面台へと向かう途中、台所を通りかかるとやはり昨日と同じシーンが再現されていた。床一面に広がる、調理用具たち。時間がないから、いそいそとそれらをかき集め、今度は吊し直す事をせずに取り敢えずシンクへと放り込んでしまう。ふざけるな、一体何の恨みがあってこんな時に。苛つく気持ちは歯止めが利かぬ様になり、多少乱暴に食器を扱い朝食の準備をし、その間に洗面を済ませる。そう言えば、髭をあたっている時、肌に傷を付けてしまったな。 出かける準備は昨日の内に全て終わっているから、洗面と食事が済めばあとは出るだけだ。グランデTシャツを着込み、願掛けのオーデコロンを少しだけ首の辺りに落とし、出発の段取りを整える。天気予報を見ると、名古屋に雨は降らないらしい。初めての豊田スタジアム、屋根は空いているのだろうか等と考えながら玄関へ。腕時計を確認すれば、電車の時間まではまだあと数分余裕があるから、いつもならスニーカーをつっかけてそのまま家を出る筈の所だけれど、今日は靴べらを使ってきちんと履こうと考えた。 プラスチック樹脂製の靴べらが、真ん中からぽっきりと折れた感触をこの手に伝えてきたのは、そう思ったすぐ後の事だった。今度は、余り音はしなかった。ただ、この手に残ったとても嫌な感触は僕の心をささくれ立たせ、イライラした感情は極限までに達しようとしていた。手に残った半分の長さになってしまった靴べらを玄関へと投げ捨て、いやいやそうじゃないとまた拾い直し、折れてしまった片割れと併せて丁寧に下駄箱の脇に並べて、そうだ、これで厄払いは終わったんだと思い直した。靴の紐が切れた訳でもなかろう。 でもやっぱり、こんな日は同じような事が続く。贅沢にも指定を取った新幹線のチケットをポケットから取り出し、新横浜のホームで自分の席を確認しようと見ていると、喫煙席だと間違いなく指定した筈のそれには、何故だか禁煙車マークが入っていた。自分の思い通りにならない、体が動かない、回りが反対の事をする。700系のぞみがホームへと滑り込んで来た時、僕はもう疲れ果てていた。嫌な予感、何ていうのはお手軽な言葉だけれど、今日はまさしくその日だった。真っ黒に染め上げられた僕の心は、結局豊田でも晴らされる事無く、逆に漆黒の闇へと突き落とされてしまった。 僕が頑張ってくれるだろうと願いも込めて応援していた坪井は、見事に赤紙を貰ってピッチから去って行き、蒸し風呂の様だった豊田スタジアムで、ウラワの選手達は蒸し焼きにされた。まあ、人生もフットボールも、それ程甘くは無いって事なのだろう。それが解っただけでも、良しとしなければならないのかも知れない。強いチームは、強い人間は、こんなネガティブな経験をプラスのそれに変えていけるのだろうから。えー、こんな日に何なのですが、アンケートをとっていました「東横線&南武線オフ」の結果がそろそろ出そうなので決めさせて頂きます。小杉近辺と横浜がデットヒートを繰り広げていまして、現在1票差で小杉近辺がリードしています。一応、明日一杯で投票を締め切ろうと考えていますので、宜しくお願い致します。日程は、今のところ最終節の瓦斯戦後を考えていますが、別に神奈川方面でやるのならば試合のある日に限定する必要も無いので、場所が決まり次第日程の調整も行います。 ◇ディフェンスリーダーは。◇ 6.11坪井は、きっと悔しくて夜も眠れなかっただろう。初めてのタイトルにクラブが沸きかえっている中、今度はリーグタイトルだと皆が攻撃的な気持ちになる中、僕らの挑戦は最後の3試合であっけなく幕を閉じた。2試合続いたアウェイゲームで、ウラワは為す術無く連敗を喫した。中でも、持ち前のスピードを生かした守備で自他共に認めるストッパーに成長していた坪井慶介は、この2試合で考えられないようなプレーを連発し、敗戦のきっかけを作ってしまった。 初タイトルをウラワが勝ち取った日、前半終了間際に坪井は相手コーナーキック時に味方のエメルソンと交錯して、左目の上を大きく切った。雨の中、白く煙る視界でも彼の額あたりから鮮血が飛び散ったのは遠目でも確認出来たし、倒れた後長い間起きあがらない彼の様子を見て、簡単な怪我では無いことを知った。前半が終わるまで坪井はピッチに戻らず、ウラワは何とか10人で残りの時間を守りきり、後半彼が帰ってくるのを待っていた。 期待通り、というべきか。頭部にものものしい包帯を巻いた坪井は、白い筈の包帯を赤く染めながら結局最後までピッチに存在し、相手の攻撃を最後まで防ぎ続けた。殆ど片眼が潰れた様になり、遠近感を掴めないままにプレーしていたのだろうけれど、そんなハンディをものともせず果敢に相手攻撃陣にアタックし、ウラワのディフェンスリーダーたる誇りを僕らに見せつけた。 だから続くヴェルディ戦でも、痛々しい傷跡が癒える間もなく迎えたその試合でも、僕は坪井が変わらぬパフォーマンスを見せてくれる事を期待し、結果ウラワはホーム駒場でヴェルディを粉砕した。坪井も怪我を感じさせぬ無難なプレーを見せていて、僕はほっと胸をなで下ろした。エメルソンが累積警告でこれから迎える天王山の内2試合を欠場する事になってしまったのは確かに痛かったけれど、それでも僕は若きストッパーが怪我に負ける事なく試合で戦ってくれていた事で、少なからぬ安心感を抱いていた。 でも、やはり坪井のパフォーマンスは元通りにはなっていなかったのだ。日本平では、不完全な視野が原因なのかボールの落下地点を誤りフリーの相手にボールを渡してしまった。退場者を二人出して9人の相手に対し、屈辱にまみれた敗戦を喫した。瑞穂では、マンツーマンでついた相手に振り切られる事数回、強固な守りが売り物だったウラワのディフェンスラインは、一人のブラジル人にズタズタにされ、初めてのリーグタイトルは翌年以降へとお預けとなった。 勝利の美酒に酔う暇もなく、坪井はどん底へと突き落とされた気分だっただろう。誰も彼を攻める事は無かったけれど、ウエズレイに目の前でヘディングシュートを繰り返し決められた映像は、きっと彼の眼前に、今でも鮮明なそれとして浮かび上がってくるやも知れない。目の前に、手の届きそうな所にぶら下がっていたリーグタイトルが、掴み取った手の中からするすると抜け落ちていってしまったのだ。悔しくない訳がない。エメルソンの欠場をこの連敗の原因に挙げる声が多いけれど、僕は怪我による坪井のパフォーマンスダウンもかなり大きな要素だったと思っている。そして、多分坪井がその事を一番良く分かっているのではないだろうか。 明日は、想像以上の集中力を坪井は見せるだろう。相手を絶対にフリーにさせないディフェンスを90分間完全に貫き通すだろう。去年と違い、今年はきっちりとしたマンツーマンディフェンスをしている訳ではないけれど、それでも坪井がウエズレイに密着する時間が多くなるだろうと思う。代表で疲れているかも知れないけれど、少なくとも坪井の体調は去年の様な酷い状態ではない。そして、今のウラワならば、相手攻撃陣に仕事をさせなければ自ずと結果は見えてくる。僕は、完調の坪井が徹底的に相手を潰す姿を見るために、明日名古屋へと向かう。 ◇主将◇ 6.10後半も半ばに差し掛かり、もっと攻撃的に行きたいと感じたのか、指揮官はキャプテンマークを腕に巻いて3バックの中央に陣取っていた選手を下げて、攻撃的なミッドフィルダーを投入した。キャプテンは右腕の腕章を外し、ピッチの外へと向かい走りながら、近くにいたボランチへとその腕章を渡しベンチへ退いた。キャプテンから、チームを代表する意味を持つ証を受け取った、顔は可愛いがその実プレーは最も汚い選手は、受け取ったは良いもののひたすら困った様子で苦笑いを浮かべ、自分の腕にそれを巻くのでもなく所在なげに佇み、ふと思いついた様に背番号10を背負う自称ファンタジスタへとそれを渡そうと近寄った。 10番は、キャプテンマークを手に近づいてくる稀代の極悪プレーヤーを目にしてにやりと笑い、いやいや僕はそんな器じゃないですよと手を振りながらも顔をほころばせ、近づいてきたボランチとその証を譲り合う。同時に気持ち悪い笑みを浮かべた二人は、かなり長い間キャプテンマークを押しつけあっていて、どれ程責任を負うのが嫌なのかは知らないけれど、放っておけばずっとそのままコントの様な場面を続けるかの様だった。 そんな馬鹿馬鹿しい時間を一瞬にして振り払ったのは、キャプテンと代わってピッチに飛び出してきたチーム最年長の選手で、譲り合う二人に割って入りキャプテンマークを半ば強奪したような格好で、あっという間に自分のポジションへと走っていった。お前ら、今はそんな事をしている時間なのか、そんなにやることが無いのか。下らない戯れ事に付き合っている暇はない、という様な無言の圧力を馬鹿二人に与えたオヤジは、何事も無かったように残りの時間ピッチを走り回った。チーム最年長だというのが嘘の様に。 フットボールに置けるゲームキャプテンは、とても意味深い存在だ。薄ら笑いを浮かべながら、その証を押しつけあうような性質のものだと僕は思わない。ましてや、親善試合などではなく、歴としたワールドカップの予選なのだ。内容は兎も角、この試合は得点を取れるだけ取っておかなければならなかった試合。事実、オマーンはシンガポールから7点を奪っている。この時点で、日本はまだ4点しか取れていなかったのだ。国を背負って試合に臨んでいる選手ならば、それを理解して戦っている者ならば、あんな馬鹿げた仕草をしよう等とつゆほどにも思わない筈だ。あのシーンを見て、心の底から代表を応援しようとする気が失せ、どうにでもなれという気持ちはそれまで以上に強くなった。 多分ウラワのサポならば、あのシーンを目の当たりにしてこう思っただろう。あそこに、うちの4番と13番を送り込みたいと。この二人なら、キャプテンがピッチを離れる際、猛然と彼に向かっていってキャプテンマークを奪っただろうし、それを腕に巻けばそれに相応しいプレーでチームを引っ張っただろうにと。まあ、逆にこの二人でキャプテンマークの奪い合いをしてしまうかも知れないけれど。それはそれで、誇らしい。 ◇ストレス解消法◇ 6.9ここ数日、生活のリズムが今ひとつ噛み合わずに、睡眠不足が続いていた。それに追い打ちを掛けるように、会社ではトップからかなり厳しいプレッシャーを与えられ、ストレスが蓄積されつつある。そんな中、部署内では一番下っ端なのにもかかわらず、年齢的にはそろそろ結果を出していかなければならない立場になっている事に気づき、精神面にひ弱さを抱える僕は、少しだけモチベーションを落として外出先から直帰した。まだ日の高い時間に。 いつもはまだまだ会社に居る時間、電車に乗ればそこは家路を急ぐ人達でごった返していて、ふと違和感を覚える。色んな人生があるものだ。そういえば代表の試合がある事を車内で気づき、家に帰って取り敢えずテレビの前へ陣取る。問題なく試合に間に合う時間、こんなに早く帰ってきてしまって良いのだろうか。低下した自分のモチベーションと、少しの焦燥感が混ぜ合わされたとても微妙な精神状態に、余計ストレスを感じる。 ブラウン管に映し出された埼玉スタジアムは青いレプリカを来た観客に埋め尽くされ、スタジアム始まって以来の集客を果たしたらしい。少し悔しい。まあいいさ、年内にはその記録をまた赤い色で上回ってやるから。そんな思いを頭の中で巡らせながら見る、中継から聞こえてくる声は「何としても今日の試合は5点以上の得点を奪わなければならない」というものばかりで、内容に対するテーゼは何も出てこない。確かにインドのレベルは知れていたけれど、お世辞にも日本代表のレベルだって高いとは言えない。序盤からパスをつないで攻撃を仕掛けるものの、ペナルティーエリア周辺で相手を怖がらせるプレーが出てくる事は終ぞ無く、怠い時間が延々と繰り返された。 前半の中途、アレックスの見事なアーリークロスから、久保がアクロバティックで創造性溢れるボレーシュートによって先制ゴールを奪うものの、得点機以外にみるべきものは何もない。この後、前半終了までに2点を奪うのだけれど、福西のゴールは圧倒的な優位に立つ身体能力を生かした得点でしかなく、中村のフリーキックだってコースはとても甘かった。後半に入り、覚醒した修行僧を下げてベルギーで一人頑張る鈴木が投入される。少なくとも、前線からのプレスは激しくなったけれど、中盤の怠い展開は相変わらず。福西は、ボランチとして何か仕事をしたのだろうか。緩いボールを後ろへ下げては、ちんたらとジョグを繰り返すのみ。ストレス解消になると思っていたフットボールのテレビ観戦は、よりストレスを膨らませるだけだった。 見ていて多少面白かったのは玉田のドリブル突破と久保のファンタジーだけで、久しぶりの大量得点に湧くスタジアムとテレビ中継を見やりながら、僕のすっきりしない心持ちは全く改善の兆しを見せる事は無かった。中盤でひたすら続けられる緩いパス回し、ボールを持ってもシュートまで結びつけられない攻撃陣のもどかしさ。7点を奪いながら、複数得点を記録したのは中澤のみであり、しつこく内容を追えば好意的な意見は出せそうも無かった。手に汗握る場面は無く、見ていて心躍る場面も無く。まあ見ていて面白くないと感じたのは、僕がジーコ率いる代表に懐疑的な先入観を持っているのも一つの要因だろうけれど、爽快感を感じなかったのは事実。ストレスが晴れなかったのも事実。このもやもやした気持ちは、どうすれば良いのだろう。 答えはとても簡単だ。代表の試合が終わるや否や、僕は大急ぎでテレビ台に入っているVHSのビデオテープを取り出し、デッキへセットした。赤一色に染め上げられた駒場スタジアムでは、積極的に相手ディフェンスと対峙する我がウラワの選手たちが居て、外連味無い、スピード溢れる攻撃を繰り返している。人数は三分の一であろうとも、ここの観客たちが作り出すスタジアムの雰囲気は最高だ。がむしゃらにボールを追い、攻撃に移れば自らの持てる技量をフルに生かして一直線に相手ゴールへと向かう。それに呼応し、声を上げるサポーター。やっぱり、これだ。僕にはこれしかない。同じ90分でも、これだけ違うものなのか。つい2時間前には最高潮に達していた僕のストレスは、ビデオを見終わり完全に払拭されていた。明日の目覚めは良いものになると思う。 ◇ひつこい様だが◇ 6.8何をもって世界標準とするのか。自分で書きながら、ちょっと納得がいかなかった所もあったので、一昨日書いた事をもう少し深く掘り下げてみようと思う。ウラワのフットボールが世界標準に一番近い、などという表現は、ウラワサポの妄想と言われても仕方の無い事かも知れない。しかし、僕はそうは思わないし、自分で書いた事を信じている。 フットボールは数値で測るのが極めて難しいスポーツだから、どうしても内容に関して個人の主観に委ねられる事が多くなる。自分の理想とするフットボールスタイルに近いチームを高く評価し、それから外れるチームを過小評価する。その繰り返しが延々と、これからも続けられていくのだろうけれど、その中心となる所に見逃してはならない幹みたいなものがあると思うのだ。人によって、無駄走りを多くすればそれを評価する人もいるし、主体的なパスゲームを志向するチームを評価する人もいるだろう。ただ、フットボールの原点を考えれば、もの凄く単純な結論へたどり着く。要は、相手より1点でも多く得点を奪った方が勝ちなのだ。 それに向けて、ディフェンスを強化して簡単に得点を奪われない様にするのはとても大切な仕事だし、中盤を厚くして試合の主導権を握り続ける様にするのも間違いなく大事な事だ。しかし、それらは得点を相手より多く奪うための些末な事象に過ぎない。少なくとも、ゴールを1点でも奪わなければ勝利が訪れる事は無いのだし。だからフットボールの世界では、より多くの得点を挙げる事の出来る選手が高く評価されるのだ。日本を代表するミッドフィルダーの中田や中村や小野などが海外移籍した際、彼らがどんなに素晴らしい技術を見せ、どんなに綺麗なパスを通したとしても、泥臭いゴール一つ決める事の方が、呆れる程簡単に彼らの評価を変化させる。それは、フットボールの歴史が長い国の人々にとって、得点を奪う事がとても重要なファクターになっているという事実なのだ。 得点が最重要な彼の国のフットボール選手にとって、良いパスを出すとか、技術をひけらかすというのは二の次になるだろう。どんな手段を使ってでも、出来る限り沢山の得点を積み重ねたいと思っているだろう。特に、最前線に居る選手ならば尚更だ。ペナルティエリアに入りながら、その脇にフリーの選手がいるからといっておいそれとはパスを出す事などしない。最後の最後まで、まずは自分がシュートを打ってゴールを挙げてやろうと考えるのが、攻撃に携わる選手にとって当然の思考回路だ。相手をなぎ倒してでも、ゴールへ向かおうとする貪欲な姿勢。それが、僕が理解するフットボールの世界標準だ。 日本人選手に決定的に欠けているのが、その貪欲な姿勢なのではないかとこれまで考えてきた。柳沢を中傷するつもりはないけれど、どうしてその場面でパスを出してしまうのかと声を荒げてしまいたくなるシーンを、僕は日本のフットボールを見てきて何度も目にした。中盤の選手は良いパスを出す事のみに注力し、自分のスルーパスに心酔する。ただ、それだけでは永遠に得点を奪う者にはなれず、根本的な間違いがそこにはあると思う。やはり、攻撃的な選手は間断無く得点を奪う事のみに集中力を使うべきなのではないだろうか。テレビで海外のフットボールを見てきて何となくそう思ってきたし、ウラワでエメルソンを見る様になってから、その思いは確信となった。 達也にしろ、永井にしろ、エメルソンという偉大な教材から得たものは大きいと思う。エメルソンは決定力ばかり取り上げられる事が多いけれど、実際シュートの本数がJの中では抜きん出て多い。シュート数に対する決定率は、それ程高くはないのだ。ただ、他の誰よりもシュートを打っている。それが、結果的にエメルソンの存在価値を高めているのだ。そして、彼を中心にしてウラワの選手達は、シュートに対する意識がこれまでになく高まってきている。 ただ、間違って欲しくないのだけれど、矛盾しているかも知れないけれど、シュートを打つことはそんなに簡単な事では無い。相手ゴールへ向かってぽーんとボールを蹴るだけのシュートではなく、ゴールを奪おうとする意識のこもったシュートを打つのには、技術やスピードが要求される。ドリブルから相手を振り切り、狭いコースへ精度の高い強いボールを蹴り込む。その能力が付随して初めて、シュートを打った事になるのだ。シュートへの意識が高いウラワは、結局の所、そうした能力の高い選手が居るから、そうなっているのだとも言える。だから、ウラワは世界標準に近しい存在だと言えるのだ。 ◇世界標準◇ 6.6窓の外を見れば雨がずっと降り続いていて、久しぶりの参戦で疲れもあったから、今日は一日テレビ三昧にしようと起きた瞬間に決めた。一応それなりの時間に目覚めて、テレビ番組表を確認。まずは、昨日の清水戦を録画しつつ見る事にして、開始が午後2時だからそれまでに家の仕事をやっつける事にする。朝、奥さんがまわして出かけて行った洗濯機から洋服を取り出し、雨なので仕方が無いから部屋の中に干す。大きいタオルだけはどうしようも無いから、ベランダの濡れなさそうな所へこっそりと掛けて、その他の細かいものは部屋の鴨居に吊してしまう。このままだと部屋の中が湿っぽくなりそうだから、エアコンを除湿モードにして2時間稼働させる。多少はましになるか。 皿洗いを済ませて、そうだビデオテープがあったっけかと思い、テレビ台の下をごそごそと探す。こんな時に限って新しいテープが見つからず、仕方なく使い古しのテープに録画しようと考えたのだけれど、僕の無精が祟ってどのテープに何が録画されているか全く記録していなかったから、相当数のテープを全て見直して何が入っているか確認する作業に小一時間。それでもやっとライブラリーが構築されて、良かったような。 まだ時間は早かったけれど、昼飯がわりにインスタントの焼きそばを頬張りながらテレビの前へと鎮座して、スカパーをザッピング。すると、今期のセリエAゴール全集を映し出す番組をやっていたから、焼きそばを食いながら食い入るように画面を見つめる。やはりトップリーグのゴール集は圧巻で、特にミドルレンジからのシュートが多く感じる。Jでは見られない様な、30メートル級のシュートがネットに突き刺さるのを見る度に、あれは筋力の成せる技なのか、技術で追いつけるものなのか、数年来の疑問がまた頭を過ぎる。ネドベドやセードルフの様に両足でもの凄いスピードのシュートを打てる選手はそうそう出てこないとは思うけれど、日本人選手にも何とかペナルティエリアの外側からでもどんどん枠内に飛ぶシュートを打つ様になって欲しいと切に願う。ねぇ、啓太君。 この番組は、2時間という枠の中で今期のゴールシーンを全て見せようという内容だから、何の衒いも無く次から次へと決定機が映し出され小気味よい。そんなシーンの連続をずっと見ているうちに、シュートへ持ち込む場面にある共通項を見いだしていた。Jリーグだと、ゴールシーンは相手を崩しきって流し込む様な場面が多い様に感じるのだけれど、セリエのゴールシーンには余りそういった所は見受けられず、かなり無理をした体勢からシュートを放ったり、相手が居ても構わず強引に突破を仕掛けてゴールを奪ったりする様子が沢山見られた。磐田みたいに、相手のゴール前で何度もパス交換をする事などあり得ず、そんな事をしている暇があったら撃ってしまえという感覚だろうか。要するに、ゴールに対して直接的な欲求があるのだろう。 引き続いて始まったウラワの試合でも、同様の感覚を得た。赤いユニフォームを着た選手達は誰でも、ボールを持ったらまず勝負。相手をかわす事を考えている様に見える。特に、前半右サイドで何度も突破を仕掛けていた永井はその傾向が顕著で、その結果、幾度も決定機を創出していた。また、右利きながら左サイドを任されている平川は、とうとう吹っ切れたのか縦へ中へとどんどん仕掛ける。実はこの後チャンピオンズリーグプレイバックを見ていて、ウラワの左サイドの選手と、95〜96シーズンのアヤックスに所属していた左ウイング“マルク・オーフェルマルス”が重なった。両者ともに利き足とは逆のサイドでプレーをしているのだけれど、持つスピードは高く、相手が何人いようとも果敢に突破を仕掛ける仕草が酷似していると感じた。 フォワードだけではない、ウラワの中盤を担う選手達も皆積極果敢にシュートを打とうとしているし、実際山瀬や長谷部は何度もミドルレンジからゴールを狙っていた。エメルソンが離脱しても、全く衰えないウラワの得点力に対して不思議な気持ちを持っていたのだけれど、どんな現象にも歴とした理由はあるのだと思う。あれだけ、選手全員がゴールに対する意識の高いチームは他に余り無いと思うし、ウラワの選手達は勝ち続ける、得点を奪い続ける事によって貪欲さが増してきているのではないだろうか。それが、ゴールを量産する原動力になっている。 戦術的な完成度が高くなり、ある程度試合をコントロール出来るようになってきたウラワ。そうなると、ウラワの持つ圧倒的な攻撃力が全面に押し出されてくる。清水との試合を見終え、幸福な90分の余韻に浸りながら、8年前に行われたレアル・マドリーVSアヤックスの試合をぼうっと見ていると、また既視感を感じた。アヤックスの両ウイング、フィニディ・ジョージとマルク・オーフェルマルスは、サイドの高い位置に開きボールを受けると、そこから積極的に相手ディフェンスへ向かってドリブルを始める。ボールを奪われる事など全く考えていないのか、味方にパスをする素振りも見せずどんどん仕掛ける。ディフェンダーはバックステップを踏みながら懸命に守ろうとするのだけれど、自信満々のウインガーに対面すると余りも分が悪い。 サンチアゴ・ベルナベウでアヤックスは2−0と快勝し、無敵と謳われたアヤックスの強さばかりが目についた。あの強烈な攻撃力は、やはり選手個々のプレーから導き出されているものだと思うし、それが今のフットボールでも変わらないという事は、セリエAのゴールダイジェストで理解できた。誰もがドリブルで仕掛けるウラワのフットボールは、Jの中では異質の存在かも知れない。もっと綺麗にパスで崩すチームは他にもあるし。ただ、今日僕が感じたのは、ウラワのフットボールが“世界標準”に一番近いのでは無いかという事。たまには、こんな休日も悪くない。 ゲストブックで、神奈川方面在住レッズサポ限定のオフ会話が出ました。どれだけ居るのか分かりませんが、アンケートをとってみたいと思います。因みに僕は川崎市中原区在住ですので、小杉あたりが絶好のポジショニングです。 ◇清水戦◇ 6.5久しぶりに足を運んだ駒場で僕は、ほんの少しなのだけれど、スタンドが変化したのを感じ取った。余りに抽象的な表現になるけれど、何だか“空気感”が違ったのだ。今まで、感じる事の少なくなかった所謂“緩い”感じがスタンドから消え去り、かといって殺伐としているのでもなく、分かり易く言えば“ゆとり”を感じたのだった。西側のコールリーダーが変わったのも、その理由の一つだと思う。ただ、それよりも大きな要素として、チームが明らかにその強さを増しているのが、スタンドへ与える安心感を増幅させ、負ける事など考えもしない余裕のある雰囲気を作り出しているのではないかと思う。 立ち上がりから積極的なウラワは、スタジアムの雰囲気同様、正に堂に入った戦いで清水を圧倒した。前半の10分あたりまでの間に決定機を2度も作りだし、得点こそ奪えないものの、その後もペースを握り続ける。エメルソンと啓太とフル代表組を欠く、本来ならば苦しいはずの布陣でも、ピッチを見れば役者が揃っている。何と層が厚いチームになったのだろうか。高い位置からのプレスも存分に機能し、特に山瀬・長谷部・酒井の3人が見せる連携は、もう本当に高いレベルに到達しつつある。追い込みからすぐさまボールを奪い、素早く攻撃につなげる。今日の主審はフィジカルコンタクトを余りファールにしなかったから、余計にウラワのプレスは良く利いた。まるで清水の、石崎氏のお株を奪うような戦いだったと思う。何時の間に、こんな戦術的に熟成されたチームになったのだろうか。ピッチを幅広く使ったポゼッションに関しては、まだ昨年のチームに長があると思っているけれど、バイタルエリア近辺で前線の選手達が見せる即興的なダイレクトのパス交換は、既に今まで見た事の無いレベルまで達していると思う。啓太の欠場により、図らずも僕が個人的に望んでいたボランチの位置に入った長谷部は、持ち前の展開力を存分に生かしてとんでもないパスを連発していたし、攻撃的ミッドフィールドを任された山瀬は、この所の2得点で完全に覚醒したのか、既に王様然とした振る舞いで攻撃陣をコントロールした。山瀬って、こんなに自信満々にプレーする選手だったのかと、少し驚いた。今までは、やはりコンディションが振るわなかったのだろう。完全な状態になった彼が、これからどんなパフォーマンスを見せてくれるかと、想像するだけでわくわくする。 今日は、上手く休養が取れたからなのだろうか、全体的に選手のコンディションが良いように感じた。キャプテンマークを巻く十年選手は、やはり右サイドで自分の力を発揮したい様だ。今日の出来ならば、はっきり言って平川は諦めざるを得ないだろう。それ程、山田は素晴らしく安定したプレーをしていた。あれだけディフェンス面で安心感の置けるウイングバックはなかなかいないし、試合に出られないという危機感が山田のプレーを引き上げたのだ。得点に絡む事は出来なかったけれど、永井は切れのある動きをそこかしこで見せ、常に相手ディフェンスの脅威であり続けた。アルパイの加入が刺激になり、室井と内舘は守備だけではなく果敢な攻撃参加さえ見せて、自らの力を誇示した。怪我空けでちょっと動きの重かった達也にしても、得点という結果を果たした。 厚い選手層が選手間の競争を煽り、それがウラワを飛躍的に向上させる大きな要因となっている。もう、相手がどこであろうと、自信を持って自分たちのフットボールを展開していれば何の心配も要らなくなった。大黒柱であった筈のエメルソンですら、おちおち休んでいられない状況になっているのだ。これで頑張らなくては嘘だし、選手にとってはもの凄く厳しい環境だろうけれど、今は全てが上手く回っている。ここに、トルコ代表キャップ84の男が加入してくる訳だから、今後どこまでウラワが上昇して行くのか全く想像も出来ず、その先は霞の中だ。ただ間違いなく言えるのは、その霞が遙か上方に位置している事であり、登りの道しか見えない事。 グランデという、僕の中での予感めいたものは、スタジアムから離れていた1ヶ月間で徐々に実現されつつあると考えていた。テレビなどから得られる情報だけでも、十分ウラワの成長は感じ取る事が出来た。しかし今日久しぶりに駒場の空気を感じ、ピッチで繰り広げられる選手達の自信を持った戦いぶりを見て、本当にウラワがグランデに近づいている事を自分の目で確かめられた。勝利が当たり前になったチームを体中に感じて、スタジアムの雰囲気が徐々に変わりつつある理由も掴めた。ウラワはとてつもない変化の時期を迎えている。歴史を作るのは僕には無理だけれど、構築される歴史を見届ける事は出来る。その渦中にいる僕は、とても幸運だ。 ◇王国◇ 6.4苦しむ期間は長かったけれど、漸く光が差し込んできた。僕にとって、ウラワの試合から離れる事1ヶ月と少しの時間は、どんな事とも比較し得ない厳しいものだった。色々な媒体から情報は仕入れるものの、戦いを肌で感じ取る事の出来ないもどかしさや、スタジアムの空気から遠く離れた場所にいる寂しさは、体中がむずむずする様な、何とも言えない違和感を僕に与え続けた。様々な要素が絡み合って僕はスタジアムへと足を運ぶ事が出来ずにいたのだけれど、それも今日で終わりだ。明日は本当に間違いなく駒場へと行けるし、もう遮るものは何もない。 選手達もまた、短い期間の中で続けて喫した、日本平での屈辱的な敗戦を払拭しようと躍起になっているだろう。彼らだって苦しんだ筈だ。戦術的に未整備なまま、怪我や代表戦によって主力選手を欠く中惨めに敗れ去った、まだそれ程遠くない過去を忘れている訳がない。昨年から居る選手にしてみれば、その思いはより一層深いだろう。スタメンに彼の地の出身者を多数並べるウラワにとって、清水との戦いはまた違った意味を持つ。 現実として、昨年から引き続いている清水戦の連敗は3。どの試合も、とても嫌な負け方をしている。負け試合で良い内容なんていうのがおかしいのかも知れないけれど、それでもこの3試合はどれも胸に深く突き刺さる様な、刺激の強い負け方だった。9人の相手に攻めきれず、試合終了直前にミスから失点した試合。前半に2点を先制しながら、後半になって退場者を出し一挙に4失点をした試合。立ち上がりから一方的に支配され、為す術無く敗れ去った試合。いずれも敵地で起きた、思い出したくもない光景ばかりだ。ウラワの、精神的な弱さをも垣間見せられた非常に嫌な記憶。 しかし、僕らはこんな所で立ち止まっている訳にはいかない。選手達にとっても、日本平では勝てないというレッテルを貼られ、清水に対して相性が悪いなどと言われてしまう状況を打破する、絶好の機会なのだ。進化の過程で、前進と停滞を短いサイクルで繰り返しているウラワは、その行程を踏む度に少しずつ外殻を広げている。清水ごときを飲み込んでしまうのは、もう時間の問題だ。石崎氏がユースチームからトップへ合流して以降、清水は大きく戦術的に進化してプレスの掛かりが早い良いチームになってはいるけれど、そんな小さな問題はこの際無視してしまって良いと思う。不甲斐ない場面を作り出された相手に対して、何度も甘い顔は見せられない。 久しぶりに吸う駒場の空気は、どんな感じだろうか。昨年、同じ相手をナビスコの準決勝で撃破した時感じた空気は、敗戦を防ぐためではなく純粋に勝利だけを求めるという、それまで余り感じた事の無い種類のものだった。明日も同じくナイトゲーム。雰囲気を作り出すには絶好のシチュエーションだと思う。王国を名乗るのは、一つの地域だけで十分だ。奴らにそれを許さない為にも、明日は絶対に負けられない。勝利のみが、ウラワのプライドを支える。 僕は、ウラワの勝利を求め何時も通りにサポートをするし、勝利を掴むのと同時に、新しく入ってくる外国人選手の気持ちも惹き付けてしまえば良い。何にせよ、それらを表現するのに駒場ほど有効な土地は無い。駒場の地に差し込む光は、ウラワを次なるステージへと導く。もう、ジンクスや相性などという言葉とは、決別すべき時なのかも知れない。王国を名乗るのは、俺たちだ。 ◇得点の瞬間◇ 6.3まだまだ仕事は溜まっていたのだけれど、木曜日という事もあってか集中力が極端に落ちたから作業を早々に切り上げて、会社を少しだけ早く出る事にした。だからと言って家についても何か特別する事がある訳ではないので、余り考えも無しにパソコンの前に座り、データフォルダに入っている去年の試合を見る事にした。セカンドステージ第12節、浦和レッズ対東京ヴェルディ1969。選んだ理由はこれといって明確では無いけれど、多分得点シーンが沢山あるのを体で覚えていたからだと思う。 暗い部屋で光るモニターを延々と見つめる様は、余り褒められた姿では無い。ぼうっと画面を見つめながら、ああ、やっぱりゼリッチのプレーは美しいなとか、ポゼッションやパス回しは去年の方が良くコントロールされているなとか、今まで思っていた事の繰り返し作業を頭の中で行う。それと同時に得点シーンを迎えると、ゴールの瞬間沸き上がるスタジアムの歓声と歓喜に湧くウラワの試合でしか見られない独特の雰囲気に鳥肌が立つ。背中の下の方からぞくぞくとした感覚が首筋の方へと駆け上がってくる。それは何度繰り返し見ても、同じシーンで同じように繰り返される。暗い部屋で一人。 この試合、都合5点をウラワは奪ったのだけれど、そのどのシーンにおいてもほぼ同等の感覚を持った。口では上手く言い表せない、興奮なのか感動なのか、それともそれらが全て入り交じった喜びの感情を見る嬉しさと言えば良いのか、そんな感覚が何度も押し寄せてくる。ゴールの瞬間に見られる、数万人の感情が同じベクトルを向いて一挙に吹き出す場面はそうそうお目にかかれるものでは無く、例えそれがパソコンのモニターと貧弱なスピーカーを通してこちら側に伝わってきたものだとしても、何回も何回も繰り返して見返されたものだとしても、その瞬間が持つ力が薄れる事は無い。 昨年の後半あたりから、ウラワは大量得点を奪って試合に勝利する事が珍しく無くなった。数年前までなら、3得点以上の勝利試合を探す方が簡単だったけれど、今では3点差の勝利なんて珍しくも何ともない。ただ、だからといってゴールの瞬間に感じるあの高ぶる感情が薄れる事などあり得ず、あの感覚は繰り返す度に麻薬のように体の中へ急速に浸透して行き、その感覚を得る毎により深くそれを求めるようになる。こうして画面のこちら側で見ている時ですら、体に震えを覚える位なのだから、スタジアムにおいてはまた違った次元の感覚がある。 試合開始から継続的に声を出し続け、ピッチに広がる味方選手の背中を押し、相手を罵倒し。そんな中で得られる得点時の感情は、背中を駆け上がる寒気などだけでは表現し尽くす事が出来ず、脳天を突き破って尚かつ余りある感情の高まりを意味する。少なくとも僕は、毎試合こんな瞬間を求めてスタジアムへ足を運んでいるのだし、最近それが得られる事が以前より多くなってきたからか、また求めようとする気持ちも以前より強くなってきている。 多分、ピッチの選手は僕なんかよりももっと、そんな気持ちを強くしているのではないだろうか。自らがゴールへボールを叩き込めば、その瞬間ピッチと観客席は一体となる。地の底から沸き上がる様な、観客の思いが一点に集中した歓喜の叫びが、雨のように自分を中心に降り注いでくるのだ。これが止められる筈がない。ゴールを奪う度に得られる極度の興奮は、他に比類すべきものが無い程圧倒的なものだ。一度それを知ってしまった選手は、より大きなものを求めて次へと進んでいく。ウラワが得点を多く奪える様になった理由はそんな所にあるのかも知れないし、間違いなくエメルソンはその喜びを誰よりも知っている。だから、あれだけの得点を重ねられるのだ。 ◇小野伸二◇ 6.2予想通り酔っぱらったまま寝床に突っ伏した僕は、そのままの状態で朝を迎えた。この日も風呂に入らず眠ってしまったため、仕方なく目覚ましをいつもより30分早くセットしていたから、寝起きは散々だった。頭が鉛の様に重く、吐く息は自分でも分かる位に臭う。明らかに二日酔いの症状であり、それはシャワーを十分に浴びても解消する事は無かった。 歯ブラシを口に入れ、ぼやけた頭を必死に覚醒させようとしながら居間に戻ると、一気に僕の意識は平時のそれに戻った。テレビに映し出された、小野伸二のゴールシーンによって。そうだった、僕の寝ている間に日本代表はアウェーの地“マンチェスター・シティ・スタジアム”でイングランドと対戦していたのだ。何度も繰り返されるゴールの映像を良く見れば、アシスト役はアレックスじゃないか。これもウラワ繋がりと言って良いのだろうか。兎に角、小野が活躍するのは何にせよ嬉しい。 小野伸二は、ウラワに新人として入団した選手の中では、間違いなく図抜けた存在だ。98年のシーズン、開幕からスタメンに名を連ねた彼は、前評判に違わぬ優れたボールコントロールとフットボールセンスを存分に発揮して、すぐさまチームの攻撃を牛耳る様になった。勿論、今と比べれば実効的なプレーは少なかったし、ペトロビッチとベギリスタインというレベルの高い外国人選手に囲まれた幸運はあると思う。ただそれにしても、彼のプレーは僕に多くの驚きと喜びを与えてくれ、彼自身も良く語っていたけれど“フットボールを楽しむ”事を教えてくれた存在なのだ。調子の良い時の彼は本当に楽しそうだったし、それを見ている僕も自然と顔がほころんできて、フットボールを見ていて楽しくなったのは初めての経験だった。 あの頃、小野が五輪代表の中心選手として活躍していたあの頃、彼にとってもウラワにとっても、そして僕にとっても大きな事件があった。足幅靱帯断裂という大怪我は、小野から楽しむ時間を奪い去り、それはウラワにとって大黒柱を失う結果になった。小野を失ったチームはボールの落ち着かせる場所を探す様になり、徐々にバランスを欠きチーム力を落として行く。それだけを理由にして良い訳が無いけれど、ウラワはセカンドディビジョンへと落ち、チームとして最悪の時代を過ごす事になる。小野のがないチームは、楽しさを失い、同時に力も落としていった。それでも、あれだけの才能と実力を持ちながら、J2へと降格したチームに残り一緒に戦ってくれた伸二は、今でも僕にとって掛け替えのない存在だ。 だから僕は彼の事を今でも“伸二”と呼び続けている。彼がフェイエノールトに居ようが、もっと上のレベルを目指そうが、はたまた都落ちしてベルギーあたりに移籍しようが、ずっと応援をし続ける積もりだ。今の代表チームに魅力を感じる事は少ないけれど、それでもピッチの中央で伸二がプレー出来る環境を与えてくれている所にのみ限って、ジーコには恩を感じている。代表の試合を見る時、坪井やアレックスを見ているのと同等かそれ以上に、伸二の姿をピッチの上に探している。この感覚は、変わる事が無いだろう。 伸二がウラワへの入団を決めた頃、清水では一騒ぎあったらしい。何で清水の至宝をウラワに取られてしまうのだ、と。伸二は入団の理由を、スピードのあるフォワードがいるから自分のパスが生かせると語り、あの熱狂的なサポーターの中で戦いたいとも語った。僕は、当時まだゴール裏の住人では無かったし、J2の時に1試合もスタジアムへ足を運んでいない負い目もある。伸二や当時のチームに対して、十分なサポートが出来なかった。今でも後悔している。ウラワのサポートはいつだって一番だから、清水に対する礼儀は逸してないと思うけれど。 何時になるかは分からない。もしかしたらそんな事は起きない可能性だって十分にある。でも、何となくだけれど僕は信じているんだ。僕らが愛した伸二が、ウラワを愛してくれた伸二が、いつかまたウラワへと舞い戻り真っ赤なユニフォームに袖を通して、また一緒に戦ってくれる事を。その時が来たら、出来なかった当時の分も含めて、精一杯声を出そうと思う。後悔という言葉は余りポジティブに捉えられる事が無いけれど、悔いた分を反省してその後に生かせれば、こんなに良い事は無いのかも知れない。 目覚めの悪い朝は、たった数分のテレビ映像で全く清々しい朝へと豹変し、眠っている間に叶えられなかった前日の希望は、目覚めてすぐに叶えられた。こんな日は、いつもより少しだけ楽しい。 ◇ね、眠い◇ 6.1僕は、酒に弱い弱いと書いてきたけれど、現実的に営業部という部署に所属している以上、飲む機会はそれなりにある。取引先の接待もそうだし、会社内の潤滑油として飲み会をセッティングする事もあるから、全く飲めないという訳では無い。ただ、無茶苦茶弱いというだけだ。 今日も、同じ部署の仲間が一人退社する事になり、その送別会が行われた。弱いのだけれど、結局回りに飲まされたり、勢いがついて自ら飲んでしまったり、結果的に自分を律する事の出来ない弱い人間がただそこには居る。だので今日は、アルコールが体内を駆けめぐり体温を上昇させ、思考回路を破壊しているから、どうやらまともな事が書けないらしい。マリ戦も見逃し、恐らくイングランド戦まで起きている事は不可能だろう。 まあでも、ウラワの試合を見られない事に比べれば何て事はない、二日酔いと寝不足で体調を崩すよりはよっぽどましなので、今日は早々に床につく事にする。良い夢が見られますように。 |